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ロストハーツクロニクル  作者: すずめ
第2章 望まぬ再会
29/85

15.決別と優しい思い出

2章11話のタイトル変更しました。漢字間違えてました。

それで気づきましたが、私2章のタイトルも漢字間違えてたんですよ。なんだこのポンコツさ加減。

2章タイトルは「望まぬ再会」です。


13、14話見ていただけたでしょうか。もう本当にこれが書きたくて書きたくて仕方ないという話数でした。ぜひ、ぜひ見てください!

「こいつはなかなかに面倒臭い奴でな。従順なふりをしてどこかで機会を伺っていた。『鎖」への潜入を命じるまでは完璧に隠せていたようだが、ついにはぼろが出た」


 アーデスは真正面を指差した。

 指の先にいるのはユウヤ、そしてリズ。

 何のことかと思ったが、ユウヤはこの男と全く関係がない。見たことすらないのだ。

 そうなると、該当するのは。


「それが貴様だ」


 ーーリズ。


「私は一度、こいつを問い詰めた。カラーズでありながら主人の私を裏切るつもりかと。最後までしらばっくれていたがな」


 にやり、と嫌な笑みを貼り付けたアーデス。


「だからこう言った。ーー大事な相棒を失いたくはないだろう、と。あの時の反抗的な目には多少腹が立ったな」


 ようやく理解が追いついた。


 これは脅迫。エルという男は、人質を取られていたのだ。それが、リズだった。


「あれは傑作だった。血相を変えたあの顔。見せてやりたいものだ」


「お、前はぁぁぁぁ!!」


 リズは腕を振りかぶって飛び出し、アーデスへと向かうがそれを男が阻む。


「どいて! どいてよ、エル! 私はこいつを殺さないと!」


 両腕を掴まれたリズは男に向かって叫ぶ。

 力比べになってしまえば、どう考えてもリズの分が悪い。

 このままでは、リズが負ける。


「無駄だと言っているだろう。貴様の声は届かない。こいつは既に死んでいるのだから」


「エル! ねえ、エル!」


「……不毛だな。この男は貴様のせいで死に、貴様のせいでここにいるのだ」


「どういう意味だ」


 静かに、即座に尋ねたタクヤに、アーデスは自慢げな顔で答えた。


「貴様はこの男の死体を捨て置いただろう。回収が容易かった。その点、体のことだけを言うのであれば、この男は間違いなく『エル』ではあるな」


「わ、私が……」


 力を抜いてしまったリズに、男は体重をかける。この状態が続いてしまえば、遠くない未来にリズの背骨が折れてしまう。

 ユウヤが助けに向かう寸前で、タクヤが動いた。


「影よ、我が意志に従え。ーーザム・ルーダ!」


 辺り一面に黒煙が広がる。

 視界が遮られ、周囲の警戒に割かれた男。タクヤは男の力が緩んだ一瞬でリズを攫う。


「惑わされるな! 君のせいじゃない!」


 タクヤが一喝するが、リズは耳を塞いで震えている。


「私が、エルを連れて帰っていれば。(かしら)に引き渡せば、こんなことには」


「リズ! ……くそっ、駄目だ。ユウヤ、リズを頼んだよ」


「タクヤ!」


 タクヤは悲しげに眉を下げた後、リズを預けて前に出た。


「お前、いい加減にしろよ。お前の頼みだから、俺はこんなことしてるのに……ッ!?」


 タクヤの怒鳴(どめい)が中断。途中で男が飛び出し、タクヤに強襲をかけたのだ。


 反射的に挙げられた腕は鈍い音を立てて弾かれた。

 十字に防御していたタクヤだが、重ねていた右腕が垂れ下がっている。


 腕を庇うその動き、そして意志とは関係なく不自然に揺れるその右腕が、使い物にならないほどの重傷を負ったことを物語っていた。


「……聞こえないか。そうだよな、お前は死んだんだ。ーーもう、覚えてないか」


 ぎり、と聞こえてきそうなほどに歯をくいしばったタクヤ。


「自分で言っておいて情けないよ。見た目はそっくりだけど、お前はエルじゃない」


 首を振って切り替える。そんなタクヤに向けられた視線は変わらず冷えたままだ。


 タクヤが小さく息を吐き、顔を上げる。

 それを合図に衝突。


 タクヤは右腕を動かすことができない。

 男を最大限引き寄せ、繰り出される攻撃を躱すと手の平をくるりと返した。


「ッ、影よ、我が意志に従え。ーーナザム・ニードル!」


 痛みに顔を顰めながら、発動。影で編まれた一本の鋭く長い針が射出、男に襲いかかる。


「ああ、くそっ!!」


 やはり狙いが狂ったか、針は男の二の腕を掠めるだけに留まった。

 男の勢いは衰えず、そのままタクヤの懐へと潜る。


「ーーお前の動きはお見通しだっての!」


 タクヤはしならせた左腕を、男の耳へ思い切りぶつけた。

 ばちっ、と音を立てたそれは男は怯ませ、数歩下がらせる。男は耳を押さえて顔を上げた。


 今度は命中だ。狙ったのはおそらく鼓膜。


「はは! どんだけ一緒にいたと思ってるんだ、この馬鹿!」


 痛みを感じているのか疑問に思えるほど、タクヤは笑顔だった。もう感覚が麻痺しているのかもしれない。

 そして心なしか、男の視線が殺意を帯びたものとなった気がする。


 目の前の敵を煽るようなタクヤの行動は果たして吉と出るか、凶と出るか。



◆◇◆◇◆



「リズ」


 リズは答えない。ただ呆然と、タクヤと男の戦闘を眺めていた。


「おい、リズ!」


 ユウヤはリズの肩を強く掴む。


 向けられた弱々しい瞳に言葉を呑み込んでしまいそうになるが、そういう訳にはいかない。


「お前の知ってるそいつは、あんなことする奴なのか!? 言ってたよな、初めての頼れる人だって。お前の体術を褒めたって。今のあいつがそんなことするような人間には見えない!」


