任務の意義とその使命
帝国暦1585年2月28日
公国神威 首都宮代 武神邸
「――では、任務について、詳しく説明しましょう」
紫の髪と真珠の瞳、そして左目下の泣き黒子が印象的な男。
式島進治が言った。
場所は公国神威の首都宮代。
公国の中心となる大都市は、常に多くの人々と人々が生み出す喧騒で賑わっている。
だが、その建物だけは異なる。
宮代の中心部に位置しながら、厳格で厳粛な雰囲気に包まれた館。
名を、『武神邸』。
その名の通り、入り口となる門の前に刀を持った武神の銅像があること以外には、飾り気など皆無な黒い大理石の館だ。
その館の所有するのは、公国神威の軍―『公国軍』の司令部だ。
故に、館の全ての部屋は、軍の大隊、中隊、小隊など様々な部隊の隊長が執務室として利用している。
そして――
光一郎が居る部屋も、そんな部屋の一つであった。
「まず、お二人の疑問に答えましょう」
と、進治が光一郎と千代の二人に向かって話す。
進治専用の部屋――『退魔衆』隊長の執務室。
進治は執務用の机の向こうから、つまり部屋の最奥から話している。
それに対して光一郎と千代は、部屋に入ってすぐのドアの前にいるため、ちょうど部屋の両端で話し合っている形になる。
因みに、光一郎から見て左手側に“もう一人”、退魔衆の隊員がいる。
ついでに言えば、この部屋の者は全員退魔衆だが、今は黒い胴着ではなく青い詰襟の軍服を着ている。
黒い胴着は退魔衆の者である証だが、戦闘用の衣服なので必要な時以外は、公国軍共通の軍服を身に付けている。
そんな軍服の襟元を、人差し指の指先でいじりながら、進治は言う。
「お二人は思っているでしょう? “なぜ遠く離れた王都に行かなければならないのか?”……と」
進治は口調は真面目ながらも、“我が意を得たり”というような表情―つまりは『どや顔』だった。
そんな進治に光一郎と千代は――
「いや、別に」
「いえ、特に」
全然、真顔でさらっと答えた。
「ふふふ、そうですかぁー、そんなに気になりますかぁ~、――って、おいっ!」
光一郎と千代の返答に、進治は一人だけ―しかも急にテンションが高くなる。
「いやいや! そこは疑問に思うところでしょぉ~? なんで気にならないんですかぁ?」
声も間延びした感じになり、完全にからかいモードだ。
そんな―答えなければいけないのかすら定かでは無い質問に、しかし光一郎は答える。
「別に、命令なら黙って従うだけだろ」
「右に同じです」
光一郎の簡素な回答に、千代も同意する。
その答えが気に入らないのか―もしくは気に入ったのか、進治の目元と口元が笑みに歪む。
「全くぅ、ノリが悪いですねぇ~。それでも弟子ですかぁ? 師匠ですよぉ? 私、あなた達の師匠ですよぉ?」
と、思わず殴りたくなる腹立たしい笑顔で進治は師匠風を吹かせてくる。
口調も心底楽しそうだ。
そんな進治に光一郎は、怒りを通り越して呆れを覚える。
「いいから……話し進めてくれよ…」
半眼で異議を申し立てる光一郎に、進治は更に楽しげに口元を歪める。
「ウワッ、ショックッ! 師匠かなりショック! 弟子にこんな生意気言われるなんてぇ~。悲しみと怒りでどうにかなりそうですよぉ……光一郎くん! 君なんか破門ですッ!」
当然、その表情に悲しみや怒りは一欠片も見受けられない。
にも関わらず、そういうことを嘯くあたり、進治のおふざけの真骨頂だ。
「………まじ、めんどくせぇ」
進治の上機嫌過ぎる一人劇に、光一郎は苦虫を噛み潰したような顔になる。
すると、突然――
「そんな…光一郎殿が破門だなんて……進治先生、どうか考え直してください!」
隣に立った千代が反応してきた。
しかも、いつになく焦っている。
「私に出来ることならば、なんでもいたしますので、どうか思いとどまってください…!」
進治の冗談十割の文言に、完全に騙されている。
