華の主と可憐な華たち・7
兵舎へ戻ると、俺は執務室の椅子に力なく座る。
「オルビスさん、しっかりして下さい。いいじゃないですか。公然と女性に触れることが出来る上にリムル様からの命令なのですから」
絶対に楽しんでる。
レイナは絶対に俺の状況を楽しんでいるとしか思えない。
俺は言ったんだ。リムルがいる前で、じゃあ今ここでレイナの胸を鷲掴みにしても罰せられないんだな?と。
そしたら何と答えが帰ってきたと思う?
「構わないわ」と「わたしも構いませんわ」だぞ。
リムルはリムルで不機嫌そうに、レイナはレイナで命令ですからと言わんばかりの毅然とした態度だ。
つまりレイナはすでに腹が決まっているから俺に何されても文句を言わないわけだ。
この分だと他の子達も同様なのだろう。
だが、俺はどうだ?
命令だからとべたべたすれば調子に乗っているなど見られる可能性もある。
だからと言って何もしなければ命令に背いたことになる上に、任務失敗の危険性も出てくる。
頻度が低ければ単にヘタレのダメ男の烙印だって押される上にやっぱり任務失敗という事も十分にあり得るわけだ。
この状況で悩むなと言う方が難しいだろう?
俺だって健全な男なんだ。
「吹っ切ってやるしかないんですよ? オルビスさん?」
肩が暖かい。白く優しそうな手が添えられている。
表情も至って穏やかそうに微笑みを俺に向けていた。
「吹っ切れか。難しいな」
「堅いですよ? はあ、リムル様が苦労されるわけですね。なんでわたしも対象に入っているんだと思います?」
なぜレイナもか?
「どういう事だ?」
「察しが悪いですね。色子沙汰は苦手のようですね」
くすっと可愛らしく笑うと、俺を仕方のない弟のような生暖かい眼差しを向けてきた。
「いいですか? そんなヘタレな貴方だからこそ、わたしが体を張ることになるんですよ? つまりわたしで慣れて貰ってから他の子たちに手を出しやすくするんです」
さらりと凄いことをレイナは口走った。
同時に俺の心を刃がえぐる。
ヘタレ、ヘタレと言われてしまった。すでにヘタレ決定ではないか。
「オルビスさん、これを」
レイナに一枚の紙が渡される。
何かの報告書のようだ。
報告書の中身を見て絶句した。中身はキーマス伯爵の性的行動の報告書だったのである。
手を握る、腰を抱き寄せるなんて可愛いもの。
お尻を触る、胸を触るなんて日常茶飯事。
口には出せない年齢制限に引っかかる、あんな事、こんな事まで……。
同じ男として下衆としか言いようがない性的行動の数々。
「オルビスさん、わたしはともかくとして他の子たちがこんな事に耐えられると思いますか?」
確かに。何も耐性がないままこんな場所に放り込むことは当然できない。
待てよ。レイナが対象に入っているという事は。
「まさか、君も侵入する一人か?」
無言のまま頷くレイナ。
そうか。彼女は最初から自分が先頭になって任務を受ける腹を決めていたのだろう。
だというのに俺がこんなんじゃ確かに不安だろうな。
全く、スカーレット隊は本当に肝まで据わってる。
「分かったよ。やってみるさ」
変態の汚名が怖くて任務がこなせるか。
いくらでも汚名をかぶってやろうさ。
国が救えるなら俺の汚名なんてあって無いようなものじゃないか。