迫る陰謀・1
お待たせしました! 第二部始動です!
キーマス伯爵襲撃事件から一週間が経った。
エルリスは看守に引き渡して、宮廷薬士には彼女の治療を頼んだ。
魔薬が切れてからエルリスとはゆっくり話がしたい。
俺への恨みの事、なぜ反乱に参加をしたのか、魔薬については志願したのか、聞きたいことは多かった。
事件の真相についてはリムルに聞いた。
ナーシャにノラスティス公爵の動きを調べるよう指示を出した直後、呆気なく向こうが黒幕だと打ち明けてきたという。
まるでこちらの動きを読んでいたとも取れる程だった。
要約すると、反国王派が魔薬を使った狂戦士計画の情報を掴み、実際にどれ程の脅威かを調べるためにキーマス伯爵を襲撃するように手引きをしたそうだ。
俺の報告次第で今後の動きを考えたいと伝えて来たらしい。
ちなみにスカーレット隊をリムルの自由に出来るよう計らったのもノラスティス公爵だ。
つまり今回の件は全てノラスティス公爵のシナリオ通りという事になる。
俺としては非常に頭の来る話だった。
そして、この事を踏まえて新たに計画が動き出す。
スカーレット隊兵舎、隊長執務室。
執務机を挟み、レイナと俺はやや睨みあう。
問題はなんてことない、レイナが新たな指令をリムルから預かった事によるものなのだが……。
「キーマス伯爵の事があったばかりなんだが、それでもやるのか?」
「今度の命令も反国王派を抑えるには必要の事だと、ノラスティス公爵様から助言を頂いたと聞いていますわ」
「だからと言いたいんだけどな」
命令書を半ば投げ捨てるように机の上に置く。命令書には「囮役」と「行方不明の婦女子」の文字が見受けられた。
「しかも今度のはキーマス伯爵の時よりも明らかに危険が大きすぎる」
どういう事かと言うと、狂戦士計画の裏にホモンクルス研究もあるらしいのだ。
ホモンクルスは生殖機能を持たない人造人間。
人の体の一部を培養をして作ることが出来る。もちろん髪の毛でも可能だ。
今のところ男性の体より女性の体からの方が成功例が多い。
体の一部を培養して作り上げるわけだが培養液と代替母体製造、維持には莫大な費用が掛かると聞いている。
それを補うのが女性の体だった。女性には元々人を育てる力を備えているのだ。
女性を使えば簡単にホモンクルスを製造できるというのはこの研究ではもはや常識である。
ただし、あまりに非人道的なため各国の宮廷魔法研究においては禁止していた。
またアルストム王国も加入している貴族監視機構と言う貴族同士で違法を監視しあう組織での条約にも禁止事項として盛り込まれているのだ。
だが反国王派は禁忌を破ろうと言うのだ。
ホモンクルスの製造成功例の多いのも女性、ホモンクルスをその身で育てることのできるのも女性。
くそ下らない事のために女性を誘拐していると考えられるわけだ。
レイナが持ってきた命令書は裏付けを取るための囮である。
行方不明者が多いのは反国王派が管理する領地の村であることが分かっていた。
しかも決まって元々孤児の娘であることである。
スカーレット隊の隊員を孤児の娘として村に移住させて誘拐されるように仕向けるというのが思惑だ。
どう考えても危険すぎた。
「そのためのスカーレット隊でもありますわよ?」
何を今更と言った毅然とした態度のレイナ。
「前回の任務もそうだったが、スカーレット隊としてはこれもまた未知の任務なのは承知の上だな?」
「もちろんですわ」
これが元スカーレット隊、隊長の覚悟というのだろう。
如何なる命令でもやって見せるという覚悟と誰一人として失わない覚悟。
全く肝の据わり方が半端ない。
単騎としての戦力、強さは俺の方が上だろう。だが精神面での強さは明らかに彼女の方が数段上だ。
俺では足元にも及ばない。
「人選はレイナに任せるが、まずは分隊長達に伝達してくれるか?」
「分かりましたわ。では、早速皆に伝達をしてきますわね」
「ああ」
返事をすると、レイナは早速伝達しに執務室を出ようとする。
「レイナ」
後ろ姿に鬼気迫るものを感じ、つい呼び止めてしまった。
「なんですか?」
本当はレイナに掛けられる言葉はなかった。
だから元々考えていたことを実行することにする。
「ノラスティス公爵に直接あって話を聞きたいんだが、約束を取り付けて貰えるか?」
俺の言葉が意外だったのか、先ほどまでやや硬い表情だったのだが、わずかに柔らかい表示になる。
「もちろんですわ。わたしでもいいのですけど、良い機会なのでナーシャに行かせますわね」
「ああ。頼む」
頼みを聞き終えると、レイナは今度こそ執務室を後にした。
心なしか俺の頼みがレイナにとって望んでいたことでもあったようだった。
2018/9/18 一部表現修正
前:事件の真相についてはリムルに聞いた。
↓
後:事件についての真相についてはリムルに聞いた。