可憐な華は毒を制す・4
兵舎の外に出ると、アスベル国境警備大隊長と国境警備隊員が一人待機していた。
すぐさま皆を整列させると、隊の前に出て到着報告をする。
アスベル隊長は男前の雰囲気はあるが、見た目爽やかそうな隊長だ。王国軍の印章の入ったオーバーに王国軍の軍服を着ている。
個人的には軍服より正装の方が似合いそうだ。
報告を終えると向こうは表情を崩す。
「お待ちしておりました。貴方がスカーレット隊、隊長のオルビス殿ですか。噂は聞いております」
ろくな噂じゃなさそうなのだが。
「噂ですか」
「普通に話してくださって大丈夫ですよ。それにスカーレット隊隊長には有事の際の軍指揮権があります。普通の隊長とはちがいますから」
スカーレット隊長は、有事の際に二個連隊まで指揮する権限がある。将校クラスの権限だ。
「そうか。アスベル隊長も気軽に話してくれないか?」
「じゃあ遠慮なく。君はあのレイナと決闘して勝ったらしいね?」
「まあな。立ち話もなんだ。どこか話せる場所はあるか?ついでにキーマス伯爵の事で聞きたいこともある」
「じゃあ、僕の執務室へ行こう。訓練については彼と分隊長で話し合って貰っていいかな?」
「ああ。セシル取りまとめ、頼めるか?」
「分かったよ」
任せてくれと言うように手を挙げて答える。
「あと、クレア。俺と同席してくれ」
クレアは頷いて答える。
「アスベル隊長、構わないか?」
「別に聞かれて困る話をする訳じゃないし、構わないよ」
俺たちはアスベルの執務室へと向かうのだった。
国境警備隊長執務室。
スカーレット隊長の執務室と比べるとさすがに質素だった。
資料を収める棚にコートスタンド、来客用のテーブルにソファーがあるくらいだ。
部屋に入るとソファーを勧められ、俺とクレアは並んで座る。
アスベルはオーバーをコートスタンドに掛けると向かい側のソファーに座った。
「ファルファンド侯爵に聞き取りするのは聞いてるけど、僕の話も聞きたいのかい?」
「ああ。軍人としての目から、彼はどう見える?」
「僕個人の意見になるけどいいのかな?」
「頼む」
アスベルがキーマス伯爵について語りだした。
話を聞くとこの地方においては人気があり良い政治をしているという。
コレストバスとの貿易もアルストム王国の利益を守りつつコレストバスの両国にとって良い取引をしているという。
欠点と言えば、女癖が悪いことだと言っていた。
国境警備隊としても、協力を惜しまず兵を出してくれたりとキーマス伯爵は好感を持っているようだった。
ファルファンド侯爵の方が保守的かつ、古い考えと権威をかざし印象が悪かった。
はっきり言って複雑な気分だ。
そして決定的なことも聞いた。
「二年前の反乱も直前までレジスタンスのリーダーと話をしてたのがキーマス伯爵だったんだ。彼は本当に懐が大きいよ。女癖さえなければ本当に良い人物さ」
「そうなのか。貴重な情報をありがとう」
本当に貴重だ。
これが本当ならキーマス伯爵は反国王派になったのは、こちら側に何かしらの不手際があったことになるぞ。
「二年前のファルファンド侯爵について、お聞きしたい」
俺の隣で静かに聞いていたクレアが突然質問をする。
「ファルファンド侯爵は二年前の反乱でどんな動きをして下さったのか?」
「ファルファンド侯爵は沈黙を保ってたはずだね。確か僕の記憶が正しければ、兵も出さずだんまりを決め込んでいたよ。
それもあって王国兵団魔導士隊にスカーレット隊が派遣されることになったんだ。
本当はファルファンド侯爵が私兵を出していればもっと早く鎮圧もできたという話だったよ」
「なるほどな……。クレア聞けたいことは聞けたか?」
クレアはこくりと頷いた。
「今度は僕からもいいかい? レイナと戦ったという事だけど感想とか聞けるかな?」
今度はアスベルから質問が来た。
この後レイナのことやスカーレット隊はどうなのかなど様々な質問が来たが、答えらる範囲で答えた。
執務室を後にして、兵舎へ向かう途中にクレアに尋ねてみた。
「キーマス伯爵をどう見る?」
王都にいた時は魔薬の製造に関わり国に対して混乱をもたらそうとしていること、また反乱を企てていること、二年前の首謀者はおそらくキーマス伯爵だっただろうと目星をつけてきた。
それがどうだ?
アスベルからはほぼ真逆の意見が出てきたのだ。
正直、どちらの情報が本当なのか整理する必要がある。
「女の敵」
「いや、まあ、それはそうだんだが……」
「冗談。でも、ファルファンド侯爵の話も聞かないと判断できない」
「そうだよな。そもそも俺らが掴んでいる情報元はどこなんだか。リムルのことだ。変なところからの情報ではないはずなんだが」
「隊長。悩むのはファルファンド侯爵の話を聞いてからでいいと思う」
「ああ。そうだな」
クレアの頭を軽く撫でながら答えた。
「隊長。ここでは恥ずかしい」
ふと見ると俺は訓練のくせで頭を撫でながら腰に手を回していた。
「す、すまん!」
「訓練の後遺症。仕方ない」
クレアはそういうと俺から少し離れて歩くのだった。