熾烈な戦いの果てに・2
あの後、決闘の詳細が伝えられた。
戦闘不能にするのは変わらなかったが、使用する武器や防具、魔法に至るまで制限がないとのことだ。また戦闘不能と認められる状況、対戦相手が降参した場合も決闘に勝敗が着くことになった。
決闘で隊長陣が死んだとなれば問題になるからこの条件は妥当だろう。
しかし、だからと言って彼女が手を抜くわけがない。
死闘を覚悟する必要はあった。
王国兵団・第一訓練所更衣室。
俺は軽くて通常の刃が通りにくいチェーンメイルを装着し、上に魔導士隊の戦闘法衣を纏う。
普通のチェーンメイルでは動きにくいため軽量化されたものだ。防御力は落ちるが身軽に動ける。
武器には王国兵団の支給品の短剣を二本を腰に差す。
支給品とは言え、特注品でもある。
ナイフよりは長く中剣よりは短い取り回しの良い剣だ。
俺は短剣二本と体術を組み合わせた戦闘術を扱う。
魔導士と言っても魔法が使えなければただの人だ。
王国兵団魔導士隊には白兵戦主体の魔導士、支援主体の魔導士、医療主体の魔導士の三タイプに分かれる。
俺は白兵戦主体なのだ。
「準備は順調みたいね」
その声に振り替えると、スカイブルーのロングヘア―が綺麗な女性が立っていた。
着ている服は薄い赤の王族のドレスである。
目元は少しきつめだが、全体的に綺麗より可愛い部類に入る。
スカイブルーの髪に薄い赤のドレスが引き立たせる女性は、俺を婿にしようと躍起になっているリムルだった。
つまり女王陛下なのである。
俺は瞬時に付き人がいないことを確認した。
「リムル、一体何を企んでるんだよ?」
「いきなり、その言い草はないんじゃない? このわたしが、わざわざ会いに来たのよ」
ぷくっと頬を膨らませながら拗ねるように言う。
本当に女王か?と言いたくなるしぐさだが、俺とザイルくらいにしか見せないしぐさだ。
「いやさ、レイナと決闘ってどういう訳さ? それにスカーレット隊の隊長だなんて」
「男女平等がわたしのポリシーだからよ。って、それだけじゃないのだけれどね」
少しだけ疲れたような笑いをするリムル。
何かを抱えているのは確かだろう。
「それはレイナが関係するのか?」
「レイナは良くやっていると思うわ。でも、彼女の力を十二分に活かすには彼女の上が必要なの」
「ふむ」
レイナの事は買っている。
しかしながら彼女を実質遊撃のように扱いたいのか。
だとするとスカーレット隊の隊長という任務もあながち我儘からではないようだ。
「だけど、それなら何も俺でなくても、もっと言うなら男じゃなくてもいいんじゃないのか?」
そう指摘するとリムルは首を振って答える。
「それはダメ。スカーレット隊の隊長は男女関係なく着任出来るようにしないとならないの」
「今回だけの特別扱いというわけではないのか」
「スカーレット隊の役割を少しばかり変えたいの。単に女性部隊ってだけじゃ正直もったいないのよ」
ただの女性部隊ではもったいない。
それは隠密行動や諜報活動も視野に入れているという事か。
今のスカーレット隊はあくまで女性だけで構成された部隊だ。
ある意味女性だけでも戦える象徴と言っても過言ではない。
だが、わざわざ男が入れるようにするという事は。
「察しは付いた?」
「大体な」
俺の返事に気を良くしたのか笑顔で頷く。
「もう彼女も知っているのか?」
「わたしから直接、伝えたわ」
その上で決闘という事は、本当にレイナの希望だな。
知らない仲ではないとは言え、実力をお互い知っておくためにだろう。
だからわざわざ波乱を起こすようにして、レイナに強く反対をさせた。
そうでなければあっさり伝統を覆す理由に何かが勘繰るかも知れないからだ。
結婚をネタに軽く脅されたわけだが、その辺は関係なく実行するつもりだったんだろう。
「なあ、それなら結婚なんて言わずに普通に頼めばいいじゃないか」
「わたしはいつでも結婚してもいいのよ」
「どさくさ紛れに何言ってんだ」
全く恥ずかし気もなく。俺の方が照れるじゃないか。
「嫌じゃないんでしょ?」
「国王にさえならなければな。だから、今はこのままでいいだろ」
彼女を優しく抱くようにして引き寄せる。
リムルも嫌がる様子なく俺に体を預けると、頭を上げてそっと目を閉じた。
唇が触れるだけの軽いキスをすると、少しだけ物足りなさそうな顔で俺を見る。
「ねえ、やっぱりまだ?」
「悪いな、それ以上先は言いっこなしだ」
少しそっけなく言うと俺は彼女に背を向ける。
「そろそろ、時間だ。リムルも戻らないとならないだろ?」
「ええ。オルビス、頼むわね」
勝ってとか、無事で、ではない。
ここから先の彼女の計画のために、頼むと言ってきた。
彼女が信頼している証だろう。
「ああ」
短く返事を言うと訓練所の出入り口へと向かう。
全く、本当に碌なことじゃなさそうだ。