波乱の始まりと華の園・3
「スカーレット隊に男性の隊長を任命する理由には二つあるわ。まずは諜報活動をしてもらいたいというのが一つ」
「諜報活動ですか?」
ナーシャは意外そうな顔で聞き返すように言う。
諜報活動をするだけなら別に男性が隊長になる必要性はないのではないかと思うだろう。
「ええ。諜報活動をする場合、様々な人と接する必要があるの。
今までスカーレット隊は女性部隊として役割を負って貰ってたけど、今後はそういった活動を主にしてもらいたいわけ。そうなると日常から多少なり男性になれてもらう必要があるわ。スカーレット隊に男性の隊員を入れるわけには行かないから、隊長にという訳ね」
「なぜ、スカーレット隊なのかお聞きしてもいいですか?」
もっともな質問だ。
諜報活動をするだけなら他の部隊でもいい。
それにも関わらずスカーレット隊を選ぶ以上理由があるとナーシャも思ったのだろう。
「スカーレット隊は常に国王陛下及び女王陛下に最も忠誠心の厚い部隊だからよ」
ナーシャがはっとする。
女王陛下のみならず、王国としての切り札的な存在でもある。
現に純粋な戦闘能力なら他国の精鋭部隊以上のものを持っているのだ。レイナも王国戦技大会優勝者、ナーシャでも八強なのだから王国最強と言っても過言ではないだろう。
そして女王陛下の執務室に護衛として入れるのもスカーレット隊のみ。
少なくとも国王・女王から信頼されなければそんな護衛には付けないだろう。
「男性を隊長に任命する最大の理由は、現時点で私が最も信頼出来て、このような任務を頼めるのが彼しかいないのが理由よ」
「では、今回だけの特例にすれば良かったのでは?」
俺も同じことを聞いたな。
答えはすでに知っているが。
「それではダメよ。その時代、その時代で国王が誰を信頼するかは分からないわ。そして心から信頼する人間でなければわたしの考えている諜報活動は成り立たないの」
「なぜですか?」
「スカーレット隊は国内外の情報を収集してもらいたいからよ」
国内外。つまり国内の反国王派の貴族が他国と手を結んで反乱を起こす可能性があるという訳だろう。
いや現に貴族では無かったが北西部の鎮圧をしているのだ。
そういう事もあるだろう。
「つまり、今後王国の脅威となる貴族や組織を探し出して監視したいということか。それには国王、女王陛下に最も近い人間や信頼できる部隊がどうしても必要になるというわけだな?
スカーレット隊は忠誠心がもっとも厚い部隊として、そして信頼できる人間は男女問わず起用するのにどうしても男女問わず隊長になれる必要があった。
だからリムルの我儘のように見せかけ、レイナに強く反発させることで気まぐれだと思わせた。そして隊長の条件にレイナに勝てる人間というのを付けることで必然的に俺を決闘相手仕向けることが自然と信頼できる部下を隊長に迎え入れる準備もした。というところだろう?」
リムルに代わって思惑を代弁する。
彼女もその通りだという風に頷いて答えて見せた。
「オルビスが言ってくれた通りよ。もっとも彼には断ったらわたしと結婚しなさいと脅していたのだけれど」
「な! け、結婚!」
ナーシャが弾かれたように俺を見る。
そりゃそうだろうさ。こんなことを言ったら誰だって驚くに決まっている。
最もレイナは小さくため息をついているようだ。
いい加減、聞き飽きた雰囲気を感じる。
一体、どこまで俺のことを話しているんだ?
「リムル、あのな。そういう事を平気で言うな。いくらナーシャがスカーレット隊で信用出来ると言っても話はどこから漏れるか分からないぞ?」
「あら、いいじゃない。わたしはずっと本気なのよ?」
全くこれだけ思われて断れるかよ。
もっともある理由でリムルの想いを現段階で受け入れるわけには行かないのだが。
「ほ、本当なのですか! オルビス隊長!」
「ナーシャ、その話はあとにしよう。君にはあとでちゃんと話をする。レイナはリムルから聞いているんだよな?」
俺の問いに疲れたように頷いた。
とりあえず話の流れを元に戻す必要があるな。