しかし、冗談でこんなに焦られては光一郎自身も困る。
「……おい…千代」
「なんですか!?」
宥めようと声をかけた光一郎に、千代は飛びつくような勢いで返答してきた。
思わず、半歩さがってしまう。
「いや…落ち着けよ」
「落ち着け!? こ、光一郎殿は…破門されるのが嫌ではないのですか!?」
「いや、それは嫌っていえば嫌だけど」
「ならば、どうして平然としているのですか!?」
「いや、だから、破門ってのがそもそも冗談で―」
「冗談で破門!? そんな馬鹿なことがあるわけないじゃないですか!?」
「いや、まぁ確かにそうなんだが……」
不思議なことに、これほど天然な千代でも言っていることは至極まともなことだった。
「ああ……もう。らちがあかねぇ」
光一郎は千代に何を言っても無駄だと思い、進治に向き直る。
「おい、進治さん。もうあんたから直接言ってくれよ、“今のはふざけただけの冗談だ”って」
本人が否定すれば、どれだけ察しが悪い奴でも納得するだろう。
光一郎はそう思っていた。
しかし――
「ええぇ~!? 私が冗談なんて言うわけないじゃないですかぁ!?」
進治は千代と違い察しは良いが、絶望的なまでに性格が悪かった。
……こいつ、本気でめんどくせぇ…
進治の表情がニヤニヤと質の悪い笑みを浮かべるので、光一郎の顔は再び苦虫を噛み潰したような顔になる。
今度はもう十匹ぐらい噛んだんじゃないかと思うほどにひきつっている。
「やっぱり…! 光一郎殿、進治先生は本気です!」
……まぁ確かに“本気”だろう。“本気”でふざけているんだから…
千代の焦燥の言葉に、光一郎は内心でそう答えた。
しかし、もうそれを口に出して答えるだけの気力は光一郎の中には残っていなかった。
「ははははっ! 進治さん、もうその辺にしとけ」
その時初めて、その部屋のなかにいたもう一人の退魔衆隊員が声を出した。
短く刈り込んだ黒髪と黒目、そして公国神威の人間にしては珍しい高身長とがっちりした体格を有した、逞しさと頼もしさに溢れる男。
つい一時間ほど前に、退魔衆入隊試験で光一郎の対戦相手を務めた“武”こと、八王子・武だ。
「千代。光一郎の言う通りだぜ? 進治さんの言ってんのは冗談だ、なぁ? 進治さん?」
「ハハ、バレちゃいましたかぁ~。まぁ、おふざけはここら辺にしときますかぁ」
武の良く通る野太い声に促され、進治はあっさりとそう言った。
「そうですか……冗談ですか…良かった」
千代も納得して胸を撫で下ろす。
無論、光一郎も同様だ。
「……助かった、ありがと。武さん」
光一郎は安心した表情で溜め息を漏らし、武に感謝を口にした。
「おう、かまわねぇよ」
光一郎の言葉に武は破顔し鷹揚に頷いた。
「進治さんのことで困ったら、“副隊長”の俺に良いな」
八王子武は、ただの退魔衆の隊員ではない。
八王子武は退魔衆の“副隊長”を務めている。
退魔衆を隊長として率いるのは進治だが、進治は部下への指示や作戦の指揮は、基本的にしない。
どちらかといえば、進治の得意分野は独断専行、単独行動だ。
そんな進治の代わりに、作戦指揮や指示出しを行っているのが武だ。
更に武は、退魔衆が設立された当初から――もっと言えばそれ以前から進治とは付き合いがある。
何より、年齢で言えば武の方が進治よりも年配だ。
つまり武は、『公国神威最強の剣士・式島進治』に意見できる数少ない人間なのだ。
「もぉ~、武さんやめてくださいよぉ。師匠の威厳が無くなるじゃないですかぁ」
……威厳とか元々無いけどな…
武に拗ねたような態度をとる進治の言葉に、光一郎は胸中で呟いた。
「それじゃ―そろそろ本題に移りましょう」
……やっとか…
重い腰を上げるように、進治がやっと任務の話しに戻る。
「お二人はあまり疑問に思っていないようですが…任務に重要なことですので、まずは“王都アレステリア行く経緯”をお話しします」
