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四文字 4


2月の朝、ねぇちゃんが出掛けてしばらくしたら空が急に暗くなった。雹とか降るのかもしれない。そんな変な雲だった。俺はテレビをつけた。災害時には1チャンネルだ。

テレビの画面右端には中継という文字、そこで3人の女の子達が黒いもやもやの何かに向かって戦っていた。

ミニスカートで戦いながら攻撃を受けてもかすり傷ひとうつかない。壁にぶつかったら壁が凹むほど固い。こいつら人間じゃないのか?まじまじとみていたら俺はクレーターの中心にいたリーダーらしき女の子?に見覚えがあるような気がした。三人のなかで唯一のピンクの髪の毛。なのにそいつが一番ミニスカートが似合わない。ほかの二人はピッチピチむっちむちな若さ溢れる二人なのに一人だけ膝に年齢が出てる。

こんなことする知り合いなんていないはずなんだが…って思ってみてたらその顔はねぇちゃんそっくりだった。

「私達の愛の力を合わせて貴方の冷えきった心を芯まで暖めてあげるわ!コンビニのあんまんのように!エターナルフォーム!!!」


おかしな例えが入っているセリフを叫んでねぇちゃん似のピンクと、他二人が白無垢に変身した。そこはウエディングドレスにするところじゃないのか?


そして黒いもやもやの敵にむかって高速回転しながら頭突きをした。

いや、だからさ、せめてパンチかキックにしてほしい。

何で頭突きなんだよ…っておもってたら白無垢に合わせて被っている角隠しの下に隠された角が黒いもやもやした敵に刺さった…ような幻影か見えた気がした。


そして黒いもやもやした敵はもやもやが晴れるとダンディー親父に変わった。パパ!!ってさけんでそいつのそばに小さな女の子が駆け寄った。

ダンディーおやじは「今まで私が間違っていた。ゴミの分別はきちんとすると誓おう。それが地球を守る第一歩なのだろう?」と腹に角が刺さったとは思えない元気さでねぇちゃん似のやつに言った。

「ええ、わかってくれて嬉しいわ、忘れないでね缶とビンは第二、第四火曜日よ」ねぇちゃん似のピンク頭はそう答えた。


つうかもういいだろ、明らかにこいつうちのねぇちゃんだろ。


画面では去っていったダンディー親父を見送ったねぇちゃんに猫のぬいぐるみを抱いた王子みたいなやつが話しかけた。

「君の幸せになれる世界につれていってあげようか?」

王子みたいなやつがキラキラして光っていた。けれど抱いてるぬいぐるみの猫はチシャ猫のようにニヤリと笑った。俺は思わずテレビ画面にかけよる。

おい!!こいつ明らかにヤバいヤツだろ!!!騙されんなよねぇちゃん!!

「大丈夫、私いまでも十分幸せよ」

そう言って笑ったねぇちゃんに胸がヒヤリとする。

『本当に?』

王子みたいなやつの声と俺の声が重なった気がした。

弟のために高卒で仕事について、安い給料で働いて家に帰るだけの毎日で、同じ年頃のやつらは皆遊んでキラキラして人生で一番自由で楽しい時間を過ごしているっていうのに。


そんなんで、ねぇちゃんは本当に幸せなのか?



「本当よ、だってうちの弟のつくるお味噌汁は世界で一番おいしいんだから、特に玉ねぎとじゃがいもの」


ねぇちゃんはそう言って笑った。王子みたいなやつは困ったように笑って「じゃあ、いいよ。ありがとう君のおかげで助かったよ」っていって猫を腕から下ろし、ねぇちゃんを抱きしめた。それからからきびすを返して振り返らずに去っていった。足元に猫のぬいぐるみがまとわりついて歩きにくそうだった。


ねぇちゃんとその友達はそんな王子と猫を見送ってから凄いジャンプをして画面から消えた。





夕方になって玄関から「ただいま~」ってねぇちゃんの声がした。帰ってきたらなんて声をかけようってな悩んでいたけど「おかえり~」っていつも通りの返事が勝手に俺の口から出た。

ねぇちゃんは俺の顔を見て「見てた?」って聞くから「見てた」って答えた。俺が「いいのか?」て聞いたら「いいのよ」ってねぇちゃんはいった。

「だってああいうのはもっと若い女の子がキュアッとしながらやるものだもの。しがない町のちっちゃな会社の事務のおばちゃんがするもんじゃないのよ」って笑っていった。

だからあんな王子様みたいな人、私なんかお呼びじゃないのよ。

俺にはそう言葉が続きそうな気がした。ねぇちゃんならプリンセス通り越してクイーンになれるよ。って思ったけど口には出さなかった。だから、俺は「ねぇちゃんはおばちゃんじゃねえよ」ってだけいった。

ねぇちゃんは「気を遣わなくてもいいのよ」って笑ってた。



俺は鍋から二人分の味噌汁をついで盆に入れてねぇちゃんに渡した。


具はねぇちゃんの好きな玉ねぎとじゃがいもだ。


俺はキラキラしていたあの王子みたいなやつの顔を思い出す。

「確かにあいつについていったら豚汁の変わりにミネストローネが出てきそうだ。」しかもそのスープだって皿が二枚重なってるやつにはいって出てくるんだ。洗い物増えるからやめろって思うやつ。「そうね、もし、お味噌汁が出てもお豆腐とわかめのお味噌汁でせいいっぱいね」そういってねぇちゃんはニヤッと笑った。


今日の夕飯はアジの塩焼きとじゃがいもと玉ねぎの味噌汁と温玉のせシーザーサラダにキムチだ。


「なんでこのメニューにシーザーサラダなのよ」

ねぇちゃんはそう言いながらサラダを食べてた。「俺が好きなんだからいいだろ?」っていったら「焼き魚にシーザーサラダは合わない」って呟いてた。俺が「じゃあ、キムチもシーザーサラダに合わねえよ」って言ったらねぇちゃんは「キムチはなんにでも合うのよ」ってふくれてた。


「うん、美味しい」

ねぇちゃんは味噌汁をのんでそう言った。


ねぇちゃんには言ってないけど、玉ねぎとじゃがいもの味噌汁は甘いから俺は好きじゃない。

けど、今日はいつもよりうまいなって思った。


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