熾烈な戦いの果てに・4
黒い髪を靡かせながら、剣を抜く。
鋭く研がれた両刃の中剣だ。
名剣グランディス。
アルストム王国で名高い鍛冶グランディスの名前を取った剣で、国内に数本しかない。
使い手次第では鎧さえも切り裂くと言われる程の切れ味を誇り、他の剣と比べても軽く、そして頑丈だ。
その軽さから彼女は、普通の戦士が一撃を繰り出す間に、二連撃できると聞く。
鉄と鉄とが弾き合う音が訓練所に鳴り響いた。
彼女の繰り出す中段からの薙ぎ払い、俺が剣の軌道に沿ってサイドステップで逃れようとした。
だが彼女は薙ぎ払った時の勢いで俺が逃れた方へ体を向き直すと、斜めからの斬り込みを入れてくる。
避けても必ず追撃してくることはわかっていた。
俺は相手の剣に合わせて短剣で剣の軌道を反らし、その勢いを使って距離を取る。
互いに初めての一合を交えた。
レイナからの手合わせとも思える最初の攻撃を避け切ったが、これで分かったことがある。
戦闘における思考は恐らく互角。
あとはどれだけ相手より早く動くかだろう。
再び、俺は地を蹴る。
動いたのはまたもや同時、今度は向こうは速度を上げてきた。
空けた間合いを、一瞬で詰めてくる。
斬撃、突き、打ち払い。
連撃を彼女は繰り出してきた。
俺はそれを受け流し、避け、時には体術を交えて受けながら蹴りを繰り出す。
彼女の一手一手は常に次の行動に繋がっていた。
決して、手が止まるようなことはない。
だが、それは俺とて同じだ。
最初からすべての行動が止まる訳がないことを承知の上で、受けている。
二合、三合と剣の交わる回数が重なっていく。
だが、ここで一つ俺は彼女との差に気が付かされつつあった。
俺には決定打がないのだ。
今のまま受けていたら、確実にやられる。
だから俺は受けから攻めに転じた。
彼女の斬撃を受けつつ、足払い、避けられれば短剣による斬撃、突き、払い、そして肘打ちを狙い、また短剣で斬撃を繰り出す。
再び何合も打ち合うと、お互い距離を取った。
靡いていた彼女の髪が、すっと元の綺麗なロングヘアーに戻る。
訓練場はとても静かだった。
見学者の人間たちも歓声を上げることを忘れているようだ。
ふと、レイナの顔を見ると彼女は笑っていた。
「さすがですね。ここまで私と打ち合えるとは思いませんでした」
称賛。だが、それだけでは無いようだ。
「このグランディスと打ち合って、剣を失わなかったのはザイルさんを含めると、あなたで五人目です」
「グランディスと比べれば多少見劣りするが、この剣もそれなりに鍛えてもらっているからな」
俺の使う二本の短剣も、グランディス程でなくとも名のある鍛冶師によって鍛えられた剣だ。
しかも短剣という特殊な長さの剣だ、国内でも俺を含めてそれほど多くはない。
「なるほど。しかし、魔法をまだ使っていないところを見ると、まだ余裕はありそうですね?」
余裕がある? とんでもない。
魔法を使う余裕なんてない。剣に集中しなければ一瞬でやられてもおかしくなかった。
だからこそ、彼女の剣から逃れ続けているわけだが。
「冗談を。魔法を使う余裕すらないさ」
「そういう発言が出ること自体、まだ力を隠していると思うのですが?」
買い被り。
そう言いたいところだが、確かに彼女の言うことも一理ある。
余裕はない。だが、必死ではない。
つまりまだ追い込まれていないという事になる。
それは即ち。
「今からあなたを殺すつもりで行きます」
そう。お互いを追い詰めるしか本当の実力を測れないという事だった。