「でも、あれはエルで……」


「お前を殺そうとして、タクヤとまで戦って、大怪我させて! お前の相棒の『エル』はそんな奴なのか!? お前が信じた『エル』はそこまで最低な人間なのか!?」


 リズが項垂れる。やはり簡単に整理がつく問題ではない。何度でも説得しようと決意し、口を開きかけたその時。


「リズ、逃げろ!」


 タクヤの切羽詰まった声。ユウヤは弾かれたように顔を上げる。


 右腕が使い物にならないタクヤの奮闘は叶わなかった。

 タクヤは膝をつき、顔を歪める。


 リズと会話をしながら見ていた限り、男は執拗にタクヤの右腕を狙っていた。いくら興奮状態にあったとはいえ、その痛みを無視できないまでに追い込まれてしまったのだろう。


 位置関係を考え、次に当たるのは。


「ユア!」


 その声に肩を震わせたユアだったが、決して引こうとはしなかった。

 タクヤのように、リズを守るために立ち塞がる。


「み、水よ、我が意志に従え。ーーアクア・バレット!」


 恐怖に震える声を振り絞って放たれたユアの水弾は男の腹、タクヤの足を掠めて着弾。


「うぅぅ! 無よ、我が意志に従ーーゔ、かはっ……!?」


 喉から悲鳴をあげながら放たれようとした魔術は男の手により霧散、壁に背中を叩きつけられたユアは地面に倒れ込んだ。


「ユア!」


 既に迫る男。

 ちらり、と後ろを見るが、リズの様子は変わらない。

 今のリズに戦えと言うのは酷な話だ。ユウヤは迎え撃とうと走り出す。


 しかし、突然揺れた地面。意識の外からの攻撃に、ユウヤは対応できなかった。


「ぅぐぁっ……!?」


 地面が盛り上がり、ユウヤを上に弾き飛ばす。


 それは忘れていた存在からの一撃。

 這いつくばりながら、手だけをこちらに伸ばしている。


 ーー先程、アーデスを庇った女だ。


 準備もなしに、突然の上昇。


 内臓が迫り上がるような感覚に襲われる。方向を見失わないようにするだけで精一杯だ。


 ついに、男の手がリズに届く。


 髪の毛を掴まれ、強引に持ち上げられたリズは苦悶の表情を浮かべた。


「「「リズ!」」」


 響く鈍痛に耐えながら、呼吸にあえぎながら、落下しながら。


 届かぬことを知りながら、手を伸ばす。



◆◇◆◇◆



『髪、綺麗だね。ここまで伸ばすの大変だったでしょ?』


 ーー面倒臭いから切らないだけよ。


『そうなの? でも似合ってるよ。ーー本当に、似合ってる』


 そう言って淡く微笑んだ過去の幻影。



 ーー長い髪なんて仕事の邪魔でしかない。こんな風に、掴まれてしまえば終わりなのだから。


 それでも、リズは伸ばし続けた。

 手入れだって、毎日欠かすことなく行った。


 エルが褒めてくれたから。


 この髪は、エルとの最後の繋がりだった。


 もうこの世にはいないエルのことが、髪を通して思い出されたのだ。


 それは決して辛い記憶ではない。


 大切な、思い出。



 ーーそれならば、自分の髪を乱暴に掴んでいるこの男は誰だ。



