可憐な華は毒を制す・9
レイナのところへ合流するメンバーは結局、セシルとパトリシアの二人になった。
二人とも副分隊長に任せて、俺についてくことを選んだようだ。
メンバーが決まったところで俺たちはキーマス伯爵領へと急いで向かった。
キーマス伯爵領、首都ロレンド。
人口約一万五千人の都市だ。
城壁が街全体に覆われる城郭都市で、北側での有事の際は拠点としても使われることになっている。
この街を目視出来た時から、街は火の手が上がり非常に危険な状態であることが分かった。
火の手はロレンド中央部に位置する。
おそらくキーマス伯爵家の館なのだろうことが分かる。
俺たちがたどり着く中は非常に混乱していた。
キーマス伯爵の私兵が大きな声で住民を避難させている最中だ。
「すまない、聞きたいことがある」
避難誘導をしている兵士の一人に声を掛けると、勢い良く振り向く。
「なんだ、この忙しい時にっ……!」
俺を見た瞬間に声の勢いが弱まる。
きっとスカーレット隊の赤い華を彩った部隊章が目に留まったからだろう。
「ああ。忙しいときにすまない。俺はスカーレット隊、隊長のオルビス・スティングレーだ。実はキーマス伯爵が襲われる危険性があるという事で、王都から急遽駆け付けたのだがどういう状況だ」
王都から来たのは確かだが、正確には違う。ファルファンド侯爵領からだがそんなことは今、どうでもよかった。
「失礼しました! 現在、正体不明の一団がキーマス伯爵様の館を襲撃しております。住民は街の西側と東側へ避難させているところです!」
兵の言う通り、住民は誘導に従って避難をしている最中のようだ。
しかしキーマス伯爵が襲われるだけなら分かるが、避難が必要な程の大規模な攻撃をするとは。
「館の状況は?」
「申し訳ありません!自分では把握できておりません!」
「そうか、分かったありがとう」
俺はそう言うと避難誘導を続けて欲しいと伝える。
後ろにいたセシルとパトリシアが不安そうに俺を見ていた。
「セシルの感は当たったな。一先ず館の方へ向かうぞ!」
二人が頷くの確認すると、館へと急ぐ。
館は付近に着くと街中だと言うのに戦争のような状態だった。
ガードフィールドが多重で館全体を覆っている。うちの隊員が、やったのかは分からないが良い判断だ。
怒号が聞こえ、血の匂いが漂い金属がぶつかり合う音があちこちで鳴り響く。
俺達の目の前にいるのは少なくともキーマス伯爵の私兵では無い。目の前の奴らは間違ってなければ反王国派の兵士なのだろう。
相手が誰だかは良いとして、目の前にいる奴らを蹴散らさないと館には近づけなのだった。
俺達が様子をうかがっていると兵士の一人がこちらに気が付く。
「スカーレット隊の隊長がいるぞ! 打ち取って名を挙げろ!」
気が付くと同時に、これか。
スカーレット隊の部隊章がある鎧を着ているわけだが、俺が隊長と分かるとなるとだいぶスカーレット隊の隊長に男が選ばれたというのが広がっているようだな。
「隊長、ここは」
「あたしたちに任せて先、行っちゃって」
セシルとパトリシアが俺の前に立つと敵を阻むのだった。