可憐な華は毒を制す・2
王国軍北西部国境警備大隊駐屯地。
王国軍でも一位、二位を争う大規模な駐屯地で、国境警備隊第三中隊と第四中隊を合わせた二個中隊が常に交代で警備に当たっている。
幸いにも有事になったことはない。抑止力としてしっかり機能しているのだろう。
「さすがにここまでの規模となると、兵舎も多いな」
俺は到着した駐屯地の入り口で小隊ずつに割り当てられている兵舎がいくつも並ぶのを見て呟いた。
一小隊、一兵舎。重要な拠点だけに極力ストレスが掛からないように配慮されていると聞く。
「ここの一つを丸々、貸してもらえるのですか~?」
ゆったりとした口調で聞いてくるのは、第四分隊長のリリナ・ストログレンス。
容姿、スタイル共に抜群の女性だ。
このゆったりとした話し方と、雰囲気がとても不思議な印象を受ける。
紫のロングヘアが特徴的だ。
「そうみたい」
一言ぼそりというのは第五分隊長のクレラ・ウェント。
口数は少ないためコミュニケーションを取る時は気を使う。
基本的に性格は優しいらしく、隊員のメンバーへの配慮は良く出来ていた。
観察眼にも優れているようで、彼女の日誌には分隊について事細かく書かれている。
銀髪のウェーブの掛かったセミロングが特徴的だ。
「訓練時の派遣用宿舎があると言っていたから、そうだろう」
ここに来る前に、少しだけ説明を受けたが大規模な駐屯だけあり合同訓練や応援などで部隊をいくつか受け入れる施設があると言ってた。
「セシルとパトリシアが今、受付をしてくれているから戻ってくれば分かるさ」
今、セシルとパトリシアが事務手続きをしに行ってくれているのだ。
セシルはナーシャを除けば、分隊長陣の中で俺の補佐を良くしてくれる。
「隊長」
呼ばれて振り向くと、ちょうどセシルとパトリシアが戻ってきたところのようだ。
「この先にある第二ブロックの三号棟がうちらの兵舎になるんだって」
駐屯地の見取り図を俺に渡して指さしながら教えてくれるのが第六分隊長セシル・ジェニファントだ。
明るく元気で、何事にも積極な子だ。
緑髪のポニーテールを揺らしながら歩くのがとても印象的である。
「隊長行こう!」
俺の腕をとって自分の腕を組んでくるのは第七分隊長パトリシア・コォートだ。
とても人懐っこくて積極的な行動を取る子である。
黒髪のツインテールがしきりに揺れるのが、何となく彼女を物語る。
「パトリシア遊びに来たんじゃないんだぞ。あと、胸が当たってる」
慕われるのは嬉しいが訓練以降、スキンシップが多くて正直困っている。
「当ててるんだもん!」
「おいおい恋人とかじゃないんだからな?」
全く、妙な積極的アピールをこの子はしてくる。
性的な訓練時も嫌がらないどころか喜んでしまったため訓練にならずいち早く訓練対象から外した。
……本当に軍人か?
まあこんな性格だが、指示、状況判断は的確なのだ。だてに第七分隊を率いていない。
「パトリシア。隊長から離れて、困ってる」
クレラが静かにいうとパトリシアもうっとした顔になりすんなりと離れる。
「調子に乗りすぎちゃった」
舌をペロッと出して誤魔化すパトリシア。
「程々にしろよ。まずは兵舎へ行き、各自荷物をおいて下に集合だ。たしかアスベル国境警備大隊長が迎えてくれるそうだ」
「はい!」
全員返事をすると、兵舎へと歩き出すのだった。