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第一話。火山の頂上(うえ)からおはようございます。

 ボルカディア。

 良質な鉱石が採掘できる、フォニクディオス火山を中心に広がる一帯。

 

 そのフォニクディオスには、下から上まで多種多様なモンスターが住んでいる。

 そんなモンスターの中に一匹。頂上を寝床とするドラゴンがいた。

 

 自分の体を守るように折りたたんでいた翼を大きく広げ、

 喉を隠すように下を向いていた顔をゆっくりと反りかえるように空へと向けながら、

 ゆっくりと目を開いた。

 

「ん~、今日もいい天気ですねぇ」

 つぶらな瞳をまぶしそうにパチパチとまばたかせながら、のどかに声を上げたこの声のぬし

 実に気持ちよさそうな目覚めのひとことである。

 

 竜凰りゅうおうブルカーニュ。このフォニクディオス火山の頂点に立つ、

 薄くオレンジに輝く美しい翼を持つ赤黒いドラゴンだ。

 

 ふぅと一つ、まだ眠気の抜けない息を吐くと、

 翼を閉じてドラゴンは歩き出した。その足音にさほど重みはない。

 

 人間の大人の半分ぐらいの体高に、背の高い大人の男が寝そべったほどの体長では、

 対する者を畏怖させるほどの迫力を出すのは難しいだろう。

 

「わたしより、下の方のみんなが頂上で寝ればいいと思うんですけどねぇ。

どうしてみんな『ゆるさんは頂上にいて』って言うんでしょうか?」

 

 歩くのに合わせて尻尾を左右に揺らしながら独り言を言う。

 ブルカーニュは、その性格から火山に住む他の者たちから、

 ゆるい人と言う親しみを込めて、ゆるさんと言う愛妾で呼ばれている。

 

「のどかわきましたね」

 一つ頷くと、ブルカーニュは軽く地面を蹴って飛翔。

 いっきに湖へと向かう。その速度は突風が起きるほどである。

 

「ゆるさん、おはよう。いつも速いよねぇ」

 湖のすぐ近くにいる水色のドラゴンが、

 まるで巨大な岩が落ちて来たような凄まじい音と土煙に、そう声をかけた。

 

 雲に手が届くと思えるほどの高さの頂上から、この三合目辺りにある水場まで、

 ゆるさんがかかった時間は十秒にも満たない。

 

「喉が渇いてるので。おはようございます、水要みずかなめさんちのえーっと……

カスクちゃん」

 ドラゴンは魔力を司る存在である。この山には水以外にも、

 地 風 火を司るドラゴンたちが、山の各所で暮らしている。

 勿論ブルカーニュも例外なく属性魔力を司っている。

 

「アズラッティだよゆるさん、女の子ってところまでは合ってるけどね。

って言うかカスク、ぼくより白いんだから見分け付いてほしいな」

 埃を気にせず湖に歩み寄るブルカーニュにそう、体高は彼女とかわらないが

 体長が半分ほどしかないアズラッティは、冗談めかして言う。

 

「ごめんなさい、どうも覚えるのは苦手で」

 足を止めると、申し訳なさそうな声で首をたれるブルカーニュ。

 

「いいよ、本気でいやがってるわけじゃないから」

 特に気にするでもない様子のアズラッティにほっと一息吐くと、

 ブルカーニュはテクテクと再び歩き、湖の際に到着した。

 

 

「では、いただきます」

 そういうと思いっきり息を吸い込んだ。ビクっとなったアズラッティだが、

 その直後ブルカーニュが勢いよく、

 湖に顔を叩きつけるようにつけたのを見て、ほっとする。

 

「何回みても思いっきり息吸うの、慣れないなぁ。

ブレス吐くようにしか見えないもん。

湖干からびさせるんじゃないかって、いっつもひやひやするよ」

 

 しかしブルカーニュは、ゴクゴクと喉を鳴らしている。

 息が続く限り水をがぶ飲みするつもりだったのである。

 

「ぶはーっ!」

 ガバッと湖から顔を上げたブルカーニュは、汗だくになったように

 水滴を顔からボタボタこぼしながら、

「美味しいです~」

 そう満足げな息交じりに声を出した。

 

「それはなにより。まったく、最強ドラゴンがこんな、

力とは無縁にしか見えないおっとりさんなんて、びっくりだよねぇ」

 アズラッティ、しみじみとブルカーニュを見て言う。

 

 

「わたしは争い事は嫌いですから。お引き取り願う人達には、

しかたないので力を少し見せていますけど」

 そう言うと湖に背を向ける。

 

「今日も一日自由気ままに。押し事しながら過ごしますよ」

「ぼくたちもいつもどおり、適度に見回ったりしながらのんびり過ごすよ」

 

 背中に声を返されて、それが一番ですと顔だけ向けて答えると、

「さて、喉を潤しましたし、朝ごはんをついばみにいきましょう」

 そう言ってブルカーニュは、火山の中をハミングしながら散歩していく。

 

