熾烈な戦いの果てに・3
訓練所の出入口を通ると、そこには各部隊の代表が決闘の見学にやって来ていた。決闘のカードがスカーレット隊の隊長ともなれば見学者は多くなる。
訓練所の王族用の見学席にはリムルとザイル、あと公爵家の人間が数人。
ザイルが俺の方を見て軽く頷き合図を送ってくる。
きっとザイルも事情は聞かされていたのだろうが、リムルに口止めでもされていたのだろう。やはりリムルはお転婆娘だな。
訓練所に一際大きい歓声が上がる。
歓声の方を振り向くと、大陸でも珍しい黒髪のロングヘアーで純白の鎧と腰当を身を纏う女性。戦場の魔女、戦場の華と呼ばれるスカーレット隊の隊長レイナ・グラテスだった。
スカーレット隊、隊長はもちろんのこと王国兵団での戦闘技術を競う王国戦技大会のグランドチャンピオンでもある。
名実ともに兼ね備えた女傑にして可憐な華なのだ。
容姿は言うまでもなく、スタイルも良い。
女性らしいプロポーションは女性とし強調する部分が目立っていた。
女性らしいことは女性としては素晴らしいが、戦闘には本来向かない。
だが、彼女がスカーレット隊の隊長というのが戦闘にも長けていてまさに戦いの女神と呼べる程の強さを持つ。
彼女が俺の目の前までやって来た。
「お久しぶりですね、オルビスさん。二年ぶり、というところでしょうか」
透き通る声。
確か、歌も上手いと聞いたことがあった。
「ああ。北西部鎮圧戦以来だな」
隣国との境で両国に不満を持つ者たちが住んでいた町があった。
そこで反乱の予兆があると鎮圧任務を受けた時にスカーレット隊も一緒だったのだ。
「今度は戦場だけじゃないようだが」
「もう事情は知っておられるのですね?」
「ああ」
俺がそう答えると彼女は満足そうに笑顔を向ける。
「その笑顔は、気兼ねなく全力が出せるからか?」
「ええ。事情を知っているならなぜ私が決闘を望んでるかもお分かりでしょう?」
「全くリムルといい、あんたといい。俺の周りにはお転婆しかいないのか」
「あら、両手に花で良かったではありませんか」
全く、この隊長さんと来たら。
しかし、レイナは本気で俺と手合わせをしたかったと見る。
二年前、一緒に戦場で顔を合わせたがいつか手合わせをしてみたいと言っていたのを思い出した。
なるほど、今回のことは彼女にとって丁度良かったわけだ。
彼女の美しさはもちろん、戦いに無駄がなかった。
戦場での彼女は舞でも舞っているかのように綺麗だった。
彼女と戦った相手はほぼ一撃で絶命していたが。
一流の戦士であり魔導士としても申し分ない。
魔導士部隊にいるなら、俺の右腕もしくは彼女が隊長だっただろう。
そうしている内に、決闘の審判がやって来ると俺とレイナに視線を向ける。
準備は良いかと言う意味だ。
俺もレイナも迷わず頷いた。
審判によって決闘開始の合図となる弓矢が空へと向けられる。
矢が空を切るのと俺と彼女が動いたのは同時だった。