波乱の始まりと華の園・2
以心伝心ではないが、言いたいことは分かった。
今、ナーシャは感情的になっている。
それを冷静にさせる場を作れと言いたいのだろう。
「ナーシャと言ったな」
俺が彼女の名前を呼ぶと、烈火のごとく怒りを露わにして叫んだ。
「貴様が気安く呼んでいい名ではない!」
「ナーシャ、君は軍がどういう所か理解しているな? 仮にも俺は魔導士隊、隊長だ。つまり上官という事になる。俺とレイナは対等だ。君は上官に対する口の聞き方も分からないのか?」
このタイミングでは明らかに挑発と捉えられても仕方ない。
だが、彼女は知るべきなのだ。
いつ、いかなる時も冷静でなければならないという事を。
「な! 貴様! 女王陛下がお許しになっているからと調子に!」
「ナーシャ! いい加減にしなさい!」
レイナの一喝に明らかに体が震わせたのが分かった。
いや俺でさえ、今のは一瞬気が引き締まるのを感じたくらいだ。
「し、しかし隊長……」
「ナーシャ、あなたが納得していないのは分かります。ですが、現にわたしは彼に勝てませんでした。これがどういう事か分からないわけではありませんね?」
「は、はい」
さすがにどちらが間違っているか理解したようだ。
「他の隊長陣や指揮官の方が断った中、やむを得ずとは言え彼は決闘をしました。そしてその隠していた実力を示して、わたしに勝ったのです。彼が望んでスカーレット隊の隊長を引き受けようとしたわけではないのは分かりますね?」
「はい……」
姉妹と言ったらいいだろうか。
駄々をこねる妹を叱る姉という雰囲気を彼女達から感じた。
とは言え、ナーシャに分からせるために敢えて叱責したのも伺える。
大した隊長だ。人間性もいい。
気性が激しいのは戦いの時だけではあるが、こういう所でも覇気はしっかり感じた。
「オルビス隊長、その、申し訳ありませんでした」
さすがに自分が一方的だったのを理解したのか、ナーシャは謝ってきた。
事が事だけに気が立ってただけだろう。
スカーレット隊は教育も非常に厳しいのだ。冷静になれば分からない事ではない。
「いや、分かってくれたならそれでいい。それに考えてもくれ、自分から望む望まずは抜きにして前例の無いことをやるわけだ。俺も周りから奇異の目で見られるんだ。今みたいに当然、君たちからも睨まれる。決して遊びや酔狂で引き受けたわけじゃないんだ」
「はい」
素直に頷くナーシャ。
俺が言った通り、ナーシャに限らずスカーレット隊の隊員たちは決して快く思っていないだろう。
仕方のない事とはいえ、俺自身も彼女たちには同情する。
「何か思惑があるんだろう? リムル。でなければ、わざわざナーシャを呼んでいないよな?」
俺の言葉にリムルは頷いて見せた。
「じゃあ、そろそろその話をしてくれ」
「それじゃ、話すわね?」
リムルがレイナを見て言う。
彼女も一枚噛んでるわけだ、当然知っていて当然だな。
レイナがうなずくのを見てリムルはその考えを話し始めるのだった。