可憐な華は毒を制す・3
第二ブロック、三号棟に付くと部屋割を行い、各自部屋へと向かった。
俺は兵舎二階の一室に入ると、荷物を置く。
ベッドに腰掛けると一息ついた。
「さて、どうなるか」
今回は、交流訓練を名目にここへと来た。これは表向きの内容だ。
北西部国境警備大隊にはファルファンド侯爵へのキーマス伯爵の動向を聞きに行くということになっている。
ファルファンド侯爵はキーマス伯爵と表面上、親交があるように見える。しかし、近年コレストバス公国との交易の三分の二程、取られていて面白くない思いをしているのが実情だというのだ。
ファルファンド侯爵は国王派の貴族で、キーマス伯爵の父親と共に長年王国を支えてきている。キーマス伯爵がここ最近好き勝手やっていることにファルファンド侯爵も嫌気が指しているらしい。
キーマス伯爵の動向を探るというのも裏の裏を掻いた任務である。敵を騙すならまず味方からだ。
本来の任務は潜入したレイナからの報告を定期的に受けるためと、万一キーマス伯爵に気が付かれた場合のレイナ達の救出及び予め用意していおいた「反逆の証拠」を突き付けてキーマス伯爵の捕縛も任務に入っている。
偽の証拠を使った任務は出発前にリムルから託された手紙と一緒に入っていた。
これを知っているのは俺と分隊長達のみだ。
正直、偽の証拠は最終手段であり、国内の反王国派への事実上の宣戦布告になる。出来ることなら最終手段は取る事態になって欲しくはない。
「レイナがいるんだ。裏は確実に取れると思う」
レイナ達がキーマス伯爵の館に入って約一週間。
俺たちは一週間遅れることファルファンド侯爵領に入ったわけだ。彼女は優秀だ。早ければもう尻尾を掴んでいてもおかしくない。
定期連絡は二週間置きとなっている。つまりそろそろ第一回目の報告が上がってくる頃になるのだ。
情報については二人ほどキーマス伯爵の館近くに宿をとって待機させている。一人が情報を定期的にファルファンドへ直接報告しに、もう一人が監視を続けるために王都へは手紙で報告することになっていた。
「さっさと終わらせて戻りたいもんだ」
こんな任務、本当ならやらせたく無いのだ。
リムルの命令でないなら絶対に拒否しているところだが、リムルもリムルで苦渋の決断だったはず。
女性二人が覚悟を決めているんだ。俺も腹を括らなければ彼女らの覚悟が無駄になっていただろう。
思考を巡らせていると、ドアがノックされる。
「開いてるぞ」
ドアが開くと、そこにはクレアが立っていた。
「隊長、少しいい?」
「ああ、いいぞ」
クレアを中に入れると、俺はそのままベッドに座ったまま椅子を進める。
椅子に静かに座るとクレアは俺の方に顔を向けた。
「隊長、レイナたちは大丈夫。だからあまり悩まない方がいい」
「悩んでいるように見えたか?」
俺の問いにこくりと頷く。
さすがよく見ている。
気が付かれないように注意は払っていたつもりだが、クレアには分かってしまったか。
「他の子も気が付いているのか?」
「セシルはたぶん、気が付いてる。あとの子たちは大丈夫」
セシルにも気が付かれているか。
よく気が付く子だから仕方ないか。
王都出てからは実質、ナーシャの代わりも務めてくれているし。
「みんな隊長を信じてる。だから隊長もみんなを信じてほしい」
こうまで言われてしまっては仕方ない。
「ああ。分かったよ」
膝をパンと、叩くと俺は立ち上がった。
そうだ。悩んでも仕方ない。彼女達を信じて俺は俺の出来ることをやればいい。
「クレア、ありがとう」
「いい。隊長には元気でいてもらいたいから」
口数は少ないがこういうところが本当に優しい子だ。
この子たちの信頼に答えるためにもどっしりと構えて報告を待つことにするのだった。