表情はいまだに口元に笑みが見られるが、声音に間延びした感じが無いので、真剣に話していることが窺える。
「――二日前。公国軍司令部に神聖アルヴァレン王国から軍の派遣要請がありました」
……王国から?…
進治の言葉に光一郎は疑問を抱いた。
神聖アルヴァレン王国は、ヘイルスウィーズ大帝国が亡き現在では世界一の大国だ。
無論、軍事力も絶大。
そんな大国が他国に軍の派遣を要請する。
その事に、光一郎は疑問を抱いた。
「派遣要請の具体的な内容は、『王都アレステリアの“とある施設”の警備』です」
「とある施設……ですか?」
進治の言葉に隣の千代が訝しげに反応する。
そんな千代に、進治は返答する。
「お二人は……『アレステリア魔導学園』を知っていますか?」
進治の口から言われたその”学園“に光一郎は聞き覚えがあった。
「まぁ、名前だけなら……」
「はい、多少は知っています」
と、おそらく光一郎と千代は控えめに答える。
アレステリア魔導学園とは、世界で唯一の『魔導士育成機関』だ。
魔導士。
それは“魔法”とも言い換えることの出来る技術――『魔導技術』を扱う者達の総称だ。
その者達は、太古では呪い士や魔法使いと呼ばれ、不幸や災いの原因とされた為に、忌避と嫌悪の対象であった。
特に、天然資源が豊富なアルヴ・パラディ大陸と東武大陸においてその風潮は顕著だった。
しかし、唯一ヘリオシス大陸においては異なっていた。
世界三大陸の一つであり北方に存在するヘリオシス大陸は、元々天然資源が豊富ではない。
更に寒冷な気候のために、大型の動物が多く生息していた。
その動物たちから身を守るために、また少ない資源で安定した生活を送るために。
ヘリオシス大陸では魔導技術が発展していった。
そして、ヘリオシス大陸において魔導技術が最も発展した国こそ、ヘイルスウィーズ大帝国だ。
帝国を発信源として様々な地域―それこそ別の大陸にも魔導技術の有用性が広まる。
傷病を治療し。
生活を豊かにし。
外敵を排除する。
更に、従来の農業や漁業等の産業と組み合わせることにより、その有用性は高まった。
作物が病気になれば、医療魔法を応用してそれを治す。
魚が腐りそうになれば、氷と水を作り出し鮮度を保つ。
そのようにして、魔導技術の需要は次第に広まっていった。
当然、魔導士の需要も高まる。
いつしか、魔導士たちは職業として認知されるようになった。
更に近年、帝国暦1579年。
魔導士という職業が神聖アルヴァレン王国と公国神威において『国際資格』と認定される。
つまり魔導士は正式に、『国家公務員』という扱いを受けるに至ったのだ。
そこで神聖アルヴァレン王国が主導になり公国神威の協力の元で、帝国暦1579年に設立されたのが――
魔導士育成機関。
アレステリア魔導学園だ。
それが光一郎の有する、アレステリア魔導学園の知識であった。
「では、この場では詳しい説明は省略します」
光一郎と千代がアレステリア魔導学園への見解を示すと―
「問題はここからです」
進治は次の話しに移る。
「どうやら、そのアレステリア魔導学園が、“武装集団”に狙われている様です」
「狙われている?」
光一郎が疑問に思ったのは“狙われている”というところではなかった。
アレステリア魔導学園は、世界で唯一の魔導士育成機関だ。
当然、世界最高峰の魔導技術と魔導士が、教材あるいわ教師として集まるだろう。
未来を担う若い魔導士の育成と新たな魔導技術の開発のためだ。
しかし。
残念なことに魔導技術を“独占”したがっている者は多い。
国家にしろ、軍隊にしろ、商会にしろ。
あらゆる“組織”が魔導技術を独占したがっている。
だが、それも当然のことだ。
独占すれば他国より優位に立てる。
独占すればより強い軍事力を得られる。
