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第十七話。虹色の竜と山本家。

「ユイハさん」

 歩き始めて少し、ゆるさんが徐に切り出した。

「なんですか?」

 

「はい。お昼はバタバタしてて聞けなかったんですけど。

わたしのこと、虹色の竜って言ってましたよね?」

「ええ」

 

「でも、わたしのことは今日初めてみたみたいですから、

どういうことなのかなーって不思議だったんです」

「気にしてないようで、気になってたんですね」

 

 意外そうな声色で言った結葉ゆいはにゆるさんは、

「あの時は、おたがいにおたがいのことを

じっくり話せる状況じゃなかったですから、

 

気が付かないのもしかたないですよ」

 そう普段の調子で答えた。

 

「そうですね。わたしも、護星纏命陣ごせいてんめいじんが破られて

ショックでしたし」

 

「ユイハさんも、気にしてないようで気にしてたんですね」

 クスリとするゆるさんに、結葉は自信ありましたからと

 こちらも普段の調子で返す。

 

「でも、全属性の攻撃を あんな高密度で受ければ、

破られるのもしかたないのかなって、

 

そうお土産探してくれてる間に思い直しました」

 

「そうなんですか。だから、今は平気なんですね」

「そうですね」

 

 結葉の言葉に納得したように頷くと、

 ゆるさんは「それで」と話を本題に戻そうと促す。

 

 

「ああ、ごめんなさい。どうしてゆるさんのことを

虹色の竜って呼んだのか、でしたね」

 

 いけないいけない、そう恥ずかしそうに呟いてから、

 結葉は話し始めた。

 

「空駆ける美しき虹色の竜。虹竜こうりゅうは、

ご先祖様が故郷の中で一番高い富士山とみさむやまの頂上で

 

一度遭遇したそうなんです。その、

立ちすくむほどの魔力と、それまで見たことのない美しさに魅せられて、

 

その竜が飛び去るまで見つめ続けていたそうです」

 

「どうしてその竜は、魔力を開放していたんでしょう?」

 

「ゆるさんみたいにこうして話をしたわけじゃなかったみたいなので、

理由はわかりません」

「そうなんですね」

 

「とはいえ、たとえ意思疎通ができたとしても、

ご先祖様は離せなかったかもしれないですが」

「どうしてですか?」

 

 

「書き残された日記によると、世界の全てが止まるほどの美しさ

だったそうですから、きっと声が出せなかったんじゃないかな、って」

 

「世界が止まるほどの美しさ……ですか?」

 ゆるさんは、結葉の表現が理解できなかったようだ。

 不思議そうに首をかしげている。

 

 結葉はええと頷いて、そしてからゆるさんを見て、

 少しの間「うーん」と考えた。

 

 

「詩的な言い回しだから、人間文化に触れてないと難しいかなぁ」

 微苦笑した結葉に、そうなんですねと相槌してからゆるさんは、

「わかりました、続けてくれますか?」

 そう続きを促した。

 

「ええ。それでですね。美しい虹色の竜をみんなにも見せたくて、ご先祖様は

知り合いを誘って、また富士山とみさむやまに登ったそうなんです。

竜の住処だと考えたようで」

 

「なるほど。それで、結果はどうだったんですか?」

 

「……いなかったそうです。影も形も」

 

 少し落ち込んだ声色で、首を小さく横に振る結葉。

 

 

「虹色じゃない状態の、元になったドラゴンも、ですか?」

 不思議そうにまばたきしながら問いかけるゆるさんに、

 「ええ」とゆっくり頷き 一拍置いてから話を再開した。

 

 

「竜の痕跡すらもなかったそうです」

「え?」

 

 足を止めて目を丸くするゆるさん ブルカーニュ。

 それに合わせて足を止めた結葉は、残念さを滲ませた声色で

 再び口を開く。

 

「今のわたしたちが第三者の立場で考えれば、

きっとその竜は 休憩してただけかもしれないって、

推測もできるんですが。

 

大人数で山に登ったご先祖様はそうはいきませんでした」

 

「どういうことですか?」

 真剣な声で問い返したゆるさんに、

 結葉は歩き出しながら答えを返す。

 

 

「焦ったご先祖様は、必死になって山の頂上を探し回ったそうです。

一周して くまなく探しても、虹色の竜の欠片すら見当たらなかった。

 

息を切らして戻って来たご先祖様に、

美しい虹色の竜が見られると期待していた皆さんは

 

ご先祖様に心無い言葉をぶつけたそうです」

 

 

「心無い言葉、ですか?」

 

「ええ。曰く大法螺吹きおおぼらふき、曰くペテン師、曰く嘘つき野郎。

全部、お前は悪い奴、って言う意味です」

 

「そんな。あんまりじゃないですか」

 二人とも、声の色が沈んでいる。

 

 

「そうなんです。あんまりなんですよ。

それだけ期待が大きかったんでしょうね。

 

ご先祖様もよっぽどショックだったみたいで、

克明に書き記してましたけど、その部分がちょっとにじんでます。

 

それで、怒って帰った皆さんの気配がなくなってから山を下りたご先祖様は、

すっかり嘘吐きとして冷たい目を向けられるようになっていました。

 

富士山とみさむやまは一度登り下りするのに数日かかりますから、

しかたなかったのかもしれません。

 

富士山とみさむやま麓の村、ご先祖様が暮らしていた場所は

小さな集落だったそうですから、

 

