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第七話。おかえりなさい、そして、いらっしゃいませ。

「大変だったんですね。ありがとうエルさん、教えてくれて」

 迷ったような表情で少し考えて、ブルカーニュは

 フォニクディオスの頂点としての判断を告げた。

 

「どうやら、わたしは戻らないといけません。あなたをおうちまで送りたいのはやまやまなんですが……」

 ごめんなさいと頭を下げて背を向けた。

 

 

「待ってっ」

 飛翔するため地面を蹴ろうと身体を鎮めたところで、エルの声が呼び止めた。

 

 その声は、ようやく出せたと言うような苦しさを伴いながら、それでも力強かった。

 だからブルカーニュは動くのをやめた。

 

 

「なんですか?」

 不思議そうに首を向ける。すると、一つゴクリと生唾を飲んでから少女は、

 左の前腕を右手でさすりながら、また何度も深く息を吸って吐いてし始めた。

 

 

「わたしも……つれてってくださいっ」

 

 

 息の吸い方を間違えたのか、言い切ったところで派手にむせかえっている。

 そんな少女を不思議そうに見てから、ブルカーニュは気を取り直して

 決断を伝える。

 

「今、フォニクディオスは、どうやら大変です。

そんなところに子供のエルさんをつれていくわけには」

 いきません、と言おうとしたがそれを遮るように、また表情を固めた状態で

 エルが言葉を紡ぐ。

 

「ゆるさんを……竜凰様をここにつれてきたのはわたしです。

わたしはこの状況を作り出した責任をとらなきゃいけないんです。

だから……だから。なにもできないけど。でも……」

 

 また勢いよく両手を地面に叩きつけ、額すら地面に打ち付けそうな勢いで、

 「おねがいしますっ!」とエルは頭を下げた。ブワッと彼女の金髪が、一瞬膨れ上がるほどの勢いだ。

 

「見届けさせてくださいっ! お金ほしさに御山に危険を持って行かせたわたしの。

子供のわたしができる、責任のとりかただからっ!」

 

 そのあまりに痛々しい様子を見て。ブルカーニュは、ゆっくりと少女の方に体を反転させる。

 

 

「わかりました。エルさん」

 優しく、しかし力強く視線を向ける。

「あなたの覚悟、たしかに受け取りました。乗ってください」

 その声は間違いなく、フォニクディオスの頂点に立つ竜凰りゅうおうの威厳を持っていた。

 

 

「……ありがとうございますっ」

 ガバリと体を起こしたかと思うと、そう言ってまた体を半分折りたたむようにして

 頭を勢いよく下げた。再び少女の、綺麗な金髪がブワリと波打った。

 

「あぶなっかしいので、その動きはやめてほしいです」

 困ったように笑うブルカーニュは、いつものゆるさを取り戻す。

 

「いいですか? 今回は速度を速めます。

首を掴むだけではあぶないかもしれません」

 再び反転し、進行方向を住処へと向けたブルカーニュは、そう忠告する。

 

「じゃあ、どうしたらいいんですか?」

 またがってからそう問うエル。戸惑う声のエルに一つ頷くと、

「そうですね。首を抱きしめながら、腹這いになっておくといいかもしれませんよ」

 と体勢を提案する。

 

「わ……わかりました」

 どうやらこの少女は、緊張すると口調がかわるらしいとブルカーニュは分析した。

 

 

「わぁ。座ってた時は気が付かなかったけど。

ゆるさんって、あったかい。ぽかぽかしててきもちいい」

 嬉しそうな声になったエルに微笑む。声といっしょに空気は来ないし声もこもっていない、

 更にエルの顔の辺りに柔らかな感触があることで、

 エルは横を向いているんだなとゆるさんは理解した。

 

「これでもわたし、火竜ですからね」

 そう少し誇らしげに返してから、

「それじゃ。いきますよ」

 よ と同時に地面を蹴った。

 

「しっかり掴まっててくださいね!」

 動き始めたその速度の速さに、

「きゃああっっ!」

 またエルは悲鳴を上げた。

 

「ゆるさん速い! 速すぎますうううっ!!」

 だがしかし今回は、楽しそうな雰囲気のない、本気の悲鳴だった。

 

 

***

 

 

「ゆるさん?」「ブルカーニュおねえちゃーん!」

 フォニクディオス火山に入ったところで、速度を緩めたブルカーニュ。

 エルが安堵したような大きな息を、ふうぅと吐き切ったところで

 下から声をかけられた。

 

 

 現在地が湖の辺りだと今の声で理解したブルカーニュは、

「アズラッティちゃん、カスクちゃん。よかった、

川側には行ってなかったんですね」

 心から安堵した表情と、表情を音にしたような、

 ほっとした息を伴った声を出した。

 

「今の、知り合い?」

 飛行してから体中に力が入っていて、言葉をまったく発さなかったエルが、

 疲れ切ったような声で問いかけて来た。

 

「はい」

 エルの休憩も兼ねて一路水竜姉妹と話をしようと、

 ブルカーニュは降下する。

 

「ゆるさん、ずいぶん早かったね。もう迷子さん、送って来たの?

