波乱の始まりと華の園・4
「とりあえず、まずは俺の隊長任命を早く済ませてしまおう。今日を呼んだという事は早速、俺を任命するつもりなんだろう?」
リムルに確認を取るように尋ねる。
「ええ。そのつもりで呼んだの。ナーシャを呼んだのは事情を聞いてもらうためと、スカーレット隊の兵舎を案内して貰うためね。レイナは今後、隊長補佐兼代理を務めてもらうことになるわ」
ようやく具体的な話に入った。
レイナの隊長補佐は当然と言えば、当然だろう。
いくら女王陛下の命令だからと言って俺がいきなり隊長として命令を出して動けるとは思えない。
またやはり女性の事は女性が一番わかる。俺としてもご意見番として俺の傍にいてくれるのは助かる。
「オルビスさん、わたしが出来る限りサポートしますわ」
「助かるよ。俺だけじゃどうやったって上手く行かないからな」
「あら、そうでもないですよ? あなたが力を示すだけでもうちの子たちは大人しくなりますもの」
随分と乱暴な気もする。
そんなんで俺のいう事を聞くのだろうか?
「ナーシャ、そうなのか?」
「あ、はい。基本的に我が隊は実力主義です。何かしらの力を示さないと我が隊にはいられません」
初めて知ったが、恐らくどの部隊よりも厳しいと思われる。
いや、そうでなければ統率も取れないし、戦場でも生き残れないな。
何せ王国の切り札なのだから。
「なるほど。レイナに勝てる相手という条件はこういう意味も含んでいたんだな?」
「ええ。その通りです。わたしに勝って頂けないと他の隊員は絶対に納得しませんわ」
という事は、レイナを降参させたというのは今後の部隊運営をスムーズにするにも有効だったわけだ。
「二人ともいいかしら? オルビス、レイナ、二人に任命書を渡しておくわね」
リムルが、そういうと机に二枚の洋紙が置かれる。
一枚は俺へのスカーレット隊隊長の任命書。もう一枚はレイナのスカーレット隊隊長補佐兼代理の任命書だ。
ふと、ここで俺は疑問が出てくる。
あまりに話がとんとん拍子に進んでしまったため俺は自分の魔導士隊の隊長がどうなっているかを聞いていなかったのだ。
うかつだった。
「リムル。魔導士隊はどうなるんだ?」
「魔導士隊は副隊長のウェルネスが格上げよ。彼はもともとあなたの右腕として動いていたから問題ないでしょ」
そうか。ウェルネスが隊長か。
あいつなら安心して部隊を任せられそうだ。
しかし何も説明しないうちに隊長交代というのも気の毒に感じた。
いや、ザイルの事だ。あいつがすでに根回しをしていた可能性もあるな。
「その手際の良さはザイルだな?」
「ご名答。彼に根回しは予め全て終えていたわ。あなたが一番最後だったのよ」
色んな意味で腑に落ちた。
ザイルがすでに動いていたことを考えれば、俺は訳ありで別部隊の隊長になるためにウェルネスが隊長格上げという話をしたのだろう。
ウェルネスは軍組織がどういうものかをちゃんと理解している。
さらに俺を常にサポートしてくれていたのだ。きっとすべてを察知して承知したに違いない。
「なら安心だな。さてリムル、もう話は終わりか?」
「ええ。あとはそちらで引継ぎとかしてちょうだい」
「分かったよ。さて、ナーシャ、レイナ兵舎の方の案内を頼めるか?」
ナーシャとレイナが二人同時に頷いた。
やれやれこれから色々と大変そうだな
俺は扉の方を向くと、軽くため息をつくのだった。