情報の広がりがとても早かったんでしょう。良し悪し関係なく」

 

 

「人間って。悪い時は、すごく悪いんですね」

 二人とも沈痛な語調である。

 

「そんな集落に耐えられなくなったご先祖様は、いつか自分の血を継ぐ誰かが、

この汚名を晴らしてくれるようにと、自分の記憶にある虹色の竜を

 

文字と絵に書き残してから、それを持って今わたしの実家がある地域に

引っ越したんだそうです。

 

だから我が家にとって、虹色の竜は命題だったんですよ。

出会うことそのものが、汚名の返上の一つでした」

 

 

「おめいとか めいだいとか、難しい言葉はよくわかりません。

ただ、わたしと出会ったことで ユイハさんがなにか、

 

いやなことから解放されるって言うのはわかりました」

 

 また足を止めたゆるさん。やはりそれに合わせて足を止めた結葉は、

 でも と渋い声を出した。

 

 

「でも、なんですか?」

 不安そうに問いかけるのに、「でも、です」と

 頷いて続きを答える結葉。

 

 

「虹色の竜が存在することを、誰にでもわかる形で示さないといけません。

わたしが見ただけだとご先祖様と同じことです。

 

虹色の竜がいると言う証がないと、結局は山本家は

嘘吐きのままですから」

 

 そうですか。そう相槌を打つゆるさんの声色は明るい。

 

 

「どうしてそんな、明るい声なんですか?」

「だって。わたしの魔力を、その御守

護札まもりふだに流し込めばいいじゃないですか」

 

 にこやかに結葉の胸元を見ながら言ったのを聞いて、

「あ、そっか。そうですよねっ」

 そう冒険者の少女は膝を打つ。

 

 

「外だと目立ちますから、宿屋の部屋でおねがいできますか?」

 

 顔色を窺うような結葉の表情を見てとったブルカーニュは、

「かまいませんよ」

 そう言って笑みを返した。

 

 

「なっ、ななななんで!?」

「おお、よくやった」

「な、なにしにきたんだよっ?」

 宿屋の中、結葉のパーティが使用している部屋。

 

 入ったとたんに、ソロード マシアット そして

 マイトの順で驚きの声を上げた。

 

 

「しぃっ。皆さん、静かにしてください。もう夜ですよ」

 右手の人差し指を口の前で立てて、結葉は三人に注意する。

 

「ったっておまえ。そこにいんの……!」

 ソロードが振るえる指で指さす先には、

 ちょこんと立っているゆるさんがいる。

 

「ユイハさんに用事ができましたので、お邪魔させてもらいました」

「ユイハに用事だって? お前、なにやらかしたんだよ?」

 

「残念でしたねマイトさん。わたしは誰かさんたちとは違って、

ゆるさんとはとっても仲良しですので、怒られたりはしてませんよ」

 

「なんでだ? いったいなにが違うんだ?」

「自分の手を胸に当てて考えてみてくださいね」

 

 あやすような口ぶりに、男性陣は悔しそうな顔をして来たが、

 結葉もゆるさんも無視をする。

 

 

「ゆるさん。さっきあれだけ魔力を使って、また魔力を開放するの。

大変じゃないですか?」

 

「大丈夫です。少しですから。

さ、ユイハさん 護札まもりふだを」

 

「わかりました」

 頷いてそう言うと、結葉は胸の護札まもりふだを外して

 ゆるさんの手元、右手の前にそっと置く。

 

 ゆるさんは、置かれたそれにそっと右手を乗せた。

 

 

「な……なにが始まるんだ?」

 マイトの言葉を合図にしたように生唾を飲む男性陣。

 じっとゆるさんの様子を見守る結葉。

 

 

 ーー部屋の中が、しんと静まり返った。

 

 

「いきます」

 静かに言って、すーっと、ゆっくり瞳を閉じた竜凰りゅうおうブルカーニュ。

 

 翼のオレンジの輝きが強まり、それが体へと侵透。

 

 徐々に色が混ざって行き

 

 ブルカーニュは、再び虹色に輝き始めた。

 

 

「うお?」

 一番に声を上げたソロードに続き、

「まぶしっ!」

 マイトが日差しを遮るように左腕を額にあてがい、

 

「再び観られるとは……」

 マシアットが恍惚とした声を上げた。

 

 

「さて、と」

 

 一つ深く息を吐くと、虹色の光が右手へと収束。

 急速に明るさを失った部屋の中、

 人間たちは、移った光に視線を移す。

 

 ブルカーニュの手に移った光は、流れるように護札まもりふだへと流れ込んだ。

 

 カッッと一つ、部屋の中が激しく光った。うっと声を上げた人間たち。

 

 彼等が目を開けると、そこには。

 

 ーー一つ。虹色の宝玉が護札まもりふだに埋め込まれていた。

 

 

「これで、いいんでしょうか?」

 心配そうに声をかけたゆるさんに、一つ結葉は

 ゆっくりと大きく頷いた。

 

「きっと、こんなことができるのは ゆるさん。いえ、竜王のあなただけだと思いますから。

ありがとう、ブルカーニュさん」

 

 そう言うと、正座した結葉が、また

 体を折りたたむような深い礼をした。

 

 

 

 なんの話なのかわかっていないと言う様子の男性陣は、

 二人のやりとりに 顔を見合わせるのだった。

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