 

***

 

 

「おはようございます。地要ちかなめさんちのモグラさんたち」

 ふもとにある雑木林に降りて来たブルカーニュは、開けたところに顔を出しつつ声を出した。

 

土竜ちりゅうであってモグラじゃない。どこの国の人間から得た知識だか知らないがな。

いい加減覚えてくれないか火竜の女王」

 代表者のような、周りにいるドラゴンたちより一回りほど大きい土色のドラゴンが、

 黒曜石のような色の瞳を小さくして言う。

 

「むぅ。そっちだって、わたしがそう呼ばれるの嫌いだって知ってて呼んでるじゃないですか」

 つぶらな目をせいいっぱい細めて、抗議の意思を翼のないドラゴンに示す。

 

 縦も横もブルカーニュの二倍半ほどもある、目の前のドラゴンに対して、

 まったく遠慮がない。

 

 ブルカーニュはめいっぱい首を伸ばしているが、

 それでも大きな土竜ちりゅうの体の半分にすら少し届いていない。

 

 

「そちらがちりゅうと呼ばないからだ。それで? 用事はなんだ?」

「大人げないですね、わたしより長生きしてるのに」

 口をとがらせるブルカーニュに、相手は溜息を一つ。

 

「それで、用事はですね」

 話が進まないと見て、首を元に戻したブルカーニュは

 このふもとまで降りて来た理由を告げた。

 

「ごはん、わけていただいていいですか?」

 既に竜凰りゅうおうの視線は相手のドラゴンではなく、

 正面に見える樹木、その枝に見事に成っている果実に向いていた。

 

「勿論かまわない。あなたが食べようとしている実に見当はついているしな」

「ありがとうございます。では、お言葉に甘えまして~」

 ぴょーん ぴょーんと跳ねるように移動して、ブルカーニュは先ほど視線を向けた樹木に向かっていく。

 

「野兎も驚く跳躍力だな」

 そんな無邪気な様子を見て、大きな土竜ちりゅうはぼやいた。

 

 ちょうどいい角度に位置取って、ブルカーニュは改めて枝に成っている果実を見る。

「では、一番大きいのを」

 枝の先端に一つだけ、不自然に育っている実を発見。

 それによって枝が大きくたわんでいる。

 

 ブルカーニュは、その大きすぎる果実に視線を合わせて、的を絞った。

 

 

「いっただっきま~す!」

 嬉しそうな声と共に飛び上がり、大きく口を開けたブルカーニュ。

 しかし、彼女の口では全開しても一口には収まりそうもないことに、

 今果実を目の前にしてようやく気が付いた。

 

「むぅ」

 とっさに翼をバタバタはばたかせて急制動をかける。

 

 そのはばたきによって風圧が起こり、何度も枝がたわみ激しく果実がゆさぶられ、

 今にも落ちてしまいそうだ。

 

「あぶないあぶない」

 ゆったりと翼を動かして空中に停滞、したかと思うと少しだけ上昇。

 手 前足と木の実の位置、木の実と枝の付け根の位置関係を目で確認。

 

「失礼しますっ!」

 す、と同時に右手を突き出すため体を少しひねり、

 勢いつけて体ごと左へグルリと回転。

 あたかもそれは、獲物を噛み千切る獣のようだった。

 

 その衝撃で木全体が揺れたが、幸い狙った物以外の果実が落ちることはなかった。

 

 一瞬、空中に制止した枝から切り離された果実は、

 地面に吸い寄せられるように急速落下し始める。

 

「おっとっと」

 その落下速度よりも速く、ブルカーニュは果実の下へと回り込み

 その重みを背中で受ける。

 

 

「流石は火竜に鳳凰フェニックスの力を宿す竜凰だ。

二種の空の王者の力を得た飛行速度。まるで見えなかった」

 大きな土竜ちりゅうが感心するのを気にも留めず、

 ブルカーニュは器用に果実を背中の力で跳ね上げた。

 

 果実はちょうど、枝から繋がっていたヘタが

 彼女の方に向く形にひっくり返って落ちて来る。

 

 数歩後ろに下がって、落下地点に体の位置を合わせたブルカーニュは、

 軽く垂直に飛ぶと果実を掴んで着地する。

 

「土が付いちゃうと美味しくないですからね」

 

 左手に果実を乗せて右手を実に添えると、

「では改めて。いただきます」

 さっきの大口はどこへやら。

 

 少しだけ口を開けると、果実にかじりつき、

 ゆっくりと味わうように食事を始めた。

 

 

「ん~」

 そんな嬉しそうな声を上げて果実を食べる様子を見て、土竜ちりゅうたちは、

 

 毎度のことながら。本当にこの、小動物のようなドラゴンが、

 この火山の頂点なのだろうか、

 頂点でいいのだろうか。

 

 となんとも言えない微妙な顔をするのであった。

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関連作品。

異世界転生2D6(ツーディーシックス)
同じ世界の作品、2D6の後半にクロスオーバーする。


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