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第四話。ゆるさん大忙し。

「あれは……あのギラギラした怖い目は、ボルカディア外の奴等よそものの冒険者だよ。

まっすぐこっちに向かって来てる」

 ジャバジャバとこちらに水をかき分けて近づいて来ながら、アズラッティはそう真剣な声で告げた。

 

 

 このフォニクディオスのモンスターたちにとって、ボルカディアの外から来る人間たちは、

 ブルカーニュの言うところのお引き取り願う対象なのである。

 

 なぜボルカディアの外からに限っているのか。

 それは、ボルカディア このフォニクディオス火山を中心とする

 周辺地域の人間たちは、モンスターたちが生きるために必要な資源の量を

 

 長いフォニクディオスとの付き合いで理解しており、人間たちの認識は

 共存に不自由ない程度に恵みを分けてもらうと言う物になっている。

 

 そのためフォニクディオスに来る時も、表情には欲望よりも感謝が大きく穏やかなのだ。

 ゆえに、モンスターたちもボルカディアから来た人間かそうでないかは、

 その振る舞いや表情を見れば一目瞭然なのである。

 

 

「そうですか。でも、わたし これからこちら側の方から来てるって言う

人間の子供さんをおうちに送り届けて来ないといけないんです。

 

風要かぜかなめさんたちによそ者さんたちが近付いてることと、

警戒態勢を厳重にと連絡を入れておきますね」

 

 外から来た人間の中でも、こと冒険者は欲望が強く、

 必要異常に資源を漁ろうとし、過剰に生き物を殺そうとすると

 モンスターたちは認識している。

 

 ゆえに、見つけたら戦闘体勢を取るように動くのだ。

 

 

「うん、わかったよ」

 二人の間で交わされるいつもと違う雰囲気の会話に、

 幼いカスクは二人のことを不安そうに、キョロキョロと交互に見回している。

 

「ごめんなさいカスクちゃん。今日 忙しくなっちゃいました。

また今度、お話しましょうね」

 

 左手でカスクの頭をなでながら柔らかに言う。

 そうされても、カスクは目にうっすらと涙を浮かべている。

 

 少しの間不安そうにブルカーニュを見つめた後、

 白く小さな水竜は 小さくうんと声を上げながら頷いた。

 

 よしよしとまたにこやかに言って手を離し、ブルカーニュはアズラッティに視線を向ける。

 

「じゃ、アズラッティちゃん。カスクちゃんのこと、おねがいしますね」

 そう真剣な表情で頭を下げた。

「言われなくても。ぼくの大事な妹だもん」

 力強い言葉に頷き、ブルカーニュは地面を蹴った。

 

 今朝のように突風と共に上空へと消え去った、

 山の頂点の顔だったゆるさんを思い返して、

 アズラッティは思う。

 

 

 「まったく。波の激しい女王様だよ」と。

 

「おねえちゃん?」

「なに?」

「どうして、わらってるの?」

「ん? ゆるさんって、変なひとだなぁって、思っただけだよ」

「ふぅん? へんなおねえちゃん」

 よくわからないカスク。それでもつい今さっきの雰囲気が怖くて、ぴったりと姉にくっついた。

 

 

***

 

 

風要かぜかなめさんっ!」

 六合目辺りに数秒で辿り付いたブルカーニュは、目に入った緑のドラゴンに声をかけた。

 

「おう、既に動いてるぜゆるさん、安心してくれ。

それに俺達風竜は空から見てるんだ。お客さんの把握は

地上したから見るより早い」

 

「なるほど。言われてみれば、そうですね」

 勢いを削がれてしまい、苦笑いするブルカーニュ。

「そういやさっき、フウジャルと俺を間違えたんだって?」

 楽しそうにつっつく風竜 ビユウンに、

 ごめんなさいとビユウンの真下に移動して視線から逃げた。

 

「みんなに警戒するように。おねがいしますねビユウンくん」

 上目遣い ーー 真下にいるため位置関係で必然的にそうなる ーー で念を押すブルカーニュに

 

 ビユウンは、

「了解済みの行動済みだぜ」

 と余裕の調子で一つ頷き、

「ゆるさんは自分の押し事、行ってくんな」

 と逆に促して来た。

 

 念押しをサラリと切り返されて、ちょこっと拍子抜けしてしまったブルカーニュだが、

 気を取り直してビユウンの視界にふわふわと戻ってから言葉を返す。

 

「ありがとうございます。じゃ、行ってきます」

 言うとビユウンに背を向けてこの場を後にした。

 

「まったく。風竜でもねえってのに、なんて速さだよ竜凰りゅうおうってぇ奴ぁ」

 残像だけを残して消えるように飛び去ったブルカーニュに、

 そう呆れたように感想をこぼすビユウンであった。

 

 

***

 

 

