可憐な華は毒を制す・10
二人ともは中剣を抜くと、お互いに顔を見合わせて地を蹴った。
一瞬で第一陣と相対すると、剣を高速で二振りする。
わずかな間が空き、次の瞬間、血しぶきが辺りを赤く染めた。
「こ、こいつら……」
兵の一人が顔を引きつりながらセシルとパトリシアを睨みつける。
「隊長をやりたいんだったら」
「まずはあたし達を倒さないと駄目だよ~」
二人の後ろ姿が戦の女神のように見える。それくらい頼もしいのだ。
やはりスカーレット隊は最強なのだな。
「くそ!」
兵士の一人が剣を振りかぶって二人に襲い掛かる。
それを合図にしたかのように他の兵士たちも二人に迫る。
セシルとパトリシアは二手に分かれ、剣で応戦を始めた。
普通、一度に一人の人間に襲い掛かれる人数はどんな多くてもせいぜい四、五人だ。
相手が千人いようと、一万人いようとこれは変わらない。
さらに単騎で迎え撃つ二人に対して相手は魔法や弓での支援が出来ないのだ。
二人は舞を舞うように敵の剣、槍を避けると一人、また一人と敵を倒していく。
「二人とも任せたぞ!」
俺は二人にそう叫びかけると館へ駆ける。
二人から俺にターゲットに変えた敵も迫ってくる。
いくら何でも二人では抑えきれないのだろう。俺は迎え撃つ体制を取った。
だが目の前を凶悪な炎を纏った風の渦が前方の敵を焼き払う。
炎の出どころに視線を向けると、右手をこちら側に向けているパトリシアがいた。
「ふふーん! 隊長には手を出せないんだからね!」
パトリシアは俺にブイサインを送りながら、敵からの剣を受けていた。
全く、頼もしいやつだ。
「ほらほら、浮気なんてしたら今みたいに消し炭になるから覚えておきなよ!」
セシルも大きく声を張り上げながら目の前の敵を切り伏せていた。
「隊長、後ろは気にしないで救援に行って!」
「わたし達はそう簡単にここを通すつもりはないからさ!」
俺は腕を頭上に挙げて返事すると館まで後ろを気にすることなく走り抜けることが出来た。
もう俺に迫ろうとするやつは一人もいない。
後ろでは俺が抜けたのを確認したからか、派手に魔法での攻撃を始まるのだった。
爆風が後ろから吹き抜けてくるのを感じながら、俺は館までたどり着く。
館の外ではガード・フィールドを展開するトルファを見つけた
どうやら一人で多重展開しているようだ。さすがだな。
ガード・フィールドの外にはユフルを見つける。二十人くらいのキーマス伯爵の私兵と後ろを守っていた。フィールド内にはリーナが怪我人の介抱をしているのが見受けられた。
だが、どういうことか? レイナの姿を見かけなかった。
レイナがいないのは気になるが状況はどうあれ援護する必要はある。
幸いにもパトリシアが作ってくれた道のおかげで何の障害もなくユフル達の前まで来れた。
「隊長!」
ユフルが俺の姿を見ると弾けたように声を上げた。
「レイナはどうした?」
「あの魔導士にやれました。今、リーナが治療にあたっているはずです」
まさかレイナがやられるとは。
俺はユフルのいう魔導士の方に視線を向ける。
同時にユフルの言う魔導士が笑い声をあげて一歩前に出てきた。
「オルビス・スティングレー! やっぱり来たのですねぇ!」
魔導士は女性だった。髪は茶でセミロング、黒と白を基調とした魔導士の法衣。
忘れもしない二年前に俺が最も手を焼いた相手だ。
名は確か……。
「エルリス・アルファートだったか」
「隊長は知っているんですか!?」
「ああ、二年前にな……」
元反国王派の貴族の娘で、非常に好戦的かつ貴族でありながら貴族を嫌う妙な人間だった。
二年前にキーマス伯爵領内に反乱組織があると聞き、家柄を捨ててまで反乱に加わった凄腕の魔導士でかつ切れ者だ。
逃がすと厄介だと思い、俺が唯一深追いした相手。
「確か、崖から落ちたはずだったんだが……生きていたか」
そう。逃げるエルリスを追い詰めたが彼女は捕まるくらいならと崖へと自ら落ちていったのだ。
ただし崖の下は川だった。捜索はしたが結局生死を確認に出来なかったのだが。
「ええ、生きてましたわよぉ。あなたに会うために、あなたを殺すために、ねぇ」
凶器に満ちた瞳がこちらを射抜く。
予想を全くしていなかった。おそらく俺が出会った中で最も厄介なやつが現れたことになるのだった。
2018/07/07 リリナが二人存在していたため修正
リリナ→リーナ