華の主と可憐な華たち・6
翌日、俺とレイナはリムルの招集を受けて国王執務室へやって来ていた。
俺は本日初となるスカーレット隊の男性用軍服に身を纏っている。
女性の軍服は赤のブレザーに白のブラウス、赤のネクタイに膝丈までのフレアスカートだ。
スカートの下に黒の短パンが用意されており見た目と機動性の両方に配慮されたものである。
男の俺は赤いブレザーとシャツ、ネクタイ、下はもちろんスカートではなく白のスラックスだ。
「オルビスの制服もなかなか似合うわね」
リムルが俺を前にして面白そうに言う。
分かっている。俺には似合わないことなど。
ナーシャをはじめ、スカーレット隊の皆は似合っていると言ってくれたがここまで来る間に何人の人間に奇異な目で見られたことか。
「やっぱり、お似合ですよ」
レイナがおっとりとして言うのは本心からなのか、いまいち掴めない。
気品ある笑顔で言われれば気分も悪くないのだが。
リムルはそんな俺の複雑な心が分かっているのだろう。面白そうに俺を見るのだ。
「ところで、招集の内容を聞きたいんだが?」
「そうね。本題に入りましょうか」
リムルの表情が引き締しまる。
「バーム草は知ってるわよね?」
「バーム草といったら薬草の一種だな」
主に腹の調子を整えてくれる薬草である。
「そう。そのバーム草なんだけど、ある薬草との調合の割合を変えると魔薬になるの」
「な!」
これは驚きだった。
薬草が魔薬に代わるとは……。
いや薬も多量になれば毒になるのだ。魔薬になることもあるのだろう。
「リムル、魔薬はすでに出回っているのか?」
「ええ。だからあなた達を呼んだの」
「貴族がらみというわけだな?」
「ええ。だけど、少々厄介なのよ」
ため息。どうしようもないなという雰囲気を感じる。
「この報告が最初に上がってきたのは一年前なの。最初は街で男が暴れているという話でね」
暴れていた人間を取り押さえたら、その男の妻と名乗る女性が出てきて薬を飲めば治るはずという話と、今は薬が高騰していて手に入れられないという事情を聞いたという。
調べてみるとバーム草と、レックルという花の葉の部分を使った滋養強壮の薬だという事が分かった。
どちらも手に入れやすく、一般的な薬草としても販売されているがこの両方の調合比率はバーム草が三に対しレックルの葉は一が通常だ。しかし暴れていた男の調合比率はレックルの葉が三に対してバーム草が一だったのだ。
「宮廷薬士に頼んで調合した薬の効果を調べてもらい始めたのが半年前。で、ついこの間この調合で気分の高揚感と穏やかでかつ重度な依存性が認められたわ」
この手の調査にはどうしても時間が掛かる。なるほど、この間に広まっている状態になっているは確だな。
「で、厄介な理由は?」
「レックルの葉の入手経路を考えてみて?」
レックルはアルストム王国の北西部以北一帯に咲く花だ。
北は一応友好国のコレストバス公国である。
そして北西部は二年前に反乱を鎮圧しに行った経緯があった。
「まさか」
「そのまさかよ。二年前に鎮圧はしたわ。ただ不満は不満として残るわよね?」
「つまり形を変えた反乱が北で起きているというわけですね?」
レイナが纏めるように言う。
リムルは頷きながら続けた。
「更に反乱を支援する貴族がいるの、キーマス・ロレンド伯爵ね」
キーマス・ロレンド。
ロレンド伯爵は先代までは国王派の人間だったが、キーマスになってからは毛色が変わった。
隣国コレストバスとの貿易を盛んに行い、ロレンド領にはコレストバスの人間も多く住んでいる。
鎮圧をした街はロレンド領であった。
最も申告してきたのはキーマスなのだが。
つまり、キーマスが怪しいと言いたいのだ。
「キーマスの行動の裏を取れと言うわけだな?」
「ええ。ただしスカーレット隊の隊員、数名のみでロレンド伯爵の屋敷に内偵してもらいたいの。そのためにオルビス。あなたには二週間の間に、隊員の娘たちと過度なスキンシップを取ってもらうわ」
「は?」
なんだ、その過度なスキンシップとは?
いや俺の考えが正しいなら……。
「オルビスさんはうちの隊員たちに性的嫌がらせをしてもらいたいという事ですわ。キーマス伯爵は女性への手癖が悪いと聞いてます。つまりあなたで彼女たちに男性からの性的な接触に慣れてもらわないとならない訳ですわ」
嫌な予感は的中した。
こんなろくでもない任務が下るとも夢にも思わなかった。