独占すればより多くの利益を得られる。
ならば、魔導技術保有する組織―あるいわ、その機関は狙われるものだ。
しかし、だからといって安易に武力を行使するような“組織”は少ない。
だから、問題は“狙われている”というところではない。
問題は――
「……いったい、“なに”に狙われているんだ?」
問題は“組織”の方だ。
「光一郎くん、実にいい質問です」
光一郎の問いに、進治は珍しく“純粋な賞賛”を送る。
それが光一郎には微妙に歯がゆく、なんとも言えない表情になってしまう。
しかし、そんな光一郎の様子を進治は気にも止めず話を続ける。
「大前提として、アレステリア魔導学園は『王国正規軍』の管理下にあります」
王国正規軍とは神聖アルヴァレン王国の保有する軍隊だ。
「そして王国は巨大な国です、そんな大国の軍が管理する学園にちょっかいを出すのは、生半可な組織や国で出来ることではありません」
そう。
その部分が、光一郎も引っ掛かっていた。
強大な軍事力を保有する王国の、言わばお膝元である学園を狙う組織など限られている。
王国と同規模の国ですら、数えるほども無いのだ。
……それこそ公国や旧帝国ぐらいしか…
「――まさか!」
光一郎はそこで自分の胸に浮かんだ、重要な言葉に気付いた。
「どうかしましたか?」
「光一郎くん、気付きましたか」
千代は不思議そうに問いを、進治は期待の表情を、光一郎に向けて来る。
「あぁ、多分な……」
光一郎は進治の期待に返答する。
「“武装集団”ってのは―『旧帝国軍』だな」
光一郎の答えに、進治は――
「その通りです」
口端を歪め、肯定する。
どうやら期待には応えられたらしい。
帝国においても軍隊は存在していた。
しかも、ただの軍隊ではない。
かつて世界最強と唱われた軍隊だ。
しかし、帝国が王国と公国の連合軍に敗北したことにより、帝国軍は解体された。
つまり、帝国軍はもう存在しない。
――ということになっている。
しかし、実際には帝国軍は未だに存在している。
正確に言えば、帝国軍の解体や敗北を受け入れない軍人達によって組織された非公式の“武装集団”が未だに存在している。
「旧帝国軍は、帝国の敗北を受け入れない皇帝至上主義者による、反政府的な集団です」
話し始めた進治の口調は、説明口調ではあったが、その内容は説明というより念押しのような感じだった。
「そのため旧帝国軍は、かつての帝国軍の勢力に比べると半分程度です」
旧帝国軍と一口に言っても、元軍属の多くは帝国軍を離れ、新たな生活を送っている。
旧帝国軍を構成するのは、特権階級であった貴族や皇帝を心から信奉する思想家だけだ。
「ですが、旧帝国軍は未だに巨大な軍隊です」
元々、王国と公国の両軍を相手にしても七年近く戦線を保った軍隊だ。
半分以下の勢力になっても、未だ警戒には値する。
「よって、もし“旧帝国軍がアレステリア学園を狙っている”という情報が本当であれば…今回の任務は最悪“戦闘”になります、理解しておいてください」
「承知しました」
「……あぁ、分かった」
進治の言葉に、千代は明瞭に了解を示す。
しかし、光一郎は―どこか煮え切らない返事だ。
何故なら、光一郎には何か納得のいかないことがあった。
それは疑問と言い換えてもいい。
「光一郎くん? どうかしましたか?」
そんな光一郎の様子に気付いたのか、進治は至極真剣な表情で尋ねる。
光一郎は、それに対して「いや、大したことじゃないんだが…」と前置きする。
「……その任務は…なんで俺たちが受けることになったんだ……?」
「“なんで”…とはどういう意味ですか?」
光一郎の疑問の言葉に、進治は同じく疑問の言葉を返す。
だが、その声音に宿るのは純粋な疑問とは、少し違う。
おそらく、光一郎の疑問の意味と内容を、進治は理解している。
