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ホブゴブリンとミニマリスト⑧



足元に魔法円が現れ、

 いつかのつむじ風が二人の前髪を揺らす。

「……我、ルンフェルスティルスキンの名において、コバロスの君に、願い奉る……」

 数回聞いただけのはずの詠唱を、省介は懐かしくすら思った。

 周囲を覆う暗闇も輝く魔法円も、何もかもを親密なものに感じる。

「……我の持ちたる全ての権限をここに開放し、……彼の者へのあらゆる艱難、障害、妨害を駆逐する……絶大な力を与うることを、ここに再提言する……全ては彼の者の幸福のために。……比田省介、……汝は、真に我を所望するか……?」

 繋いだままにしていた手を、省介は強く、しっかりと握った。

「……所望、してやるよ」

 魔法円の光が大きくなり、部屋中が光に包まれる。

 眩しさに視界を奪われる中、省介はルンの手を握り続けていた。

 光が収まって視界を取り戻した頃、

 ドンッ。

 胸のあたりに重い衝撃を受けて、省介は後ろに倒れる。

 何事かと自身の身体を見ると、首元に金髪と青髪がしがみついていた。

「せ、せんせぇ―――ッ!」

「……艦長、一日ぶり」

 うるうると目から涙を零すブラウニーと、相変わらず心情がつかめない顔をしたボーハンの姿に省介は安堵の息を漏らす。

「……待たせたな」

 自由な方の手で省介はボーハンとブラウニーの頭を撫でる。その様子を見たルンがいつものように盛大な抗議をする。

「ちょっとッ! 二人だけズルいッ。ルンもッ、ルンもッ!」

 フン、とブラウニーが不機嫌そうに、

「……ルンフェルはいいじゃないかッ。……先生とッ……その……その……」

 もじもじと先を言わないブラウニーを引き継ぎ、

「……さっきから……ずっと、手を繋いでいるんだし」

 省介と向かい合わせのルンフェルへ、ボーハンがジト目で批難の視線を送る。

「……いい加減、放したらどう? ……いつまで続ける気?」

「……ああ? すまん」

「……うん」

 ボーハンに言われて我に返り、パッと手を放す省介とルン。

 盗み見ると、ルンの方が顔を真っ赤にして自分の手を見つめていた。

 その姿の愛らしさに、思わず省介も頬を紅潮させる。

「おいッ? 何ラブコメみたいな反応してるんだッ、ルンフェルッ。……僕は認めないからなッ!」

「……同感。……自分を差し置いてルートを進めるなんて、許可した覚えない」

 ゴゴゴ、と怒り心頭なボーハンとブラウニー。

 互いに利害を一致させ、結託するかに思えたが。

「おい、ボーハン。比田には僕一人で十分だろう、離れろッ」

「……それはこっちの台詞。……ブラウニーみたいな貧乳、側にいても何の役にも立たない」

「貧乳っていうなッ! 今この状況と、どんな関係があるっていうんだッ」

「……胸に関わりのない状況なんて、存在しない」

「くぅうううー、なんだとぉ―――ッ」

 あっという間に争いになり、掴みあう。

 はぁ、と省介が深いため息をついた。

「……ご主人様……」

 振り向くと、手を身体の後ろで組んだルンが俯いている。

 先程の様子を思い出して赤面しかけるのを、必死で堪えて平静を装った。

「どうした?」

「……あの、あのね……」

「……お、おう……」

「……さっき、……ご主人様が、帰るぞ、言ってくれて、……その、すごく嬉しかった」

 緊張感漂うルンのもの言いに、省介の胸の鼓動が早まる。

「……だからね、……あの、あの……ルンね、……ご、ご主人様のッ」

 ルンの潤んだ瞳が、省介を見上げる。

 朱色に染まった頬が熱をはらんでいるのがわかった。

 ゴクリ、と省介は唾を飲み込む。

 すぅ、と息を吸ったルンが、

「……ご主人様の、パンツが欲しいッ?」

 ガクッ。

 ……パンツて。やっぱりか。

「……ねぇ、お願い。今穿いてるの、今穿いてるのがいいんだようッ!」

「やるかバカッ? やめいッ!」

 下半身にしがみつくルンを引き剥がし、

(……やはり、変態はどんな時も変態だった……)

 省介は、ルンを睨みつける。

 ……一瞬ドキッとした自分がバカみたいだ。

「えへへ」

 そんな省介の心の内を知ってか知らずか、ルンが無邪気な笑みを見せる。

 はぁ、と再びため息をつく省介。

 すぐ側では、ボーハンに恥ずかし固めをかけられたブラウニーが「ひゃあん」と甲高い悲鳴をあげ、涙目になっている。

 その情景を眺め、省介は心の底から思う。


 ……ホント、不必要なヤツらだ。


 ギャーギャー騒ぐホブゴブリン達に呆れつつ、省介は笑った。

 







次回よりエピローグとなります。よろしければ最後までお付き合いお願いいたします!(^^)

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