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どストライク少女は傘がお好き⑤

 



 夜の暗闇を街灯が照らす中、省介とルンはアパートの階段を上がる。

「すっかり遅くなっちゃったね」

「……まったく、お前は本当、不必要なことを」

「えへへー、いいじゃない寄り道くらい。せっかく二人の愛も深まったことですし」

「深まっていないッ。……深まったのはむしろ、お前がミニマリズムとはほど遠い存在だという確信だけだ」

 事実、ルンは両手に大量のコンビニスイーツや、下着などがいっぱいに詰まった袋を持って満足気だ。気が付くとお店に入っていき、省介が彼女を探しているうちに勝手にカード支払いを済ませてしまったのだ。

「もー、ご主人様ったら、照れちゃって。ただいまーッ」

「……ちょっと一発殴ってもいいか?」

 ドンッ。

 突然大きな物音が聞こえた。しかし、誤解のないように言っておくが、省介がルンを殴ったわけではなかった。次いで聞こえるバチバチ、という電気っぽい音やゴーッ、と何か強風でも吹いたかのような音も。いずれも省介の部屋の方から鳴っている音のようだった。

嫌な予感を感じつつ、省介は扉を開ける。するとボーハンとブラウニーが向かい合い、それぞれ蒼いライフル、金色の本(辞書みたいに分厚い)を手に火花を散らしていた。足元には散々暴れまわったのであろう、部屋のものが散乱しており、省介は卒倒しかける。

「……へぇ、なかなかやるじゃないかボーハン、この僕と互角に戦うなんて」

「……そっちこそ、この近距離で自分に仕留められてないのは、評価してあげてもいい……」

「うおおい‼」

 慌てて間に割って入り、省介が両手を広げる。

「お前ら、この狭い空間で何してくれてんだッ‼」

 その時。


 ドンドン、ドンッ!

 

 玄関の戸が重厚な音を立てて叩かれる。

 この叩き方、このリズム、音から伝わってくる込められた怒りの感情。

……間違いない。

「……お隣さんだ」

(ついに、直接文句を言いに来られてしまった)

「ど、どうするのご主人様?」

「どうって、頭下げるしかないだろ、この状況」

 扉に相対する省介の脳裏に、全身に入れ墨を掘った剃りこみ頭のヤクザの恫喝や、顔を小じわで歪めながら、ネチネチと文句を言うオバサンの様子が、次々と浮かんでくる。

 鳴りやまない扉の打音へ挫けないよう、きっと歯を食いしばる。

 ガチャ。

省介は扉の鍵を開け、扉を開く。

途端に、声が聞こえた。

「――今、何時だと思ってるんですかッ、最近いつもいつも深夜早朝にうるさいんですもう我慢できませんッ、静かにッ、してくださいッ…………って、……え?」

 そこにいたのは、ヤクザでもオバサンでもなく、

「あ……」


 昼間に図書館で遭遇した、あの女子中学生だった。


「えええええええええええええええええええええええええええ―――――――ッ⁉」

「あああああああああああああああああああああああああああ―――――――ッ‼」


 いかにも寝間着です、というようなスウェット姿の少女が省介達を指差し、

「ちょ、ちょっっっっと、なんであなた達がここに住んでいるんですかッ⁉」

「それはこっちの台詞だッ、どうして君が俺ん家の隣にッ⁉」

「はッ、そうだッ。……ちょっとッ、待っててくださいッッッ‼」

 電光石火のような速さで隣の扉が閉まり、またもう一度開く。

「お待たせしましたホブゴブリンッ。昼間の借りはしっかりとここで返させてもらいますッ‼」

「……ぬあ、ちょ、君ッ」

 再登場した少女の格好を見た省介は、慌てて目を逸らす。

 それもそのはずだ、少女が着ていたのは地味な魔女っ娘ワンピースだったが、どうやらサイズが小さすぎるらしく丈は極ミニで中が見えそうだし、おまけにピチピチなフィット感が彼女の胸のふくよかさを強調している始末。

目のやり場に困らないはずがなかった。

「ちょっとーッ! なに色目使ってるのよ、この淫乱退魔師ッ! ご主人様を誘惑しようったってそうはいかないんだからッ」

 ルンの抗議に、少女は、ええ、と顔を真っ赤にし、

「……や、やだ、いやらしい目で見ないでくださいッ」

「見てないッ、そしてそれはあんまりだッ! 人に見られたくないのに、何で着替えてまでそんなカッコしてるんだッ」

「し、仕方なかったんです、さっきローブを洗濯しちゃって、着られるのはこのお古しかなかったんですからッ!」

 極ミニの裾を片手で押さえ、少女が喚く。

(……それってつまり、この数年間で急速にたわわ化したってこと?)

 まじで、と淫猥な妄想に思考回路を奪われる省介を、ルンが足蹴にした。

「ご主人様ッ、何こんな時に鼻の下伸ばしてるのッ、ピンチだよピンチッ」

「……はッ、いかんいかん」

 我に返った省介が、少女の前で頭を下げる。

「……騒音の件については、心から申し訳なかった。それは認めるし、謝る。何ならお詫びの粗品だって持って伺いたい気分だ。……だがな」

 頭を上げ、少女と正面で向き合う。

「こいつらのことは、……諦めて帰ってくれないか?」

「……なるほど。……ですがもし、断る、と言ったら?」

 少女の目元に厳しさが増し、持参した黒い洋傘が握られる。

 その場をいつにもない緊張感が漂った。

「……それなら」

省介の言葉を、

「……徹底、抗戦ッ」

 ルンが引き取った。

「退魔傘ッ‼」

 ガキンッ、と鈍い金属音がして、少女の傘が開く。

 傘布に描かれた魔法陣が光を放った。

「ショット、レイヨンッ‼」

「ご主人様、危ないッ」

 ルンに押し倒され、省介は床に寝そべる。

 そのすぐ上をレーザーのようなものが通り過ぎていく。

「……プロテージッ」

 いつの間にか姿を現したブラウニーの詠唱により、その光線は見えない壁に吸収された。

「……なら、」

 少女が閉じた傘を持ち替え、振りかぶる。

「エペ」

 傘が開いた瞬間、ハンドル以外の部分が長剣へと姿を変える。

 そのまま倒れこんだルンに斬りかかろうとし、

「……上等」

 ボーハンがコバロスの長銃で受け止め、応戦する。

 その隙をついて、

「トネールッ」

 ルンが雷を少女へ放つが、

「退魔傘、ディフォンドーッ」

 少女が後ろ手でもう一つの傘を開き、障壁が生じたために目標へは届かない。

「はぁッ!」

 キン、と鋭い音がして、

「……ッ」

 ボーハンがスクール水着の脇を露出させる。

「ボーハンッ」

 焦ったブラウニーが詠唱を中断してしまい、

「退魔傘、レストリクシオンッ」

「うわぁッ」

 少女の傘が開いてブラウニーを鎖で縛りつける。

 ホブゴブリン三人を相手にしても、少女は呼吸すら乱れていなかった。

「……本当に、不思議でなりませんッ。これほどまでに危険な存在へ、なぜあなたが加担しているのかが……」




最近花粉症になりました。その辺の雑草でも人間へ生存競争を挑んできてるのか、と。……もうやだー雑草怖いよ~(/_;)

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