それでもあえて聞いているということは、光一郎本人に言わせたいのだろう。
なので光一郎は、進治にありのままの疑問のぶつけた。
「そのまんまの意味だよ…なんで“王国の学園の問題”に俺たちが関わるんだ?」
アレステリア学園の設立には公国も関わっている。
しかし、それはあくまでも設立する“まで”の話であって、設立して“から”は一切関わっていない。
なにより、アレステリア学園は王国の王都にあり、防衛の管理を行っているのは王国正規軍だ。
つまり――
「学園運営上での責任は、王国にあるはずだろう?」
「ですから、王国から公国軍の派遣要請があったので―」
「そこだ」
進治が行おうとした説明を、光一郎は遮った。
「そこがよく分からない…何故、王国は公国に軍の派遣要請なんて真似をした?」
再三に渡って提示してきたように、王国は現在世界最大の強国。
軍事力だけでも世界二位だ。
つまり、それほどに強力な軍事力を保有している。
確かに、旧帝国軍は、警戒に値する。
それに公国の軍事力は王国の上をいく、世界第一位だ。
故に、「面倒な旧帝国軍との戦いを王国軍よりも強い公国軍に頼む」という方法は。
一見、理にかなった筋道の通った方法のように思える。
だが、実際はそんなに簡単なことではない。
だって、そんな方法は――
「王国が公国に“借り”を作るだけだろう?」
旧帝国軍は警戒には値する。
だが、脅威とはなり得ない。
世界最大の軍事力を誇ったと言っても、それは過去のことだ。
もし今、旧帝国軍と王国が全力で“戦争”をすれば確実に王国軍が勝つだろう。
つまり、王国が公国に軍の派遣要請をするということは―確実に勝てる相手にわざわざ助っ人を頼むということだ。
そして公国も、軍をただで派遣するわけにはいかない。
よって王国には、公国に借りをつくだけで、何も得がない。
「そんなことをして、王国は一体何を考えているんだ?」
光一郎にとっては、それが疑問であった。
「光一郎くん」
そんな疑問に、進治は少し笑う。
「君ならそう言うと思ってましたよ」
……やっぱり…
やはり、進治は光一郎の疑問の内容を理解していた。
にもかかわらず、あえて自分の口で言わせた進治の悪癖に、光一郎は頭を抱えたくなった。
「ではまず…勘違いをただしておきましょう」
「……勘違い……?」
ちゃかすような雰囲気こそないが、どこか含みのある言葉。
そんな進治の言葉に、光一郎の眉間がしわをつくる。
「……どういうことだ?」
思わず、剣呑な言い方になってしまったが、受け手である進治は涼しい顔で話を始める。
「光一郎くん、君はそもそもアレステリア学園が王国の所有物だと思っていませんか?」
「……当たり前だろう」
前述したように、アレステリア学園の所在地は王都アレステリア、管理するのは王国正規軍だ。
だから、アレステリア学園が王国のものであることに疑う余地はない。
それ故に、光一郎は即答したが―
「そうですね、私も同感です♪」
「……は?」
進治は満面の笑顔であっさりと肯定してきた。
思わず疑問符を浮かべてしまう。
光一郎はまたからかわれていると判断すると、嘆息を一つして、異議を申し立てる。
「おい、進治さん、ふざけてないで―」
「ふざけてなどいません」
光一郎の言葉を、断ち切るように発せられた進治の声は、底冷えするような冷たさだった。
笑みも消え失せ、鋭い眼光が光一郎に向けられるのみだ。
思わず息を呑む。
「確かに、学園そのものは王国の所有物です」
進治は冷たい声音のまま「ですが」と間に挟む。
「学園の“生徒”は別です」
「……生徒?」
進治の語った言葉を、光一郎は反芻することしか出来ない。
その真意が解らないから。
「光一郎くん、アレステリア学園の生徒の総数を知っていますか?」
「いや…知らない」
「今年度は約三千人だそうですよ」
……そんなに多いとは…
