迫る陰謀・2
アルストム城から歩いて約十分というところにノラスティス公爵家の館は立っていた。
さすがアルストム王国の重鎮と言うべきか、公爵家の館の門番は私兵とは言え親衛隊に勝るとも劣らない雰囲気を感じていた。
ナーシャに約束を取り付けて貰い、こうしてノラスティス公爵に会いに来たわけだ。
今回はナーシャにも付いて来てもらった。
レイナの希望でもあり、今後様々な場面で同行させることになりそうだ。
門番の兵にナーシャから約束の件を伝えてもらうと、俺たちは門を潜ることを許される。
門の中に入ると正面の庭にさえ兵士が三人程いる。
顔こそ笑顔で迎え入れてくれているが、空気で分かった。いつでも斬りかかれるくらいには警戒を怠っていない。
中央には石で作った神話の中に出てくるペガサスの像があり、周りは植木が整えられていた。
ペガサスはノラスティス家の紋章でもある。
館は二階建てで入り口には重厚な焦げ茶の色をした立派なドア。
壁は白く清潔感と安心感を与えてくれた。
俺とナーシャはドアの前まで来るとナーシャが呼び出しのための金具を使ってドアを叩く。
少しして使用人らしい若い女性が現れた。
肩よりやや長いロングヘア―で、一般的な女性くらいの身長。
美人の部類に入る顔立ち、公爵家の使用人として相応しい風格、品格を感じた。
「ノラスティス公爵との約束で参りました。オルビス・スティングレーとナーシャです」
ナーシャが約束の事について伝えると使用人の女性は笑顔になる。
「お話しは伺っています。どうぞ、中へ。応接室にご案内いたします」
中に入れると、女性が先導して応接室へと向かう。
館の中は高そうな絨毯に壁には絵画、中には女性を象ったブロンズ像等も飾ってある。
館こそは王、女王のものと比べれば小さい。だが中の作り、品格や飾っているものの価値的なものは、ノラスティス公爵の方が上にも見えた。
公爵家は王族の血を引く家柄だ。ある意味、他の貴族に舐められてはいけない。
そのための配慮かも知れなかった。
応接室に着くと部屋の中央にソファーがあり一人掛けのソファーが三つずつテーブルを挟み向かい合う形になっている。
俺とナーシャはそのまま入って手前側、外の景色が見える席に座るよう勧められた。
「ご主人様は少し雑務が残っているとの事で、少しの間ここでお待ちください」
綺麗なお辞儀をすると、部屋から出て行った。
「ふう……」
ナーシャが小さく息を吐く。
わずかだが緊張しているようにも見えた。
「どうかしたのか?」
「いえ、ちょっとだけ気を張ってしまっていたので」
照れ笑いをしながら言うナーシャがどことなく可愛いな。
「確か、来るのは二回目だろ?」
「はい。でも、ここの使用人も私兵の方も笑顔こそしてますが、闘気を感じるんです」
「まあ、ノラスティス公爵と言えば国内で影響力は絶大だからな。それだけに敵も多いんだろう」
リムルなんかは常に王宮の中だ。
公務の時でもないと外に出してもらえない。
ノラスティス公爵は逆に外交が多い。それだけに外に出ることも客を招くことも多くなる。
必然的に私兵や使用人は警戒心が強くなるのも仕方ない。
「ナーシャ、レイナの事で少し聞きたいことがあるんだがいいか?」
「ええ。わたしで良ければ」
実は気張っているように見えるレイナが若干気がかりなのだ。
あらゆる任務を進んで引き受けて、リムルと二人三脚でいるようにも思える。
だが、ただの忠誠心にしては度が過ぎているように感じていた。
「レイナは、過去に何があったんだ? リムルへの忠誠心はただの忠誠心とは思えないんだ」
「それは……」
質問に笑顔で聞いていたナーシャの表情が曇る。
俺から目を反らして自分の手に視線を落とした。
「わたしの口からじゃ言えません。ただ言えることはレイナさんをただ信じて欲しいんです」
「言えないのか。何かあるとは思ったが、事は大きそうだな」
切迫した雰囲気さえ感じることがあるレイナ。
それで判断を誤るような彼女じゃないからこそ信用しているわけだが。
本人に直接聞ける雰囲気もなく、ナーシャなら事情も知っていて話してもらえるかと思ったのだが、少々考えが甘かったようだ。
「ならば、私から話をしようか」
その声に振り向くと今日、面会に来たノラスティス公爵が立っていた。