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第二話。食事の後の雑談タイム。真剣味(しんけんあじ)。

「ふぅ。ごちそうさまでした」

 ヘタを地面に置いて、ブルカーニュは満足そうに会釈しながら言う。

「助かった。我々ではあの果実は穫れなかったからな。

翼のない我々では跳ねてるしかない。

 

が、あの高さまで跳び、なおかつ他の果実を振り落とすことなく

更に枝も折らずに穫るのは難しい。

 

あなたのおかげで無事に、果実の生育バランス ひいては

あの木の魔力のバランスも保たれた」

 

 ブルカーニュの会釈に答えるように、大きな地の竜は

 感謝の言葉と共に頭を下げた。

 

 

 樹木は大地に根を張る。育つためには水分も必要だが、根を支えるのは大地である。

 ゆえに、樹木 植物は彼等土竜ちりゅうの領分なのだ。

 

 

「どういたしまして。わたし、これでもこの山の頂点ですから、

山の体調を見て、おかしいところは直すのも押し事です。

 

それに、美味しい木の実と果汁、おまけに魔力もいただけて言う事ありません」

 ほんのりと口角を上げて言うブルカーニュは、人で言うならば微笑みを浮かべていると言う表情だ。

 

 

「普通、自分の属性以外の魔力は、大なり小なり反発を受けるものなんだがな」

 大きな土竜ちりゅうはそう言って、地面を左手 左の前足で軽く掻いた。

 声色は、人で言うなら苦笑していると言う物。

 

「よく言われるんですけど、わたし ぜんぜん問題ないですよ?」

「おそらくそれは、竜凰りゅうおうだからだろうな」

「どういうことですか、それ?」

 

 不思議そうに左に首をかしげて問い返すブルカーニュに、

 推測ではあるのだがと前置きしてから土竜ちりゅうはその理由を語った。

 

「火の竜と鳳凰フェニックス。この二つの力を持つ竜凰は、

他のドラゴンとは魔力の密度が段違いだと聞いている」

「最強って言われてるのも、そこ ってことですよね?」

 そうだと土竜ちりゅうは頷いた。

 

 自分のことだが、争い事を嫌うブルカーニュは、

 自分の戦闘能力について興味があまりないので、

 こんな他人事のような物言いなのである。

 

「鳳凰とは竜と同じく魔力を司る存在であり、我々とは違って死ぬことがない。

その永劫とも言うべき時の中で蓄積された魔力は、計り知れない」

「ふむふむ」

 

「その鳳凰がなんの気まぐれか現れ、卵を温めることで生まれるらしい竜凰。

卵を温める鳳凰の姿は、誰も見たことはないんだがな。

 

鳳凰由来の魔力がブルカーニュ、あなたに宿っているのはそれでなんだ」

 

「そうなんですね。あの……それで。

その反発って言うのをわたしが感じないことと、どんな関係があるんですか?」

 

 鳳凰と竜凰についての解説を聞いて、少しえんりょがちにブルカーニュは問い返した。

 一つ頷くと、土竜ちりゅうは呟くように 脱線してしまったなと、

 地面を左手で軽く掻きながら返し、話を続けた。

 

 

「ようするにな。竜凰としての強大な魔力が 反発を打ち消しているんだ、

と私は読んでいる。本来、相性の悪い水の魔力の、

その文字通りの源泉である水など、直接飲める物ではない」

 

「そうなんですか?」

 自分があたりまえにできていることが、本来あたりまえにできないと聞いて、

 ブルカーニュは目を丸くした。

 

「ああ。我々は通常、特に食事する際 他の属性を帯びた物を口にする時、

必ず一度自分たちの魔力を通す。

 

たとえば水を、あなたたち火のドラゴンが口にしようとするなら、

一度温めて 火の魔力を通してから飲むものなのだ」

 

 言われてみれば、とブルカーニュは器用に両手を打ち合わせる。

 自分以外の火竜は、必ずなんらかの入れ物に水を汲み、

 温めてから飲んでいるのを思い出したのだ。

 

 

「あなたのように、別の属性の魔力を属性関係なしに、

平気な顔でうまいと言って取り込むことはできない。

 

