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第十四話。おみやげに御守を。おかえりは背中から。

「待たせたな」

 そんな声と共に、どこかに飛び去った緑の竜が戻ってきた。

 

「お土産って……なんにも持ってないよね?」

 ゆっくりと降下して来る竜を見て、

 エルが不思議そうな表情で声を上げる。

 

「おいおい、よく見てくれって。俺の手を」

 エルと結葉、ちょうど二人の間の辺りの高さで滞空しながら、

 両手 両の前足を突き出す風竜。言われて二人は目を凝らす。

 

「……なにか、指にひっかけてますね」

「ほんとだ。あれ、ひっかけてるの‥…どっかで見たような?」

 

「こいつぁあ毎年初めに、ボルカディアの人間たちが持って来る奴だ。

山の神への豊作願いだ、とか言ってな」

 

「ああ、あの御守か~」

 両手を打ち合わせて納得した様子のエル。

 

 一方結葉は、

「ボルカディアにも初詣があるんですね」

 と感心している。

 

 

「あれ? でも、ほこらの場所、入ってすぐのところにあるって聞いたよ。

なんでこんなに時間かかったの?」

 空の色は少しだけ黒を帯び始めている。

 だが、まだ主役はオレンジ。そんな西日だ。

 

 

「探し回ったからな。あそこに置きっぱなしになんざしとかねえって」

「そうなの?」

 

「当然だろう。あれは俺達にとっちゃ特に必要のねえもんだが、

せっかくくれたもんだからな。もらっとかなきゃわりいだろ」

 

「そうなんだ」

 少し驚いたように言ってから、「大人たちには言えないなぁ」と

 心に刻むように呟いた。

 

「ですがあの御守。長く火山わがやにあり続けたり

モンスター(住民)たちが触れたりすることで、

 

いろんな力を持った護札まもりふだと呼ばれる物になってます。

なのでエルさんにとって、ただのお返しにはなりませんよ」

 

 ブルカーニュが告げた御守の新たな姿に、

「すっごーい! そうなんだっ」

 エルは思わずと言った様子で感激に拍手している。

 

 

「縄張りの印にもなってるんだぜ。ああ気にすんなぃ、

一つや二つなくなったとこで支障はねえからよ」

 

 エルと結葉二人ともが

 「そんなこと聞いてないけどな」と思っていると、

「ほらよ」

 ほ と同時に緑の竜はエルと結葉二人に対して、

 同時に両手の護札を投げ渡した。

 

 

「ん? ……あっ、これ。今年お父さんがもってった奴だ!」

 受け取った護札を少し眺めて首を傾げたエルは、手にしている護札に思い至って、

 そう驚きと喜びの声を上げた。

 

「そうなんですか?」

「うん。戻って来るなんて思わなかったよ」

「不思議なめぐりあわせですね」

 にこやかに答える結葉に、「ほんとだよねぇ」とエルも笑顔を返す。

 

 

「嬢ちゃん。そうすっとどうすんだい?

自分ちに持って帰るのかい?」

 聞かれて「うーん」と少しの間考えて、エルは首を横に振った。

 

「ユイハさん、交換してもいいかな?」

「え? あ、はい。かまいませんよ」

 

「ありがと。持って帰るのも面白いかなと思ったけど、

これ なんかほんわかあったかいからもしかして、と思って」

 そう言ってエルは、結葉のたわわな果実と肩を順に見た。

 

「ありがとうございます、気を使ってもらって」

 その目線で意図を察し、結葉はエルに護札を差し出した。

 

 エルはどういたしましてと頷きを返しながら、

 自分の家から奉納された御守を結葉に渡す。

 

 モンスターたちには意味がわからない様子で、

 二人が護札を交換するのを不思議そうに眺めていた。

 


「うし。土産渡しも終わったことだし」

 そう言うと護札を持って来た竜が、ビュンと強めの風と共に姿を消した。

 

「オラ、起きな! おかえりの時間だぜ!」

 ゆるさん エル 結葉の背後で声がした。

 同時にパシパシとなにかを叩く音も。

 

「ああ、起こしに行ったんですね」

 結葉が納得した直後に、「ひ、ひぃぃ?!」と言う

 情けない声が聞こえて来た。

 

「ソロード、でしたっけ? 一番彼には効果覿面きいたみたいですね」

 ブルカーニュが安堵したような声色で言ったのに、

 エルと結葉が苦笑いする。

 

「三人の中で一番嫌いなんだね、

あの中っくらいの背の人」

 

「勿論ですよ。わたしのことをトカゲトカゲってバカにしてっ、

おまけになんですかあの時のじわーっとした

気味の悪い笑い顔はっ!」

 

 右手 右前足を地面にドンドンと、何度も叩きつけながら

 そう言うゆるさん。

 

 心底お怒りの様子に、「ああ、うん。そうだね」と

 エルは苦笑い声で相槌する。

 

「わたしも、ソロードさんには一番頭を抱えてます」

 そう続く結葉の声は苦い。

 

 

「うわぁ? オシオキはっ! オシオキはぁっ!!

