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第一話  人生の終焉

 俺は60歳丁度で生涯を閉じ、一生童貞だった…。



 人は30歳まで童貞を貫き通せれば、魔法使いに成れるらしい。


 それならば、


40歳童貞/魔術師

50歳童貞/魔導師

60歳童貞/賢者

70歳童貞/大賢者

80歳童貞/天地雷鳴士

90歳童貞/魔王

100歳童貞/魔帝

110歳童貞/魔皇

120歳童貞/魔神


 だとして、俺は賢者だな。と考える暇も無く、ある日唐突に、朝、俺は目覚める事が無かった。




 とりあえず生前の略歴の要約を掻い摘んで話そう。

 俺は山奥の田舎町に生まれた。幸運な事に、その町には、小学校、低等学校、中学校、高等学校、大学校が、どれも1つずつあって、遠くに通う事無く全て町内で済ませられた。


 学校が揃っている事で、田舎に暮らしたがっている新婚さんなどがよく引っ越して来る場合が多く、子供の比率は異様に高かった。


 だから友達は多かった。同年代のほとんどが幼馴染みみたいなものだった。

 女の子の友達もいっぱい居たんだし、フラグの1つも立ってくれていたら良かったんだが、生憎なブサメンで、15年間の学生生活では1度も恋人ができる事は無かった。


 体はデブではなかったがガリでもなく、だからと言って中肉中背でもなく、何とも言い表し難い普通な体型だった。身長は163センチ。女の子の平均を少し越えるくらいしか無い。しかも短足。


 運動は平均をやや下回る。高校の時の100メートル走で8秒か9秒。得意なのは側転くらいか。


 勉強は良くなかった。苦手な人の多い、理数系と英語が得意という凄く稀な性質を持ってはいたけれど、それだってめちゃくちゃ勉強している奴らにはかなう訳もなかった。大学校ではその得意科目でやっと赤点回避。


 趣味は読書で、倶楽部活動は中高大と文芸部、委員会も中高大と図書委員。学級委員会なんかは小低中高大全てで学級文庫整理係だ。


 アニメマンガゲームラノベにも少しずつ手を出していた。主にファンタジー。主に旅系の冒険記。

 本オタ程ではないだろうが、周りから見たら立派にキモオタしていたんだろう。彼女出来なかったんだから。……それは顔か。


 性格は、ある程度明るく口数が少ない訳でもない。聞き上手と言われるくらいにはコミュニケーションにも優れた。



 そんな俺は大学校卒業後の20歳の年、やっと町の外へ出て、日本国/連合警備隊ジパングナイツという株式の中企業に就職した。


 学校はエスカレーターだったが、就活で初めてやる入試でも、無難に採用された。まぁ学力関係無い小論文と面接だけだったんだが……。

 

 仕事内容は、各種依頼や契約等での警備だ。幼稚園の警備から天皇陛下のSPまでと、幅広い。


 俺は入社5年目で隊長になった。隊は1から20番隊まであり、俺は14番隊だった。主にライブ会場とかの警備にあたる。

 元隊長が定年退職する時に当時四席で、隊長代理だった俺が、副隊長と三席を追い抜いて隊長に昇進したのだ。遺恨は無かった。5年で隊長になるのは異例の出世だ。まぁもちろん前例こそあったが。


 ちなみに弊社に女の子は3人しかいない。みんなそれなりに可愛くて若くて良いのだが、それぞれ、彼氏持ち・15で出産の既婚者・兼業AV女優だ……。

 未だ春は遠い。真冬は続く。童貞生活。






 そして、更に10年が経ち、35の時、ようやく俺にも春が訪れた。

 仕事帰りに通っていたキャバクラの女の子となんやかんやあって付き合う事になったのだ。


 しかし恋愛経験の皆無な俺には、デート数回でホテルインする勇気も無く、ちょっとした触れ合いだけして1年が経過した。


 普通に考えたら良い大人が付き合い始めて1年もエッチ無しでデートとか、時代錯誤過ぎて有り得なかったはずなのによく我慢してくれたな、と今更ながら彼女に感心してしまう。

