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ホブゴブリンとのミニマル生活③



「……で、結局みんな、事故ごと全部忘れちゃったっていうオチね……」

「……オチって言うなッ! あとちょっとだったんだぞ、念願の両想いまでッ!」

 週末の市民プールで、省介が嘆く。

 どこにでもありそうな冴えない海水パンツを穿き、低学年用プールの縁に腰かけて足湯のようにしていた。

「まぁまぁ、……まさか花桐ちゃんがご主人様のことを好きだなんて、思いもよらなかったんだから仕方ないじゃない、ご主人様ー」

 省介の足元で、ルンが水中から上半身を出して言う。

 その隣では、ボーハンとブラウニーがマット型の浮き輪に乗ってくつろいでいる。

「そうだぞ比田。この件に関しては、両想いの可能性を全く考慮していなかった比田自身にも問題があるんじゃないのか?」

「……だって思わないだろ、あんなセクハラ行為をした相手を、まさか好きだなんて……」

「……ホントそう。……あの人、……意外に趣味悪い」

「おい、ボー。今、なんつった」

「……別に何も」

「まぁまぁ。とにかくご主人様、また余計なことしちゃったねぇー、あはは」

 ……あはは、じゃねぇよ。

 省介は目に涙を浮かべつつ、ホブゴブリン達を睨みつける。

 ルン達は、なぜかお揃いの旧式スクール水着を着ており、(ルン曰く、「需要」のためらしい)容姿の端麗さと相まって周囲からの視線を集めていた。

 ところで、とルンが切り出す。

「……なんで、この淫乱退魔師が一緒なの?」

 指を指された美七が気分を害したように、

「当然じゃないですかッ。……てか、淫乱じゃありませんッ‼」

 抗議をしようと立ち上がり、はらりと落ちたバスタオルの隙間からグラビアアイドル顔負けの肢体が露わになる。キュッとしまったウエストがその上下の膨らみを強調し、淡い色のビキニに収まる、中学生とは思えない豊かな谷間が何とも妖艶で、周囲の目を釘付けにした。

途端に、ビシャ、と顔に水。

「比田ッ! なにまじまじと凝視してるんだッ! ……こんな胸に見惚れるなんて、やっぱり比田も大きいのが正義なのかッ?」

 顔を真っ赤にして喚くブラウニーと、

「あ、ちょ、みみ見ないでくださいッ」

 と慌ててバスタオルを身体へ巻き付ける美七。

 目のやり場に困って省介が視線を移すと、どことなくニヤニヤしているようなボーハンの無表情と出会い、腹が立つので手刀をいれておく。

 全校集会の前日、自宅アパートへと向かう車の中での、椎名との会話を思い出す。いくら団長の意向とはいえ、退魔師としてルン達を無条件で解放するのはいささか問題があるとのことだった。そのため美七を引き続き省介とルン達の監視役としておくことにしたのだ。

それ以来、美七は半同居人ともいえる頻度で、省介達と行動を共にしているが、もちろん家に泊まるなどはご法度だ。もしそんなことをしようものなら、いつかの椎名の宣言通り、省介の下腹部が大変なことになる。

「……答えてよ比田ッ‼ 比田が好きなのは、大きい胸なのッ? それともッ……」

「……こういう、平らな貧乳?」

 ボーハンがブラウニーの言葉を遮り、後ろから脇に手を差し入れて胸を鷲づかみにする。ひゃあん、とブラウニーと甲高い声がプールサイドに響いた。

「おいお前ら、一応公共の場所なんだから、少しは自粛しろよ……」

 やれやれ、と省介はため息をつくが、

「で、結局どっちが好みなの、ご主人様?」

「……は? いや、それは……」

「……あたしも、き、聞かれていることには、答えるべきだと思います……」

 ……え。

 意外にも興味を示してきた美七に、省介は面食らう。

気が付くと、じゃれ合っていたボーハンとブラウニーまでもが身を乗り出し、省介の回答を待っている始末だ。

(……四対一とは、分が悪い)

 ジーッ、という擬音が聞こえそうな四人の眼差しに、絶えかねた省介が脳内で逃亡プランを構想し始めた時。

「あれぇ? 比田っちッ? おーい。こんなところでなにしてんの……って、え?」

 弾力のある腹を揺らしながら駆け寄ってきた出部が、ズザザッと滑り込む。

 震える手で省介を指さし、

「ひ、比田っちが美少女たちに囲まれているだとッ⁉」 

 驚きの表情で大声を出した。

「何してんだよ比田っちッ‼ コユたんというものがありながらッ‼」

「なッ、別にこれはそういうつもりじゃッ」

「じゃあどういうことなのか説明してくれよッ!」

「……なぜお前にそんな彼女みたいなことを⁉」

「だって、……ほら」

 出部が示す先を見た、省介の心が高鳴る。

 ……は、花桐先輩ッ!

 鮮やかな黒髪をシンプルにまとめ、純白のパレオ付きの水着姿は、さながら海原に舞い降りた女神のよう。

図書委員達に囲まれる水着姿の花桐に、省介の頬が熱くなる。

「どういうことだよッ。なんで花桐先輩がここにッ?」

「図書委員のみんなで来ようって話になったんだよッ。言おうか迷ったんだけど、ほら、比田っち図書委員じゃないし……」

「……比田くん……?」

 花桐の綺麗な瞳が、省介へと向けられる。

「は、花桐先輩……」

 開いた口を閉めるのを忘れるほど、うっとりと見惚れる省介。

 その光景を、不満そうに眺めていた人物が、四人。

 フ、と不吉な笑みが浮かび、

「もう、ご主人様ったら、何よそ見してるのぉー? えーいッ」

 ルンが省介の腰に抱き付き、

「そうだぞ比田ー。僕らというものが、ありなが、らーッ」

「……艦長、抱いて」

 ブラウニーとボーハンは両サイドで腕を組みつけ、

「ええと、ええと、……えいッ」

 後ろから遠慮がちにしがみつく美七の豊満な胸が、省介の背中へと押し付けられる。

「ファッ⁉ ちょ、ちょッ、お前らやめッ……⁉」

 ジタバタと抵抗しようとする省介に、

「え――――いッ」

 四人はその手を緩めようとはしない。

 その光景を目の当たりにした花桐は、

「……あ、なんか、……ごめんね、忙しそうだったねッ。……じゃあッ」

 と顔を真っ赤にして走り去っていく。

「ちょ、コユたーんッ! 比田っちの裏切り者が―ッ」

 その後を追う出部が去っていき、


「――お、お、お兄様が、女を侍らせている――――ッ⁉」


 ピシャアアアアア、と。

 いつの間にか従者を連れてその場に現れた詩咲が、驚きの声を上げている。黒の水着姿で日傘を取り落とし、口元をひくひくさせていた。もはや、省介には突っ込みの言葉すら出て来ない。

 

 ググ、と省介はこぶしを握り締め、


(ヨシさん、……ああまで言っといてなんですが、……でもやっぱり言わせてください)


すぅ、と息を吸い込み、

爽やかな笑顔を称え、


「……お前ら、全員不必要だッ」




                                      了


『ほぶごぶ』はこれにて完結になります。短い間でしたが、ご愛読ありがとうございました!!

続編については、まだ未定ですが、希望などありましたらお知らせください!!

感想、評価等お待ちしておりますので、お気軽にお願いします!!!

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