って、はぁよかった。虹色じゃない」

 

「……俺は。永眠ねむっていたようだな。ならばこの、

夕と夜が混ざるここは……?」

 

「バカなこと言ってんじゃねぇ。オタクらの大将が

お帰りをご所望だぞ」

 

「どうやら。全員起きたみたいですね」

 ゆるさんこと、竜凰りゅうおうブルカーニュ、

 男冒険者の声を聞き、状況を理解した。

 

 

「そうだ。誰が誰乗せるか決めようぜ」

 ビユウンが唐突に言い出した。

「わたしはエルさんですよ。お昼に乗せてますし、

押し事でもありますから」

 

「じゃあわたしは……さっきエルさんを乗せていた竜がいいです。

乗せなれてそうでしたから」

「おお姉さん、お目が高え。俺を指名たぁねぇ」

 ビユウンが嬉しそうに言ってから降りてきた。

 

「あっこらビユウン! ずりいぞ!」

「残念だったなぁフウジャル。俺ぁ御指名だからよぉ。

断るってぇのもわりいだろう?」

 

「ちくしょう……! なら俺ぁ、一番まともそうな

でっけぇ兄ちゃんだ!」

 そう言うと、フウジャルはマシアットのところに飛んだ。

 

 

「決めよう、って言ったわりに早い者勝ちなんですね」

 不思議そうな顔で結葉が感想をポツリと言うと、

 エルがそれに「あわたただしいよね」と同調する。

 

「エルさん、『た』が一個多いですよ」

 柔らかにクスリ笑って指摘した結葉。言われて一瞬間があってから、

 エルが顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 

 男性陣を起こした竜がとどまっている。

 この時点で乗せる人間が後一人であり、

 必要な竜は後一匹である。

 

 一様に竜たちが苦い顔をしているところから、

 ソロードが残っていると二人と一匹には

 容易に察することができた。

 

 

「早く降りてきてください。日が暮れちゃいます」

 

 首を空に伸ばして声を駆けるゆるさんに答え、

 しぶしぶと言った感じで ひたすら傍観者だった火の竜の、

 その一匹が降りてきた。

 

「三人とも、竜の背中に乗ってください。

ノンハッタンまで送ってもらいますから」

 

「くそ、なんでてめえだけ平気な顔してやがんだ最初から」

 悪態を突くソロードに、「日頃の行いです」とだけ

 それもにべもなく言い放つと、結葉ゆいはは徐に

 左手に持つ魔法の杖に、先端を包み込むように右手で触れた。

 

 

英鋼えいこう否転杖ひてんじょうよ、英気を養いたまえ」

 

 すると言葉に答えるように、掌 杖の先の宝玉が光り始める。

 その淡い光が杖を覆うと、杖がみるうちに短くなって行き、

 掌に収まる程度まで縮んだ。

 

 更に杖を覆っていた光が地面に触れる側へと収束し、

 その光が杖の周りを一周して消えた。

 

 後には、短い杖を象ったペンダントが結葉の手元に残った。

 

 そのペンダントを首にかけると、結葉は失礼しますと声をかけて、

 長いスカートを膝を半分見える程度までたくしあげてから

 ビユウンにまたがった。

 

「ちょっと、恥ずかしいかな」

 小さくはにかんだ声で呟く結葉に、「そういうのを乙女って言うのかい?」と

 変わらない調子でビユウンが問いかける。

 

「よくわかんないですね。自分のことですし」

 静かな笑いを含んで答える結葉だった。

 

 

「じゃっ、またお願いします ゆるさん」

 一方エルは、じ と同時に小さく飛び、

 ゆるさんに体当たりをするように体を預ける。

 

 そうして飛びつき そこから流れるように体勢を整えると、

 両手でブルカーニュ(彼女)の首を掴んだ。

 

 容量を理解した冒険者たちは、

 揃ってそれぞれの竜の首を掴む。

 

 

「皆さん、用意はいいですか?」

 ブルカーニュの問いかけに、冒険者たちは肯定を返す。

 

「わかりました。それじゃ、火山やまのみんな。いってきます」

 ペコリと頭を下げると、ゆるさんは一度空を見上げる。

 

 橙色と紺色の共演する夕暮れの空に一つ頷くと、

 フォニクディオスの頂点 竜凰りゅうおうブルカーニュは、

 

 地を蹴って舞い上がった。

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異世界転生2D6(ツーディーシックス)
同じ世界の作品、2D6の後半にクロスオーバーする。


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