表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/19

第六話。少女の告白と竜凰の憂い。

「降りてください」

 声に硬さを感じたブルカーニュは、、ゆっくりと速度を落として滞空に切り替える。

 

「どうしたんですか人間さん、もう町が見えてますよ?」

 滞空したままで顔を少女の方に向けると、表情が固まっている。

 

 緊張しているんだと、その中途半端に開いている口と、

 動かずまばたきしない目から察することができた。

 

「……話が、したくて」

 そよ風にさえ負けそうな、けれど苦しそうな声を聞いて、

 顔を正面から地面へと向け ゆっくりと高度を下げるブルカーニュ。

 

 顔を下に向けたのは、地面との距離を確認するためだ。

 着地し少女が降りたのを確認したブルカーニュは、

 向き直ろうとするが少女に首をやんわりと抑えられる。

 

 ん? と疑問の声を発すると、少女の方がブルカーニュの正面に回り込んで来た。

 

 行動の真意を掴めずに見ていると、

 少女はブルカーニュと視線を合わせるためなのか、しゃがみ込んだ。

 

 そのしゃがみ方は、足をブルカーニュとは反対側に折って、膝を地面につけている。

 

 

「あの、痛くないんですか?」

 不思議な座り方に疑問符を向けると、苦笑いしてから少女は答えた。

 

「真剣な話をする時、こうすると真剣な感じが

よく伝わるって聞いたから」

 

「……人間さんの考えは、よく、わかりませんね。

見てて痛いので、普通に座ってくれませんか?」

 困ったように言葉を返したが、少女は首を横に振った。

 

「そういうお話だから」

「そう……いう?」

「真剣なお話、です」

「なるほど」

 

 頷きはしたがブルカーニュ、

「せっかく綺麗な足なのになぁ」

 そう言いながらもったいなさそうに少女の足を見る。

 

 少女の顔が赤くなっていることには気付いていない。

 

 

「それで、どんなお話なんですか?」

 少女のまねのつもりで、地面に体をつけて尋ねる。

 

 しかし少女には、疲れて球形しているように見えている。

 が、ブルカーニュは気付いていない。

 

 

「実は……」

 切り出した直後、少女は深い息を数回繰り返す。

 何事だろうと見ているブルカーニュ。

 

 すると、少女が思い切ったように、大きく一つ頷いた。

 ーーそして。

 

 

「ごめんなさいっ!」

 勢いよく頭を下げ、同時に両手を地面に叩きつける少女。

 太陽に輝く彼女の豊かな金髪が、バサリと持ちあがった。

 

「ほにゃっ?!」

 唐突なものすごい謝罪に、ブルカーニュがビクッと体を跳ねさせる。

 

 

「どっどどどどうしたんですかっ体を折りたたんだりしてっ?!」

 目をパチパチしながら、翼をバタバタさせている。

 

「それに、ごめんなさいってどうゆうことですかっ??」

 バッサ バッサとゆっくりと翼の動きを落ち着け、

 まばたきの間隔も少しずつ大きくなり、

 そうしてブルカーニュの動きは、ようやく落ち着いた。

 

 

「実は……」

 顔を上げると、少女は一つ咳払いしてもう一度改まると、

 ブルカーニュに地上に降りてもらった事情を話し始めた。

 

「わたし……悪いことしました」

「悪いこと?」

「あそこにわたしがいたのは……迷子なんかじゃ、ありません」

 

 口調がかわったことを不思議に思いつつ、

 どういうことですかとブルカーニュは続きを促す

 

「わたしは、ボルカディアの外から御山……えとフォニクディオスに、

いい素材がいっぱいあるって、噂を聞いて来たって言う

冒険者の人たちに頼まれたんです」

 

「頼まれた、ですか? あの道を歩くことを?」

 またまばたきを何度かしながら尋ねるブルカーニュ。

 頷かれたことで、まばたきが数秒の間続いた。

 

 わけがわからない、と言う困惑である。

 

 

「理由はゆるさん。あなたを御山から離すためです」

「わたしをフォニクディオスから離す? そんなことを

どうして考えたんでしょうか?」

 

「わかりません。わたし……お小遣いがほしかっただけで、

ちゃんとは詳しいこと聞いてなかったから」

 苦笑して答える少女。

 

「おこづかい……って、なんですか?」

 聞いたことのない言葉を、左に首をかしげながら尋ねると、

 少女は目を少しの間大きく見開いた。

 

 そしてブルカーニュと同じように、何度かまばたきする。

 

 

「え、ええっと……お金って、知らない?」

 頷く。口調が砕けた物になった少女に、ブルカーニュは少しだけ

 自分の気持ちの張りつめが緩んだのを感じた。

 

「お金はううんと……人間には、なくっちゃいけない物で……

それを持ってないと、なにも持てないの」

「ふむぅ。よく、わかりません」

 

「ううう。えっと……ドラゴンさんたちの

魔力みたいな物だって、思ってくれればいいかな」

 