光一郎はアレステリア学園のことなど調べたことはない、知らなくて当然だ。
おそらく、進治も今回の任務を受けるに当たって、わざわざ調べたのだろう。
あるいわ、武に調てもらったか。
どちらにしてもプロ意識のなせる技だろう。
だが、「それが今回の件と直接関係するのか?」と思わずにはいられない。
……いったい、どんな関係が?…
そう思った直後に、進治が話を再開した。
「では―この生徒たちの何割が公国の人間だと思いますか?」
「三百人……一割くらいか?」
本当に完全な当てずっぽうだ。
当然、当たらない。
進治が首を横に振る。
「正解は約三割――一千人です」
その言葉を聞いて、光一郎の表情は大きく変わりはしなかった。
だが、驚いていない訳ではない。
光一郎が提示した数の三倍近い公国人が“学園”にはいる。
「近い将来、彼らは魔導士の資格を取り、多くが公国神威の重要機関で働くことになるでしょう」
魔導技術は国家体系の根幹を成す技術といっても良い。
よって魔導士は、現在最も必要とされている職業だ。
「そんな彼らを―彼らの住まう学舎を―守る義務が、公国軍にはあります」
「あぁ、そうだな……」
光一郎は静かに進治の言葉を肯定した。
「……でも、それは公国軍が学園を守る理由にはなっても、王国が公国に協力を要請する理由にはならないだろ?」
光一郎の言い分は正しかった。
確かに今の進治の言葉では、公国の利益にはなっても、王国側の利益にはならない。
では、何故、王国は軍の派遣を要請したのか。
そういう言い分だったが――
「光一郎くん、早まらないで下さい」
相対する進治はやはり涼しげだ。
「“本当の理由”―はここからですから」
若干、笑みを浮かべながら進治は言ってきた。
……じゃあ、もったいぶらずに話せよ…
そんな進治の態度に光一郎は内心でぼやく。
「では、本当の理由を話す前に……まず、今回の任務の“構成”について話しておきましょう」
ぼやいたそばから、じらされた。
だが、進治は構わず続ける。
それに話の内容としては聞いておかなければならないことだ。
「まず、今回の任務を遂行するにあたって動員される部隊は―私たち『退魔衆』だけです」
『………え?』
進治の言葉に反応したのは、光一郎だけでなく千代もだった。
「ちょ、ちょっと待て……『退魔衆』だけって……」
「それはつまり……一部隊だけ…ということですか……?」
光一郎も千代も恐る恐る―出来れば、進治の言葉が嘘か聞き間違えであることを祈りながら、進治に尋ねた。
しかし、進治は――
「えぇ、その通りですよ」
平然と答える。
王国からあったのは“軍の派遣要請”。
それは文字通り“軍隊”の派遣を要請するものだ。
だが、たったの一部隊だけでは、軍隊とは呼べない。
「たった一部隊だけで…大丈夫なのか? 王国からの要請は軍隊の派遣だろ?」
「……それに、退魔衆は私と光一郎殿を入れても全部で六人のみ……果たしてそれで戦力になるのですしょうか?」
光一郎と千代は心底不安そうに尋ねる。
しかし、それに――
「はははっ! まぁ、不安だろうな」
副隊長の武は豪快に笑い――
「君たちは、全く………はぁ……」
隊長の進治は呆れたように嘆息した。
「な…なんだよ……」
光一郎は、自分は笑われたり呆れられたりするようなことを言ったのだろうかと、不信に思いながら尋ねる。
それに答えたのは進治だ。
「光一郎くん、千代さん……君たちの師匠は誰ですか?」
ほんの少しだけ不機嫌さを含ませた口調だ。
「それは…」
「進治さん……だろ?」
「そうですか、私ですか」
……いや“そうですか”じゃないだろ…
光一郎と千代の言葉に、進治が投げやりに答えるが、進治の雰囲気が少し怖くて光一郎は声に出して異議を唱えられない。
「では…私が教えている剣術は―その流派は……なんですか?」
……流派…?
