迫る陰謀・6
レイナの見つめる視線に俺は慌ててナーシャから離れる。
色々とまずいと思いつつ、レイナへの言い訳を考えているとレイナがため息を付いた。
「オルビスさん、慌て過ぎですわよ? まずは落ち着いて下さいませんか?」
「あ、ああ」
レイナに促され俺は一度深呼吸をする。
冷静になって状況をもう一度考えよう。ナーシャに励まされてそれに感動してつい抱きしめてしまったんだ。別にやましい思いがあったわけではない。
慌ててたという事は、女性と抱き合っているという所を他人に見られて動揺しただけだな。
「落ち着きましたか?」
「ああ。悪い、取り乱して」
「オルビスさんは隊員から慕われてますし、以前あんな任務もありましたから仕方ありませんわ」
「レイナさん、すみません。わたしもつい」
ナーシャはやや照れたような表情で謝っている。
「大丈夫よ。あなたは良くやってるわ。恐らくオルビスさんを励ましたのでしょう?」
レイナの言葉にほっと安心するナーシャ。俺も同じく安心する。
視線をレイナに送ると、表情を引き締めて俺の前まで来た。
「ところで、ナーシャから資料は受け取っていると思いますけども。もう把握はされてますわね?」
「ああ。ちょうど把握し終わったところだ。レイナがここに来たという事は人選が終わったというところか?」
「ええ。おとり任務の人選を決めましたわ」
そう言うとレイナは一枚の紙を俺に寄こした。
リストを見ると、分隊に数名の名前が書かれており、横に出身地が書かれていた。
……なるほど。事前にノラスティス公爵からの資料を目に通させた上でこのリストを持ってきたわけか。
「うちのメンバーからイヌグニアス孤児院出身者が六名もいるとはな。で、俺は承認すればいいだけと?」
「その通りですわ」
なるほどな。自身が隊長だったらここまで動けない。だから隊長補佐兼代理として名目としては隊長の代わりに根回しや調整を行うとしたのだろう。
事実、隊長をしながらそこまでの動きをするのは大変だ。
レイナでなくても、誰か隊長の代わりを探して自分が動きでもしなければ無理だろう。
「君は本当に優秀だな。俺が部下になりたいくらいだ」
俺はそんな冗談を言いながら受け取ったリストに印を押す。
これでメンバーの承認は済んだことになった。
印を押したリストを渡すと、俺も俺で動いたことを告げる。
「レイナに俺からも伝えたいことがあるんだ。これを見て欲しい」
そう言って出したのは父さんから貰った魔法の論文だ。
追跡魔法、生体情報を確認する魔法、遠隔会話の出来る魔法の三つ。
レイナはそれらを読みつつ、満足そうに頷いた。
「以前、リムル様から今回のような任務に役に立つ魔法を開発してもらっていると聞いたことがありますわ。これはその魔法という事ですのね?」
「ああ。そうだ。これを使って全員を監視する。何かあればすぐに分かるようになっているから誘拐されれればすぐに居場所が突き止められる」
「隊長、相手にそんな魔法が掛かっていると見破られたりはしないんですか?」
論文を読んでいないナーシャは心配そうに尋ねてきた。
ナーシャにも論文を渡すと、驚いた表情をする。
「これ……。とんでもない隠密性なんですね。こんな事が可能だなんて」
驚くだろうな。俺だって驚いたさ。
「この魔法のうち離れた仲間と会話の取れる魔法をスカーレット隊全員に覚えてもらう。そうすれば全員で状況の把握が出来るようになり、緊急時の情報収集もかなり迅速に行えるだろう」
「そうですね。こんな魔法があれば離れた場所での作戦行動もしやすいですわ」
レイナの満足そうな顔に俺としても満足が行く。
ほとんどがレイナに先を越される形で情報を知っていく中で唯一、レイナへ先に提示できた情報なのだから。
これでおとり任務の準備は出来た。
後は実際に誘拐されるのか、されたとしてどこへ連れていかれるのか。
これからが本番だ。