そんな速度だと人間って耐えられないんじゃない?」

 前半身を湖から岸に出して、アズラッティが声をかけて来た。

 カスクも同じかっこうで、水から前半身を出している。

 

 ブルカーニュが答えるよりも早く、彼女の背中から転がり落ちるように

 エルがゆるさんから降りた。

 

 

「あ、ほそいの。でも、お水の中から見たのと違う」

 カスクがエルの姿を見て首をかしげた。

 

「あれ? それって、迷子さんだよね?

なんで乗せたまま帰って来たの?」

 アズラッティも首をかしげた。

 

「わぁ、真っ白」

 疲労は残る歩き方ではあるが、その僅かに水色の入ったカスクの純白に、

 魅せられたように近づいて行く。

 

「この、細井の。なぁに?」

 不思議そうにエルを見つめるカスクは、誰にでもなく問いかけているようだ。

 

「それが人間って言うんだよ。今後ろで暴れてるのと同じ人間」

 アズラッティがした端的な説明に、カスクは後ずさる。

 

「大丈夫だよ。わたし、悪いことしないから」

 怖がられてしまったことに悲しさを覚えたエル、

 なんとかして真っ白なドラゴンの警戒を解こうと言葉を駆ける。

 

 しかし、首をふるふると横に振られてしまった。

 

 

「ごめんね迷子さん。カスク、さっき見た冒険者たちで

人間を見たのが初めてだったんだ」

 

 申し訳ないと言う調子で言う、白いのの隣の水色ドラゴンに、

 そうなんだと落ち込んだ表情でエルは返した。

 

「カスクちゃん。エルさんの言う通りですよ。

この子は悪い人間さんじゃありません」

 ブルカーニュの自信ある声色に、不安な瞳で

 「ブルカーニュおねえちゃん?」と音を返すカスク。

 

「大丈夫です。だってこの子は」

 ゆるさんは柔らかな声色で、子守歌でも歌うかのように エルとの交流を。

 エルがここに来ることになった理由を話して聞かせた。

 

 話を聞きながら、カスクは少しずつ岸に体を近づけて行って、

 「だから、大丈夫なんですよ」と言う話の締めくくりの言葉を聞くころには、

 すっかり前半身は岸に乗せていた。

 

 

「触っても……いい?」

 近付いて来たのを警戒が解けたと思ったエルは、遠慮がちに尋ねた。

 一秒ほどの間。エルにとってはとても長い間を経て、

 白い竜は恐る恐るゆっくりと頷いた。

 

 

「よかった、ありがとう」

 しゃがみこんだエルは、また膝をついた座り方をすると

 白い竜の両方の前足に両手を乗せた。

 

「またその座り方ですか?」

 顔をしかめるゆるさんに振り返ると、エルは頷いて理由を言った。

 

「だって。こうしないと握手しにくいから」

 三匹同時に「握手?」と首をかしげた。

 

 それに驚くやらそれがおかしいやらで、

 エルはうははっと吹き出してしまった。

 

「こうやってね。手と手をギューって握るの。

『なかよし』って言葉のかわり」

 白いドラゴンの指と指の間に苦労して指を滑り込ませたエルは、

 そこに奇妙な物があるのに気付いて「ん?」っと疑問の声を上げる。

 

 

「そういえば、人間にも水かきってないんだね。ぼくたち水竜が珍しいのかな?

ゆるさんたち火竜にも他の竜や生き物たちにも、あんまり見かけないから」

 

「水かき? ……あ、ほんとだ。これ、水かきなんだ。面白ーい」

「ツンツンやだぁ」

 

 スッと手をひっこめられてしまって、

「あ、ああ ごめんね。つい、面白くって」

 と苦笑で謝るエル。

 

「む」

 パシンと、今度は逆にカスクがエルの手を上から抑え込んだ。

 

「あはは……嫌われちゃったなぁ。でも、右手が残ってるもん」

 いたずらを思いついたと言う、楽しげなニヤリな笑みをしたエル。

 自分の手を抑え込んでいるカスクの左手に、自分の右手を重ねた。

 

「むっ」

 対抗するように、カスクも右手をエルの右手に重ねた。

 

 

「よし。これで握手したよ、普通のとは違うけど。

これでなかよし」

 してやったり、と笑顔になったエル。

 

 一方のカスクは少しの間ほっぺたを膨らませていたが、

「ツンツンしないなら、いい」

 としぶしぶながらなかよしを認めるのだった。

 

 

「やったぁ!」

 スルッとカスクの手サンドから手を引き抜いて、

 エルはパシンッと両手を打ち合わせて、喜びを全身で表した。

 

 

 

 そんな少女の様子を見て、アズラッティとゆるさんは

 声を出して柔らかに笑った。

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