波乱の始まりと華の園・1
決闘が終わった翌日。
女王陛下に呼ばれて彼女の執務室へ足を運んだ。
執務室は宮中の三階にあり、隣には親衛隊の待機室がある。
リムルが執務室を使用する際、親衛隊がいつでも動けるようにするための部屋だ。
執務室での彼女の仕事は主に申請書や助言書の類いの確認と承認のための押印作業だ。集中するためにも彼女はレイナかスカーレット隊の副隊長かの、どちらかしか護衛に付けないのだ。
執務室の前には親衛隊が二人程、部屋の前で警護をしていた。
俺の姿を見ると、昨日の決闘の噂を聞いていたのか、もしくは実際に見ていたのかある種の畏怖が向けられてくるのがわかる。
「女王陛下が中でお待ちです」
敬礼をして一人がリムルが中にいることを告げる。
しかし雰囲気から緊張しているのが伺えた。
レイナを降参させたというのは思っていた以上に影響を与えていると見える。
「ありがとう。あまり硬くならないでほしい」
「はっ!」
……だから硬いんだって。
まあ仕方ないしばらくの間はこんなんだろうが、そのうち皆もなれるだろう。
部屋のノックを二回とワンテンポ遅れて一回行う。
昔から俺が尋ねる時のノックの仕方だ。
ドアが開くと、そこにはレイナとスカーレット隊の副隊長ナーシャ・フリストンがいた。
なるほど、俺が隊長に就任するに当たっての説明を彼女にもするということか。
ナーシャ・フリストン。
若干、十四歳にして王国戦技大会の八強となった強者だ。
現在は確か十九歳になったか。
セミロングのダークブラウンの髪が女性らしさを残しつつ、戦闘がしやすく整われている。
リムルが可愛いなら、レイナは綺麗だが、このナーシャは庶民的な心地よさを覚える可愛らしさをしていた。
今は赤を基調としたスカーレット隊の制服に身を包み、腰には剣を刺している。
彼女の本来の獲物は槍だが、剣もなかなかの腕前と聞く。
魔法も無詠唱発動が可能で、名実共にスカーレット隊のナンバーツーである。
「失礼します」
一応、見知った仲だけではない。
礼儀をしっかり示し、中へと入る。
リムルが俺を見るとわずかに表情が安堵したように見えた。
「オルビスご苦労様。さて、ようやく揃ったみたいだし本題に入るわね」
リムルの目の前に俺たちは横に並んで立つ。
今は一兵士として女王陛下の前にいるという事だ。
「まずは昨日の決闘、ご苦労様。結果は知っての通り、ここにいるオルビスが勝利を収めたわ。これでレイナとの約束通り彼をスカーレット隊の隊長として任命となるわけだけど、異論はないわね?」
「あたしは納得いきません」
ナーシャが俺を睨みつけながらいう。
やれやれ嫌われたものだ。
殺気すら籠る視線だが、レイナと比べれば猫に睨まれたのと大差ない。
「女王陛下。俺は今からでも隊長の件を撤回しても構いませんが」
「オルビス。普通にしていいわ。それに昨日も言った通りこの件は必要な事なの。撤回するわけにはいかないわ」
「ふむ。頑固だな。リムルは」
「貴様、女王陛下に向かって!」
ナーシャが食って掛かるのをレイナが止めた。
「た、隊長!」
「彼と女王陛下は幼馴染です。女王陛下が心許せる数少ない友の一人という事を理解しなさい」
「っく」
やるせない思いを俺にぶつける様に再度睨みつけてくる。
隊長に着任前から思いやられるんだが。
だが、なるほど俺でなければならない意味も分かった。
こんな気性激しい子達をまとめ上げるのは団長か副団長でなければ務まらない。
そして俺ならこの程度で怯むことはない。
ザイルやはりお前の持ち込んだ話はろくな事じゃなかったな。
ふと、リムルを見ると何かを言いたげに俺をじっと見ているのに気づくのだった。