熾烈な戦いの果てに・6
俺も俺だが、彼女も彼女だ。
人間の目で追えない速度で動くというのはどういう脚力をしているんだ。
「”ライトニング”!」
俺の真後ろで声が聞こえる。
振り向くと、魔法を剣に纏わりつかせて斬りかかって来るレイナがいた。
なるほど、魔法剣か。
魔法を込められる不思議な鉱石、スペルストーン。
グランディスの最高傑作の一つとも言われるグランディスの名の剣はスペルストーンで鍛えられた剣なのだ。
「はぁぁぁぁ!」
凄まじい気合と共に、魔法剣が俺の防御魔法を切り裂いた。
だが、それでも俺にかすり傷一つ負わすことはない。
なぜなら。
「アブソルート・フィールド……。全方位絶対防御魔法ですか……」
絶対防御魔法。
空間と空間をわずかにずらす事で、いかなる物理攻撃、魔法攻撃を弾く最強の防御魔法。
欠点は空間と空間をわずかとはいえずらしている事でこちら側も攻撃が出来ないことだが。
「あなたを見くびっていたようですね。これ程の魔法を無発声発動出来るとは」
悔しい。冷静を装っているようだが、そういう感情をレイナから感じる。
「君が、殺すつもりで来るというならこっちもその気になるしかないだろう?」
「参りましたね。それで、魔導士隊の隊長では割に合わないのではないですか?」
「そうでもないさ。本当は気ままにいたいだけなんだ。隊長だって半ばザイルに無理やりさせられたようなものだしな」
「言いますね。はぁ。全く、困りましたね。攻撃が通らないのではこれ以上やっても私の勝ちありません」
動きが止まった俺たちに場内がざわめき始める。
どう考えても今の一撃はレイナは決めに行ったはずだったのだ。無理もない。
「俺の魔法力が尽きるのを待てばいいんじゃないか?」
「わたしの認識が確かでしたら、最上位攻撃魔法をあなたは放てたはずですよね?
魔法を複数制御出来るあなたなら、この後防御魔法をガード・フィールドに切り替えた上で放つことが出来るのではないですか?」
最上位攻撃魔法スペル・フリーズ。
発動者を中心にあらゆるものに宿っている魔力を一点に集中させ、弾けさせる魔法だ。
この魔法だけは無発声発動どころか、無詠唱すら出来ない。
制御に使う精神力が半端ではないからだ。
精神力さえ持続できるなら発動後、魔力を弾けさせるタイミングは術者の任意だ。
使い手次第だが、最低でも大都市一つは消滅させる事が出来る最上位魔法である。
そして俺は、スペル・フリーズをガード・フィールドを張りながら放つことが確かに出来る。
最も発動後の消耗は激しい。
はっきり言って絶体絶命でなければそんな無茶は出来ない。
「出来ないと言ったらウソになるな。だが味方相手にそれを放つわけにはいかないだろう。さすがに」
「どうでしょう? わたしは殺すつもりで戦ったのですよ?」
「過去形か」
俺がそう言ったのと、彼女が剣を収めるのは同時だった。
「少なくとも、この決闘はわたしの負けです。不意打ちでもない限り正面切って本気でやり合える相手ではありません」
そういうと彼女は審判の方を向いて、自分の負けである意思を見せる。
決闘終了の弓が放たれ、決闘は俺の勝ちで幕を閉じることになった。
最も、勝っても負けても待っているのは波乱でしかないのは間違いなかったのだが。