可憐な華は可愛く恥じる
ちょっと息抜き程度のショートストーリー第2弾。
あられもない姿を見られたレイナは恥ずかしい思いを我慢しながら隊長警護をする。
しかし、隣で唸り続けるレイナにオルビスは痺れを切らして……。
陽の光が入り込み明るいはずのこの部屋は一か所だけ妙に暗かった。
俺の隣に佇むレイナが原因なわけだが。
「うぅぅぅ……」
顔を紅潮させて拳を握りながら唸るレイナ。
今朝、俺のベッドに間違えて入り込み事もあろうに抱きついていた事を悔いてか、ずっとこの調子だ。
「レイナ」
「なんですか……?」
不貞腐れた声。
いつもなら凛として返事を返すのだが、今のレイナはまるで怒られて不貞腐れる子供の様である。
気持ちは分からなくはない。
あられもない無防備な姿を晒した上に男性にこれでもかと抱き着いてしまったのだ。落ち込むなと言う方が難しい。
だから、俺は仕方なくこういうのだった。
「ナーシャと代わって来い。これじゃ俺も仕事にならないしな」
「わたしのせいと言いいたいのですか……」
トーンが一つ下がった声音で問う様に聞いてくる。
ある意味で怖い。こんなレイナは着任以来見たことないのだ。
「半分は部屋の鍵を閉め忘れて寝ていた俺も悪い。だが、なぁ……」
まさか寝ぼけて俺の部屋に来るとはな。
一応、俺の部屋は執務室の隣にある。これは隊員たちに配慮して部屋の階を変えているからだ。
しかもこの部屋は男性の隊長を迎えるために新設した部屋でもある。
元は物置部屋だったのを改造して作られたのだ。
元隊長、つまりレイナの部屋だったというわけでもなかった。
普通に考えれば俺の部屋に寝ぼけて入ってくるという要素が限りなく少ないのである。
「キーマス伯爵のところに行く前に行った訓練の時は、俺に体を弄られても平気だったのに、どうしてだ?」
「デリカシーがないですわね……。心の準備もなくあのような姿を見せればわたしとて取り乱しますわ」
依然として顔を赤くしながらも反論するところはしっかりする。
全く、そうと言ってもこの唸られたままでは俺も気になって仕事にならないのは事実なのだ。
「レイナ。命令してもいいが、少し休め。少なくとも精神的に不安定な状態じゃ仕事に支障が出る」
「でも……」
休めと言っているのに顔を紅潮させながら俺の傍を離れようとしない。
レイナの使命感は感心するが、やはり万全な状態でないと。
さて、どうするか。
今朝の事が恥ずかしいなら、もっと恥ずかしい目に合わせば荒療治になるかも知れない。
「レイナ」
俺は席を立ちあがると、レイナの肩を掴む。
「な、な、なんですか!?」
「今朝の事で、頭がいっぱいなんだろ?」
「そ、そうですよ! で、でも、肩なんて掴んで何なんですか!」
本当に心の準備をしていないと取り乱すんだな。それだけは理解した。
だが荒療治か、休ませるかの二択のためにもやるしかない。
自分の顔をレイナの顔に近づかせるた腰に手を回して自分の方に引き寄せた。
「え!?」
驚くレイナに構わず今度はレイナの耳元に顔を近づけると、耳元で囁くように告げる。
「レイナ、休まないというならこのままキスをするがいいか?」
「…っ!?」
声にならない驚き、ゆっくりと耳元から顔を話すとレイナの顔を見た。
先ほどよりも、いや俺にあられもない姿を見られた直後以上に顔をが赤い。
突然の事で動けないのか、それともキスを受け入れるのか微動だにしない。
なら俺は唇をレイナの唇に近づける。
そして……。
「な、何を考えているんですか!」
俺は勢いよく突き飛ばされて体よく椅子に座る形になった。
レイナは真っ赤な顔をしながら両手を頬に当ててる。
「頑なに俺の傍を離れようとしないからに二択を迫ろうと」
「だ、だからってキスってどういう事ですか!」
「荒療治。あと恥ずかしがるレイナが可愛かったからキスしたくなった」
熟したリンゴに負けないくらいに真っ赤な顔をするレイナ。
「や、や、休んできますわ!」
大きな声を張り上げて逃げるように執務室から出て行くレイナ。
ふむ。一先ず今日の仕事の脅威は去ったようだった。
この後、ナーシャが代わりに来たのだがレイナの事でからかわれる事になるとは思いもよらなかった。