 欧米では飲んだ酒場で意気投合してそのままヤリに行く事も少なくないというのに、日本人は奥手過ぎる……特出して俺だが。




 そんな頃だった。次のゴールデンウィークには浅間温泉へ旅行に行こうかなんて話をしていたその時期に、彼女が死んだ。



 ある日の夕方、彼女が仕事に向かおうと外に出た時、アパートからすぐの横断歩道で、居眠り運転をしていたトラックに跳ねられたらしい。

 初めに頭を打った為、苦しまなかったであろう即死が、唯一の救いだった。

 俺はもう3年も待たずに求婚しようと思っていたから、かなりの絶望を味わい尽くした。

 

 葬儀の時、初めて彼女の両親に会った。厳格そうな母親と、優しくも頑固そうな父親だった。

「なんで守ってくれなかったんだ!」と言われるかとも思ったが、さすがに無かった。

 警備員ってのは警察や自衛隊と違って、公務員ではないからな……。

 でも、もし近くに居られていたらと思うと…後悔が消えてはくれなかった。


 号泣していたせいか、後で親御さんから賠償請求額の一割を頂いてしまった。



 

 それから俺は、ただ仕事をして生きた。

 直後は上司も同僚も後輩も、会社さえ気を使ってくれた。5ヶ月間も休暇をくれたのだ。しかも溜まっていた分の使えるありったけめいっぱいの有給を5ヶ月分に割って注ぎ込んだ上でだ。


 当時は、10番隊(中規模有名企業の社長警護など)の副隊長を務めていたので抜けた穴は大きかったであろうに、引きこもらせてくれた。感謝の念が尽きない。

 その間、引きこもってただ布団で寝てたり、溜まってた読書をしてみたり、浅間温泉に行ってみたり、墓参りに行ったり、ただ単に泣いてみたり、スポーツジムに行ってみたり、借りてきた昔のアニメを見たり、

色々やった。悲しみは残ったが気は晴れた。気がしていた。



 その後新たに恋人ができる事は無く、風俗に行く気にもなれず、デリヘルを呼ぶ気もわかず、もちろんキャバクラだってやめた。


 人生の途中、

 愛の告白してくれた後輩が居た。けど断った。

 風俗に誘ってくれた同僚が居た。けど断った。

 上司や親がお見合いを勧めてくれた。けど断った。

 俺は、ただただ働いた。


 52歳の時、金が有り余って会社を辞職、退職金を使って北海道の牧草地の誰も来ない様な所にこじんまりとした一軒家と、広大な敷地を買った。小学校のグラウンド2個分くらいは優に超える。


 俺は木こりと百姓をしながら自給自足をしつつ、職人に作ってもらった窯で、工芸なんかをして過ごした。

 もちろん趣味の読書やアニメマンガゲームラノベも、少しずつ齧っていった。


 引っ越して9ヶ月もしない頃、寂しくなってペットを買った。インコとチワワとハムスター。元々動物は好きなのだ。


 冬の畑仕事が出来ない時期にはチワワと外で沢山遊んだ。


 ある春は、使っていたなかった庭の一角に囲いを作って、簡単に屋根も付けて、ハムスター用の遊園地を作ったりなんかもした。


 インコとは毎日お喋りを楽しんでいた。意味の通る会話は出来ていなかったと思う。

 それでも、ペット達は俺の心を温めてくれた。


 それから数年の後。俺はひっそりと他界した。

 享年六十歳。童貞。


 両親からは毎年連絡が来ていたから、親より先に死んだのだろう。

 死因は分からない。幸福感を持ち孤独でもなく、病気でもなかった。まだまだペット達と走り回っていたのだ。体は健康だったはずなのに。

 

 2080年  俺は死んだ。



第一話 「人生の終焉」 END

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