家
俺達は宿屋を出たのだが、定番の台詞を言われなかったことに憤りを感じている。
まぁ、さすがに昨晩ではなく『34日間もお楽しみでしたね』とは言いずらいから仕方ないのかもしれないが…
「ねぇ、シュウ。」
「ん? どうした?」
「私達ってやっぱり家を買った方が良いと思うの。」
「そうだなぁ…でも、ずっとダンジョンに行ってると掃除とかってどうしよう…」
「誰か管理してくれる人に頼むとかでも良いんじゃないかな?」
「う~ん。とりあえず聞きに行ってみるか。」
「うん♪」
俺達は冒険者ギルドへ行ってみることにした。
中に入ると、さすがにお昼過ぎの時間だったため、ガラガラだった。
早速何処の受付に並ぼうと思ったら、全員から目を逸らされてしまった。何故!?
「あの~」
「ひぃ!!」
ブルブル震えていて、会話にならない。
「どうしよう?」
俺が困っていると、横から声を掛けられた。
「あ、あの、シュウ様? な、何か御用でしょうか?」
声を掛けられたので振り向くと、ロゼッタさんが居たのだが、何故か物凄く震えている。
「ロゼッタさん。助かった~
でも、どうしたんですか? 寒いんですか?」
「い、いえ、こ、これは、武者震いです。」
「は、はぁ、それは大変ですね。」
「そうなんです! 大変なんですよ!!」
思いっきり睨まれたけど、何で?
「それで何の御用でしょうか?」
「そうだった。えっと、家を買いたいなと思うんですが、どうすれば良いのか分からないので聞きに来ました。」
「家ですか?」
「はい。」
「あれだけ稼いでいたのに持ってなかったんですか?」
「はい。」
「そうですか…」
何でか知らないが、思いっきり溜息を付かれてしまった…
「それで、どうすれば良いんでしょうか?」
「あ、はい。一応冒険者ギルドでも、冒険者用の家の斡旋は行ってはいるのですが、どの様な家を希望しているんですか?」
「えっと、最低でも寝泊まりさえ出来れば良いかな? とりあえず大きなベットは買いたいなとは思っていますので、それが入るサイズなら特に指定は無いです。」
「少々お待ちください。」
ロゼッタさんが何か不動産関係らしいファイルを確認している。
「今、紹介できそうな物件はこの3件ですね。」
「確認してみることって出来ますか?」
「では、誰か案内を…」
ロゼッタさんが周りを見ると、全員がサッっと目を逸らされていた。
ロゼッタさんって部下に人気が無いのか? 可哀相に…
ロゼッタさんも、そんな部下の態度に顔が引きつっていた。
「…………ぐすっ…」
あ、泣いちゃった…
仕方がない、俺だけでも優しくしてあげるとするか。
「ロゼッタさん、泣かないで下さい。
折角の綺麗な顔なのに、勿体ないですよ。」
「………ダレノセイダトオモッテルンダ。」
「え?」
「何でも無いです…」
「そ、そうですか。」
今、とてつもなく怖いセリフが聞えたが、これは直感で聞いてはイケナイことだと思った。
「では、私が案内致します。」
どうやらロゼッタさんが案内してくれるみたいだ。
「お願いします。」
こうして、俺達は家を見るためにギルドを後にするのだった。