 困った末に、なんとかひねりだしたと言う様子である。

 自信なさげに言う少女の言葉を受けて首の角度を元に戻して、

 ふむふむとブルカーニュは三度頷いた。

 

「前払いでいいって言ったから、わたしはゆるさんを御山から離すために

あの道を歩いてたの」

「つまり、今火山うちに来ている冒険者おきゃくさんは、どういう理由かはわかりませんが、

わたしがあのままいては困ると。そういうことなんですね」

 

「うん、そうみたい」

「そうですか……」

 はぁ、と悲しげに一息吐いたブルカーニュ。

 

 

「それで。人間三」

「エル。エル・クレインブリッジ。わたしばっかり名前知ってるんじゃ、

不公平だから」

 

 ふぅとこちらも一息吐く少女エル。

 ようやく言えた、と言う感じのスッキリした表情だ。

 

 そうブルカーニュは感じとった。

 

 

「では改めまして、エルさん。どうして今、わたしを降ろしてまで

そのことをお話したかったんですか?」

 柔らかな声色で問いかけたブルカーニュに、

 うんと一つ頷くと、理由をエルは話し出した。

 

「我慢、しきれなかったの」

「我慢、ですか?」

「うん。嘘で竜凰りゅうおう様を動かしてるってことが」

 

「嘘。あそこにいたのが迷子じゃなかったこと、ですか」

 確信を持って、確かめるように尋ねると、エルは頷きを返して来た。

 

「それに、怖くなったんだ」

「怖い、ですか?」

 

「うん。一人で御山への道を歩いてて、ふ っと考えたの。

あの人達、どうしてわざわざ竜凰様を御山から離そうなんて考えたんだろう、

って。本当に竜凰様を御山から離してもいいのかなって」

 

「それで?」

 柔らかに続きを促すブルカーニュ。一つの頷きを相槌に、エルは話を続けた。

 

 

「もしかしたらあの人達は、御山に悪いことする人達なんじゃないのかなって。

だから、このまま歩いてたらいけないんじゃないかなって」

 

「そうなんですね」

 エルの言葉に、ブルカーニュはこの少女が

 フォニクディオスを大切に思ってくれている、

 自分が好きな考え方の人間だと笑む。

 

 

「ん? それならどうして、おうちに帰らなかったんですか?」

 率直に、生まれた疑問を返した。そうしたら、

 「う」とエルは言葉を詰まらせた。

 

 

「それは……その……」

 一秒ほどの間を置いて言葉は返って来た。しかし言おうか言うまいか考えるように、

 エルは空に目線をやって二の句をしぶっている。

 

 ブルカーニュは言葉を待つ間、少し霞んで

 はっきりとは見ることができない住処に顔を向けた。

 

 

「……そうなんですね。ボルカディアの外から来た冒険者は、

過剰な力を山に振るうつもりだったんですか」

 憂いを帯びて、そよ風にも負けるほどの小さな声で呟いた。

 

 ブルカーニュには、フォニクディオスから

 魔力の連続した動きが感じとれたのだ、

 

 それも複数の属性の動きが。

 

 

 短い間隔でその魔力たちは弾けている。それによってブルカーニュは、

 冒険者たちとフォニクディオスが、戦っていることを察知した。

 

 火 風 土、そして水の魔力も感じる。もしかしたら、

 水竜姉妹が加わっているかもしれない。

 

 自宅の状況を知ったことで、竜凰の胸に焦燥感が燻り始めてしまった。

 

 

「あの、ね」

 早く火山かざんに戻らなければ。心配に焦る心を

 少女の控えめな声が現実へと呼び戻す。

 

 エルの声に答えるかわりに、ゆっくりと呼吸を一つして、

 ブルカーニュは顔をエルの方に戻す。

 

 

「お金をもらったから。もらっちゃったから、頼まれたことはやらないと。

でも、怖くって」

「怖い?」

 再び出た怖いと言う言葉を、再び鸚鵡返しするブルカーニュ。

 

「うん。御山が大変なことになっちゃうかもしれないのが怖くって」

 

「そうですか」

「それに……あの人達に怒られるのが怖くって」

「そうなんですね」

 

「うん。だって、あの人の……男の人達。目が怖かったんだもん。

だから……言われた通りにしないと……どうなるのか、怖かったの」

 うっすらと涙を浮かべたエルの瞳を見て、なるほどと竜凰は理解した。

 

 太陽が夜に傾いてから急に忙しくなった今日の理由を。

 

 

「フウジャルくんが顔が怖がってたって言ってたのは、

迷子だから不安だったんじゃなかったんですね」

 確かめるように呟くと、エルは一つゆっくりと頷いた。

 

 

 焦りと共に、竜凰の胸には一つ。

 静かに、怒りの炎が燻り始めていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


関連作品。

異世界転生2D6(ツーディーシックス)
同じ世界の作品、2D6の後半にクロスオーバーする。


小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