 生気のない目、容赦のない攻撃。


 なぜそれが、自分に向けられなければならない?



 ーー答えは出た。



 リズはナイフを拾い上げ、自分の髪にあてがう。そして、首元からばっさり切り落とした。


 男は力を込めて掴んでいたことが裏目に出た。バランスを崩し、たたらを踏んだ男の胸ぐらを掴む。



 ーーあの時と同じ。ただ、大きく違うのは。



「あなたは、エルじゃない。私の髪を褒めてくれたエルはもういない。ーーだから!」


 薄く濡れた瞳を輝かせながら、なぜか動きを止めた男に向けて決別の一突き。


 男は一度体を震わせたかと思うと脱力し、リズに体を預ける形となった。若菜色の毛束が手からこぼれ落ちる。


「……え」


 無事に着地を成功させたユウヤは愕然とした。


 ーー男が、笑っている。


 決して見間違いなどではない。


 エルと呼ばれたその男は瞳を閉じて、微かに口の端を上げていた。


 ユアからも、タクヤからも見えない。それは偶然にも、ユウヤだけが見ることを許された光景。


 男の口が動いた。


 ーー『ありがとう』、と。


 男の体が滑り落ちる。

 それをぎりぎりで阻止したリズは膝を折り、男を優しく抱きしめた。


「さようなら。ーー私の相棒」


 腕の中で男は砂となり、リズの腕の中から地面へと滑り落ちていく。

 リズは僅かに手の平に残ったその砂を握りしめ、額へ押し当てた。


 それは不思議な行動。日常の中で見るならば不可解とさえ思ってしまうだろう。

 しかし、ユウヤは確かに感じた。


 それにはきっと、ユウヤでは計り知れないほどの何かが詰まっている。


 絆、温もり。そういった暖かな感情が凝縮された、切なくも美しい何か。


 リズは強く瞳を震わせた後、ゆっくりと立ち上がる。


「絶対に、許さない」


 アーデスを振り返ったリズは、先程とは違う。


 ーーもう揺れることはない。


 ーーもう止まることはない。


 相棒との約束を、今度こそ果たすために。


 リズはナイフを持ち直し、構える。そして、真っ直ぐに走る。


 ユウヤも、タクヤも。

 彼女が通る道を開け、背中を見送る。


 アーデスは目を見開き、動かない。突き出した腕は、アーデスへと吸い込まれていく。


 ーーこれで、おしまいだ。


「アーデス様!」


 最後の最後で、リズの刃は届かなかった。


 再び立ちはだかった女によって、またしても。


 ナイフは女の心臓を貫き、しかしアーデスへは届かない。


「……ッ! どれだけ邪魔をすれば……!」


 口から血を吐き出す女にリズが悔しそうに言い捨て、ナイフを引き抜く。女はぐらりと揺れ、その場に倒れた。

 女は虫の息。先の負傷も相まって、もう助からないだろう。


「よ、か……アーデ、さ……、生き、て……」


 血の海となった地面で、女は微笑みながら絶命した。

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