表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/31

ホブゴブリンとのミニマル生活①


 月曜日、百合が原学園。

 朝の体育館は、待機中の生徒達の喧騒で浮足立っていた。

 Xデーがついにやってきたのだ。

 そう、全校集会。

 省介はクラスの列に並び、開始の時を待つ。

 新聞記事の噂は瞬く間に広がったらしく、興味津々な様子で省介をチラチラと見に来る輩が後を絶えない。

 そんな中、ポン、と肩に手が置かれた。

「……やっぱり、諦めてなかったんだな」

 振り向くと、出部が照れくさそうな顔をしている。

「……聞いたよ。すげぇな、比田っち」

「……普通だろ」

 いやいや、と出部は笑い、

「普通にコユたんのためなら何でも出来る。それでこそ、俺の見込んだ比田っちだ」

 出部がウィンクをして、親指を立てた。

 なぁ、と省介は出部を呼び、

「……近々、俺はまたお前に協力を頼むかもしれない。……その時は……」

 言いよどむ省介に、出部がバシッ、と尻を叩く。

「なぁに言ってんだよ比田っち。……当然だろッ?」

「……デブ……」

「だから俺は、いでべ、だって言ってんだろ? ……晴れ舞台、頑張れよな」

 見るからに上機嫌そうなスキップで、出部が贅肉を揺らして去っていく。

 その後ろ姿に、省介は苦笑する。

(……その時、お前は覚えていないかもしれないけど、な……)

 ブーッ、と。

 スマホがバイブし、確認する。

 ルン達からのグループメッセージだった。


ルン『上機嫌そう、何かいいことあった?』

省介『別に何も。そっちの準備はどうだ?』

ボー『完璧b』

ブー『こっちもOKだb』


 見回すと体育館の観客席付近で、三方向に分かれてスタンバイしたホブゴブリン達が手を振っている。もちろん隠伏の魔法を発動しているので、姿がバレる心配はない。

 本当は今すぐにでも魔法を発動させてしまっても問題はないのだが、

「全校集会ッ、ご主人様の晴れ姿、見たいようッ‼」

 とのしもべ妖精達の要望を省介がしぶしぶ承諾したため、今は待機中だ。

魔法決行は省介が賞状をもらったタイミングで、ということになっている。あれだけ苦労をしたのだから、それくらい記念に貰っておこう、とルン達が執拗に勧めてきたのだ。


ルン『それにしても、ここまで長かったねぇ~☆』

省介『そうだな』

ルン『あれ? もしかして緊張してる?』

省介『嫌われる前の花桐先輩に、もう一度会えると思うと、ちょっとな』

ブー『リラックスして比田。僕らといる時を思い出すんだ!』

省介『遠慮する。疲れるから』

ブー『ひどい(泣)』

ルン『それどういう意味?(怒)』

ボー『艦長、』

ボー『 FU●K 』


 ……オイオイ。

 省介がボーハンの罵詈雑言を咎めようとした時。

 放送委員のアナウンスが聞こえ、生徒達の話し声がスッと引いていく。

 全校集会の始まりだ。

 学校長の毒にも薬にもならない説教の中では、省介や花桐のことが言及され、新聞の件を知らなかった生徒の間から驚きの声が上がった。

「それでは、次に名前を呼ぶ生徒は登壇して下さい」

 省介と花桐が呼ばれ、列をかき分けながら壇上を目指す。好奇の視線とヒソヒソ声を無視して、舞台の階段を上る。

花桐と目が合ったが、小さく会釈を交わすにとどめた。

校長から賞状を受け取り、生徒達の方へ振り返る。

それがルン達への合図だった。

スマホがバイブし、合図が伝わったことを確認した。

 ……よし、後は、下に降りて魔法の発動を待つだけだな。

 軸足を支点にして省介は素早くターンをする。

そのまま足早に階段を降りようとした、その時だった。

キィン、とマイクのハウリングする音がし、


「……あの、……皆さん、聞いてくださいッ!」

 

花桐の声が、会場に響き渡る。

 マイクを奪われた校長もその光景を見上げる全校生徒も、そして動きを止めた省介も花桐の突然の行動に驚き、呆気にとられている。

 一つ深呼吸をした花桐が、

「……あの、皆さんは、私と比田くんの間にあったことをすでに御存じだと思います。……そのことについて、この際ですから、皆さんに言っておきたいことがありますッ」

 ざわッ。

 生徒達の間で、驚きの声が次々と噴出する。

 あまりの予期せぬ展開に、省介はカクカクとロボットのような動きで振り返る。

 ……花桐先輩、何を?

「……SNSでも言いましたが、噂されてるような酷いことは何一つありません。元はと言えば、比田くんに危険な作業をお願いした私のせいなんです。それなのに私、比田くんにあんな酷い態度をとってしまって……。そのせいで皆さんにも、余計な誤解をさせてしまいました。……つまり、私が全ての元凶なんです。だから、私には比田くんへの悪口を咎める資格なんてない、謝るだけで許されるなんて、そんな都合のいいこともない。ずっと、そう思って何も出来ずにいました。……でも」

 じッと、花桐は省介を見つめる。

「……比田くんは、そんな私を責めるどころか、自分の身をかえりみず、命を助けてくれました。優しく微笑みかけてくれました。嫌いになってもおかしくないはずの私に、自分の弱さを見せて泣いてくれました。……そして、私は、……そんな、……そんな……比田くんのコトを……」

 小刻みな呼吸音と、ほんのり赤い頬。

 

「――好きに、なってしまいましたッ!」


……え?


「「「「「「「「ええええええええええええええええええええええええええええッ‼」」」」」」」」



次回、ついに完結です!! 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