三文字 4
夏休みも終わって、しばらくした頃、テレビを見てたらどっかで悪の秘密結社が倒されたって速報が入って画面が切り替わった。
そこにはちょうど倒れゆくイケメン怪人が映っていた。イケメン怪人は見た目より軽い音をたてて倒れた、イケメン怪人は震える手で胸元から見覚えのあるものを取り出した。
『結局、間違っていたのは私の方か…』って呟いてからそいつはサラサラと砂のように崩れていった。
カランと音をたてて砂の上に転がったのは、あの日ねぇちゃんの鞄に入ってたマスカレードマスクだった。
ねぇちゃん、嫌われてなかったんだな。
つうかさ…
なんつーブラックなところでバイトしてたんだよねぇちゃん。
ブラックバイトのブラックの意味が違うよねぇちゃん。
その日、夕飯を作ってたらねぇちゃんが会社から帰ってきた。
「ただいま~」っていうねえちゃんの声はいつも通りだった。「おかえり、ニュース見たか?」「うん?ああ…ばれてたんだ。」ねえちゃんは恥ずかしそうに笑った。「良かったのか?」ってねえちゃんに聞いたら「私ってさ、貴方とならどこまでも共に…ってタイプじゃないんだよね。」って思ったよりあっさりとした答えが帰ってきた。
「ほら、どうせ滅びるなら最期まで貴方の側で!的なのあるじゃない?」「ああ、滅びの美学的な?」昼間みたあいつはそういうの好きそうだったよな。「そう、それ!でもさ、私にはあんたが居るからね。甥か姪の顔を見るまでは滅びてたまるかってね!」そういってねぇちゃんはニヤリと笑った。
「なんだよその孫の顔を見るまでは的な発言は」って俺が言ったらねえちゃんはフフって笑いながら台所にはいってきてコンロの上の鍋を覗いた。
「やった!今日はかぼちゃのお味噌汁だ!!」って喜ぶねぇちゃんを俺は「手を洗ってうがいしてこい」っていって洗面所に追いやっ
今日の夕飯は回鍋肉もどきと、冷凍餃子とキムチとかぼちゃの味噌汁。
気づけば夏も終わり秋はすぐそこだ。
庭はすっかり雑草に覆われている。
「あとは枯れていくだけね。」
ねえちゃんは雑草だらけの庭を見ながら呟いた、そして「私、薔薇じゃなくてどくだみでいいわ」って頷いた。「抜いても抜いても出てくるの。しかも手が臭くなるから抜きたくなくなるし…いざとなったらお茶にも薬にもなるしね。」
庭のどくだみの花はもう盛りをすぎて、暗い庭の中でと白い花がぽつりとひとつ浮かんでいた。
「ぜってぇ滅びないぞって?」
「そう、お母さんいっつも庭でどくだみに怒ってたでしょ?」
「そうだな、大体そのんな日は夕飯に茗荷の味噌汁が出るんだよな」
「そうそう!庭に生えてるからね」ってねえちゃんは嬉しそうにわらった。
「母さんの味噌汁うまかったよな」って俺がいったらねぇちゃんは「あんたのもまけてないよ」って静かにいった。
ねえちゃんと俺はやけにしんみりした空気になって無言で味噌汁をのんだ。
冷凍カボチャをつかったせいで煮崩れまくったかぼちゃで黄色くなった味噌はねぇちゃん好みだ。俺は甘いから好きじゃない。
「うん、美味しい」
そう嬉しそうに呟いたねぇちゃんに『ねえちゃんが嫁にいくまでは味噌汁くらい俺がつくってやるよ。』って言いそうになったけど口には出さなかった。
かわりに「俺の味噌汁のむばっかじゃなく自分でつくれるようになって旦那捕まえろよ」って、いっといた。
だってさ、ねえちゃんが行き遅れたら困るんだ。
あと何年かしてねぇちゃんちの子と俺の子がこの家の庭で一緒にシャボン玉ふけたら最高じゃねぇ?
今は雑草だらけだけど、その時は母さんたちがいたときみたいに綺麗な庭にしてやるよ。
昔、俺とねぇちゃんがそうやって遊んでた時みたいにさ。