華の主と可憐な華たち・2
スカーレット隊の隊長の任命を受けてから一週間が経った。
初日こそ、腕試しのため喧嘩腰の演習を行ったわけだが以降は至って平和である。
荷物の方は初日にご丁寧にも、魔導士隊の女性が全てスカーレット隊の兵舎まで持ってきてくれた。
別にさっさとスカーレット隊の隊長として出て行けとかではないと、皆が必死に言っていたが。
「一週間か。早いな」
俺は朝日が差し込む執務室から外を見て言う。
執務室から下を見ると、第七分隊と第五分隊が合同で準備運動をしていた。
他の部隊もそうだが、大抵訓練は分隊ごとに行われている。
模擬戦となると二分隊でチームを組んでの訓練などもやっていた。
今日は分隊同士で軽い手合わせをするらしい。
「オルビスさん、いやらしい目で見ないでくださいね? 皆が男性恐怖症になりますわ」
レイナは俺の隣に立ってくすくすと笑いながらブラックジョークを放つ。
「レイナ、冗談でもそういう事を言わないでくれ。君の冗談は正直、怖い」
ここ一週間で分かったことがあった。
レイナは男性嫌いで有名だったが、男性が嫌いなのではなく冗談が黒いのだ。
初日も後ろから刺されますよ、などと言っていたがあれも冗談だったという。
つまり冗談が怖いせいで男性嫌いと勘違いをされたらしいが、本人はそのことについて何も思っていなかった。
むしろ。
「前にもおっしゃいましたが、このおかげで変な虫は寄り付かないので」
との事だった。
その図太い神経にも恐れ入る。
「リムル様があなたをお慕いする気持ちも分かりますわね。あなたは変に構えず自然体なので。わたし達も楽ですわ」
「リムルの場合は、親しい同世代がいないから余計だろう。もっとも俺自体があまり堅苦しいのを好まないんだ。そう言えば、着任してから一週間になるがリムルからは?」
「今のところは特別な命はありませんね。最近ザイル団長と頻繁に打ち合わせをしていらっしゃると伺っていますわ」
「そうか」
特に動きはないがザイルが動いているなら近いうちに何かあるだろう。
まあ俺もいきなり動けと言われても困る。
今は隊員一人一人とコミュニケーションを取ったりする時間が欲しいからだ。
国内最強とは言え指揮をする以上、皆を知らなけらば適切な指示も出せないのだ。
そうは言ってもさすがに一人一人を掌握してからというわけには行かず、手っ取り早く分隊長たちから簡単な情報は貰っている。
一人一人をしっかり知るには半年くらいは見ないとならない。
「そろそろ第一分隊と交流する時間だったな」
今日、第一分隊は非番でセルシアを含めて希望者と食堂で交流会を行う予定なのだ。
交流会と言っても単に朝食後の時間を使って無礼講で会話をするだけだが。
「ええ。セルシアがそろそろ来るはずですわ」
レイナがそう言い終わるくらいにドアがノックされる。
「入っていいぞ」
ドアが開くとセルシアが部屋に入ってきた。
「セルシア・バーダル、只今参りました」
癖っ毛セミロングの髪が今日は少しだけ整っているように見える。
非番であるのと交流会という事もあり、制服や軍服ではなく私服だ。
黄色いひざ丈のワンピースで胸元に可愛らしい花の刺繍が施されていた。裾にはフリルが付いており彼女が可愛らしい服が好きなのだというのが伺えた。
気恥しいのほんのり顔が赤いのはご愛敬というところだろう。
「そんなに固くなるな。今日は無礼講でと言っただろう?」
「しかし隊長に砕けた口調というのは」
「今後、スカーレット隊が担う任務は様々な組織に入り込んだりする必要も出てくる。その時、軍人だとすぐに分かるようではダメなんだ。分かってもらえるか?」
俺の言葉にセルシアは少し困った顔をしながら諦めたように言う。
「分かった。それじゃあ、少しは砕けた感じで話すよ?」
「いい感じだな。そんな感じで友人にでも接するように頼む」
「まあ、ボクは大丈夫だけど他の子が大丈夫かな?」
ボクっ子だったか。
可愛らしい服にボクという一人称のギャップがなかなかいい。
街中での情報収集にはセルシアがよさそうだ。
「セルシア、みんなは食堂で待機していますか?」
「待機してるよ」
一瞬ラフに返したセルシアがはっとした顔でレイナを見たが、レイナは何も言わなかった。
どうやらレイナは相当礼儀に厳しい隊長だったらしい。
「さて行こうか」
レイナ、セルシアに促すように声を掛けると二人とも頷くのであった。