四文字 3
初詣に行ったらねぇちゃんは真剣に手を合わせてた「何お願いしてたんだ?」って聞いたら「世界平和」って答えが返ってきた。「規模がでけぇよ、フツーは家内安全とかだろ?」って言ったら「うちの家の中はあんたがいたら絶対安全だから大丈夫!」って言われた。
なんだそりゃ。
帰りがけに写真館の前を通ったらウエディングドレスを着た花嫁の写真が飾ってあった。「私は絶対白無垢派よ」ってねぇちゃんがいうから、俺は「まずは相手探してからにしろよ」ってつっこんどいた。
ねぇちゃんならウエディングドレスも似合うと思うけどな。
部活で帰りが遅くなった。うちは駅から家までが遠い。腹がすいてた俺はコンビニで肉まんとあんまんとピザまんを買った。めったにしない贅沢だ。歩きながら食べていると途中の公園でねぇちゃんがブランコに座ってた。
「ねぇちゃん!なにしてんだよ!」って俺が言うと「家のカギもって出るの忘れちゃった」ねぇちゃんは恥ずかしそうにわらってた。「ガキかよ。」って言うとねぇちゃんは「ひどいなぁ」って笑ながら腕を摩った。
寒かったんだろうなって思って俺はねぇちゃんに「ほら、あんまんやるよ。」って買ってきたあんまんを渡した。ねぇちゃんは「私はピザまんの方が好きなんだけど」って俺の食べかけのピザまんを羨ましそうに見た。「なにいってんだよ、寒いときには芯まであったかいあんまんが最強なんだよ」って俺がいうと、ねぇちゃんは不服そうにあんまんにかぶりついた。フッ愚か者め。
「あっつ!あんこ熱っ!!」猫舌のねぇちゃんは慌ててフーフーとあんこに息を吹きかけて冷ました。俺が「心まであったかくなるだろ?」っていったら「いくらなんでも熱すぎよ!」って言いながらねぇちゃんは、はふはふとあんまんを食べた。ねぇちゃんのさっきまで青白かった頬っぺたは血色がよくなった。
俺は慣れないクサイ台詞で赤くなった頬をこっそりマフラーで隠した。
ねぇちゃんとこたつに入ってみかん食べてたら「私ってさ、『世界の平和は私が守る!』なんてガラじゃないと思うのよね」ってつぶやいた。
俺はみかんの白い繊維をちまちまとりながら「むしろそんなこと本気で叫ぶやつがいたらそれこそヤバいやつだろ」って答えた。ねぇちゃんは「…そうよね」って笑いながら新しいみかんを手に取った。
俺はピカピカになったみかんをぱかりと割りながら「じゃあ、『ゴミの分別を完璧にすることでは私は地球を守る!』っていえば?」っていった。
いつだってうちのゴミの分別は完璧だ。ゴミ出し担当はねぇちゃんだから。間違えると「この間違えが地球ダメにしていくのよ」って睨まれる。「ゴロが悪いわ」ねぇちゃんは笑いながらそう言って白いもさもさがついたままのみかんを食べた。
ねぇちゃん、はみかんの白いやつを取らない。白いのがついていた方が健康に良いのよっていう。
それはズボラなやつの言い分だと俺は思う。