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脱衣場でホブゴブリン

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 ――全裸の童女が、ウチの脱衣場でパンツを被っている。

 

 早朝、午前五時三十分。

 比田省介ひだしょうすけはピタリと身体を静止させ、軽く咳払いをして状況を確認してみる。

 一人暮らしの狭い賃貸アパート。

 その中でも一際狭い脱衣場の鏡には、貧相な男子高校生のパン一姿が映っている。省介には同居人も彼女もいない。よってここにいるのは自分だけのはず。

 ……の、はずだったのだが。

「……」

「……」

 目の前の不審な輩と目が合った。

 ふわふわウエーブのピンク髪ツインテ―ルが映える、顔立ちの整った女の子だった。肌色一色のその身体は小柄で、パッと見小学生くらいだろう。恥ずかしがりもせず、怖がりもせず、ただキョトンとした表情をして、澄んだ大きな緑色の瞳で省介を見つめている。  

 何がどうなっているのか、省介にはまったく分からない。ただ一つわかることは、彼女が被っているのも、右手で宝物のように抱きしめているのも、間違いなく省介のパンツであるということだけだ。

「……あの」

 省介の声に反応し、童女が口を開く。

「……みえるの?」

 擦れた細い声が、省介の耳に届く。

「…………え?」

「あなた、ルンのことみえるの?」

「……ええと、その……ルン、って?」

 童女が身を乗り出し、

「わたしの名前、ルンフェルスティルスキン。あなた、本当にルンのことみえてる?」

「……ああ、みえてる、けど……」

「ほん、と?」

「……お、おう」

 省介が肯定を重ねると、童女は両手を頭上に突き出し、

「や、やっったぁぁぁぁ――――――――――――!!」

 

「……え」

「やった、やった、ついに、ついにだようー!! はぁ―――!!」

 唖然とする省介の目の前で、童女が何度もジャンプを繰り返してピンクのツインテールを揺らし、まかれたパンツが宙を舞う。

「ええと、おい……?」

 一体どういうことなのか、全く理解が追い付かない。なぜこの不審人物は自分が発見されたことを、ここまで喜んでいるのだろうか。

「ううッ」

 かと思えば気が付くと裸の童女は涙ぐんでおり、省介の両手を取ってブンブンと握手をしている。

「……見つけてくれて、ありがとうッ! ――ご主人様!」

 言われたことの意味が入って来ず、省介は思わずフリーズした。

「……い、今なんて?」

「ご主人様」

「ご、ごしゅッ!?」

「ご主人様ッ♪」

 裸の童女は省介の両手を離し、その手を腰に回してぴたりとくっついてくる。

 不意に押し付けられる温かさに動揺し、絡みつく童女の魔手を引き剥がす。

「な、お前急に何をッ、……って、……ん?」

 改めて童女の姿を眺め、省介は違和感に気が付いた。

(……なんだ? 全裸に動揺して気づかなかったけど、この娘の耳、妙に長くて尖ってて、まるでゲームの世界に出てくるみたいな……)

 後ろに距離をとり、訝しげに省介は尋ねる。

「……お前、何なんだ?」

 省介の問いに、童女は目を線にして微笑み、答える。

「――ホブゴブリンだよ、ご主人様ッ」




 



この度は、お読みいただきありがとうございました! よろしければ続きもご覧いただけると感涙です!!

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