「あの子ですね」

 山から少し。平坦な道を速度を落として飛んでいたブルカーニュは、一人歩く人間を発見。

 更に速度を落として、ゆっくりと下降しながらお目当てに接近して行く。

 

「こんにちは、人間さん」

 声をかけると、驚いたようにビクリとした。

 その人間は小さく、不安そうなその表情から子供だと言うことは察しがついた。

 

 高度は現在、人の方からでも、

 ブルカーニュの表情まで確認できるほどの高さだ。

 少し力を込めて飛び上がれば触れられそうなほど。

 

「迷子さんだと聞いてます。おうちまで送りますよ」

 高度を更に下げながら言うと、子供は小さく頷いた。

 

「どうぞ、乗ってください。寝転がりでもしない限り、

人間さんの大人でもだいたいは乗せられますから、心配しなくていいですよ」

 着地してそう言うが、子供は踏み切れずに困った顔をしている。

 

「綺麗ですね。装備している物もぜんぜん汚れてないです」

 子供が身に着けているのは、なんの変哲もない服である。

 

 しかしブルカーニュにとって、人間が身に着けている物は

 たとえ先頭に耐えうる物でなくとも装備品なのである。

 

 身体になにかをかぶせて身を守ると言う感覚がなく、

 加えてフォニクディオス火山に入る人々はすべからく、

 そのかぶせている物のことを装備と呼ぶため、それ以外の呼び方を知らないのだ。

 

 

「それにあなた自身も、綺麗な色です」

「そ……そうかな」

 初めて発された声は、顔をうっすらと赤くしての照れくさそうな物だった。

 その声色の柔らかさから、ブルカーニュは女の子だと判断した。

 

「はい。頭の色が火を感じる色ですし 目は水を感じる色ですね。

属性が混じってるのは不思議な感じですけど、嫌いじゃないです」

 少女は、金髪のセミロングストレートで、水色の瞳をしている。

 

「そんな言い方されたの初めてだよ」

 

 クスクス、笑いを含んだ声でそう返す少女。一つ頷くと、

 それでも恐る恐るな感じで、膝を隠す長さの緑のスカートを気にしながら

 ブルカーニュにまたがった。

 

 子供からしてみれば、色と魔法の属性をくっつけて考えるのは不可解のようだ。

 

 

「あの、ドラゴンさん?」

 白い長袖シャツの左の前腕を、右手で軽くさすりながら話しかけた少女。

 ブルカーニュは声が硬いと聞き取った。緊張してるんだろうな、と理解する。

 

「ブルカーニュ、呼びにくければゆるさんって呼んでください。

ドラゴン、と種族で呼ばれるのは好きじゃなくって」

 ゆるさん、と言うあだなに軽く吹き出してから、少女はわかったと頷く。

 

 ブルカーニュとしてはただの自己紹介だったが、そのおかげで緊張がなくなった感じがしてほっとする。

 

 

「それで、どうかしましたか?」

「あ、うん。掴まれる場所がないんだけど どうすればいいかな?」

 

「ああ、そのことですか。わたしの首を掴んでください。

そこぐらいしか掴まれるところ ありませんし」

 

「え? いいの、首掴んでも?」

「はい、むしろそうしないと落ちる可能性がありますから」

「そう? それじゃあ……」

 少女は、両手で左右からブルカーニュの首を遠慮がちに掴む。

 

「しっかり掴んでください。ぎゅうっとしめる感じで構いませんから」

「いや、それは流石に……」

 苦笑して言う少女は、それでも少し掴む力を強くする。

 

「これくらいで大丈夫?」

「そうですね。自然と飛んでれば掴む力も強くなるでしょうし」

「とりあえず許可した、って感じだね」

 また苦笑したように言う少女は、

 

 

「ゆるさん。それじゃあ、よろしくおねがいします」

 そう続けて言う。わかりましたと頷く竜凰。

「それじゃ、いきますよ」

 言って、ブルカーニュは地面を蹴った。

 

 

「それで、お客さん どちらまで?」

 ゆっくりと飛行しながら、楽しげに尋ねるブルカーニュ。

 そんな様子にクスリと微笑してから、少女はこたえた。

 

「ノンハッタン。一番近くで、ボルカディアで一番おっきい町」

「わかりました。あんまりゆっくりしてると夜になっちゃいますから、少し早めに行きますよ」

 言葉を終えてブルカーニュは加速する。予想外のスピードだったらしく、

 少女は悲鳴を上げながら掴んでいたゆるさんの首を、ぎゅううっと握りしめた。

 

 

 しかし、悲鳴を上げていながらも、少女の声色は実に楽しそうで。

 ブルカーニュは、それがなんとも不思議に感じた。

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関連作品。

異世界転生2D6(ツーディーシックス)
同じ世界の作品、2D6の後半にクロスオーバーする。


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