我々よりも属性の反応が弱い獣や鳥たちでも、

別の属性の物はいやがるものだ」

 

「そうなんですね」

 感心した声で、呟くように言ってから

 「あれ?」と疑問が一つ浮かび上がった。

 

「なんだ? 間違ったことを言ったつもりはないが」

 土竜ちりゅうは不思議そうに問いかける。

 

「あの、モグラさん」

「ちりゅうだと言っているだろう」

 呆れた息で答えてから、なんだと少し疲れたように聞き返す。

 

「それじゃあ人間さんは。人間さんは、どうして平気な顔をして、

属性を無視していろんなことができるんですか?」

「なるほど、人間か」

 

 面白そうに頷いて言うと、続けて

「あれほど我々から見て、おかしな存在もいない」

 とまた頷いて言葉を続けた。

 

「そうなんですか?」

 

「ああ。彼等は属性としては我々と同じ土の属性を持つ。

自分の力で空を自在に飛ぶこともできず、

水にも火にも短期間しか浸っていられないからな」

 

「そうなんですね」

 感心した声で相槌する竜凰に、うむと土竜ちりゅうは機嫌よく頷く。

 

「だが彼らは属性に縛られないと言う、唯一にして最大の調書を持っている。

体の脆弱さを補うかのように、魔法と呼ばれる術を用いて、

あらゆる属性の魔力を引き出すことを可能にしているんだ」

 

「見たことあります、あれすごいですよねぇ」

 

 まるで勇者に憧れる子供のように瞳を輝かせ、

 そればかりか小さく何度も飛び跳ねて

 色あせていないらしい感動を、全身で表現している。

 

 そんな無垢な最強に、土竜ちりゅうは表情を崩した。

 

 

「そればかりか道具や武器など、自らの生存力を向上させる物を次々に作り出している。

彼らは奇妙だ。が、奇妙であり素晴らしいと思う」

 

 土竜ちりゅうの言い分に、何度も大きく頷く火竜の女王。

 その首のふり幅は、後少しで地面に頭がぶつかるほどである。

 

「そうですね」

「だが、それゆえに気を付けなければならない」

 忠告しようと口を開いたら、言葉を言わずとも

 山の頂点はわかっていますと神妙に頷いた。

 

 

「彼らはよく、自分がなにをしても許される存在だと勘違いします。

そんな人達は火山わがやから帰ってもらっていますから。

 

他の竜族おうちの人たちにも迷惑かけちゃ駄目ですよ、

って注意も付けて」

 

 真剣な声色と表情に優しく頷いて、土竜ちりゅう

 「今更いらん心配だったな」と安堵した。

 

 

「それじゃ。他の木、お散歩ついでに見回っておきますね。

またおかしい木の実があったら食べておきます」

 

 一つ頷いた後で、そう答えたブルカーニュ。その雰囲気は

 普段ののんびりとした、ゆるさんに戻っている。

 

「わかった。頼む」

 背を向けたブルカーニュにそう声をかけた土竜ちりゅう

 

 はぁいと答えた竜凰は、またハミングしながら散歩に戻った。

 

 

「なんだお前たち、そのだらしない顔は?」

 去って行く背中を見送った後、大きな土竜ちりゅうは、

 これまでひとことも発することなく、会話を見ていた周りの同族に、顔を顰めて問いかけた。

 

 土竜ちりゅうたちの表情は、一様に含み笑いなのである。

 ニヤニヤを抑えきれない、と言うのが見てすぐわかる程度の。

 

 

「いやーおさ。実に楽しそうでしたねぇ。

いつもはあんなに喋らないのになぁ」

「だらしなかったのは、むしろ長だったじゃないっすかぁ、ぇえ?」

 

「そ、そんなことはないぞ?」

「お? 地面なんて見つめて、今日も大地の魔力は正常清浄ですぜ?

なにか異常でもみつけたんですかい?」

 

 

「ぬ……。ええい やかましいぞ小僧ども!

竜凰を見習って、貴様たちも果実の一つも調べて来んか!」

 響く怒号に、周囲は柔らかな笑いを返すのだった。

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関連作品。

異世界転生2D6(ツーディーシックス)
同じ世界の作品、2D6の後半にクロスオーバーする。


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