この問答に何の関係があるのか?
光一郎はそう思うと“何か分かるか?”という視線を千代の方を向けるが、千代も同じように疑問符を浮かべて光一郎を見ていた。
互いに顔を見合せ、互いに進治の質問の意図を理解していないことを理解し、答えるしかないという結果に行着く。
『御劔一刀流……』
二人が合わせて口にしたのは――剣術の流派の名前だった。
御劔一刀流。
「では…御劔一刀流とはどんな剣術ですか?」
進治の質問は光一郎と千代――つまり、御劔一刀流を修める者にとっては、基本中の基本だ。
「御劔一刀流は、古都御劔において発達した、“完全実戦本意の剣術”です」
と、答えたのは千代だ。
模範的な解答だが、それだけに間違いはない。
公国神威は元々武術―とりわけ剣術が盛んで、他の大陸に比べれば圧倒的な多様性を誇る。
その中の一つ。
公国神威の辺境、御劔地方の古都御劔において発展した剣術がある。
それこそが、実戦で勝利することのみを目的とした剣術――『御劔一刀流』だ。
「……そうですね、確かにその通りです。私はあなた達二人に十年かけて、御劔一刀流を教えました」
決して恩着せがましくなく。
しかし、まるで“よく考えろ”とでも言いたげな声音で進治は語り、同時に問う。
「それは何故だと思いますか?」
……何故って………あ…
光一郎はその質問を受けて、進治の言わんとしていることに、初めて気付いた。
「それが……退魔衆の…入隊の“条件”だから」
「その通りですよ、光一郎くん」
光一郎の答えに、進治は満足げに頷く。
そして、千代に向き直る。
「では、千代さん。なぜ、御劔一刀流を習得していることが退魔衆の入隊条件なんでしょうか?」
「それは…」
一瞬の黙考の後、千代は答えた。
「御劔一刀流が…“最強の剣術”だから――だと思います」
それは、さっきの模範的な解答に比べたら、なんとも主観的で偏見に満ちた見解だった。
しかし。
「その通りですよ、千代さん」
進治はその偏見に満ちた答えを肯定した。
最強の剣術。
そんなものは決めようがない。
もし、公国神威の中だけですべての剣術の使い手同士を戦わせたとしても―
それは“剣士”の強さの証明にはなっても、“剣術”の強さの証明にはならない。
たとえ同じ剣術でも、剣士によって練度は違う。
腕力も脚力も違う。
それだけ違えば、剣術一つ一つに優劣をつけることなど不可能だ。
では、仮定の話で全ての剣士の力量が同じならば、剣術の優劣を決めることは出来るだろうか。
否である。
断じて否だ。
何故なら、剣術の流派には理念があり、思想がある。
つまり、向き不向きがある。
人を守ることを主にした剣術は必然的に防御力が高い。
人を斬ることを主にした剣術は必然的に攻撃力が高い。
そういったことだ。
そして、その種類は種々様々だ。
一対多数に特化した剣術。
一対一の特化した剣術。
多数対多数に特化した剣術。
あるいわ、地形も関係してくるかもしれない。
森林地帯での戦闘に特化した剣術。
水辺や沼地に特化した剣術。
砂漠地帯。
街中。
屋内。
それらの状況を鑑みて、すべてを考慮して、剣術に優劣をつけることなど―不可能だ
よって、最強の剣術などない。
最強の剣術などあり得ない。
―――しかし。
公国神威において“最強”と呼ばれる剣術がある。
公国に存在する150種以上の剣術の中で、“最強”の名をほしいままにしている剣術がある。
公国の剣士百人に聞けば、百人全員が最強だと口にする剣術がある。
それが御劔一刀流だ。
しかし、さっきも述べたように、最強の剣術を決定することなど不可能だ。
では、何故、御劔一刀流が“最強”と呼ばれているのか。
それは――剣士の問題だ。
現在の公国神威において『三闘神』と呼ばれている、三人の“化物じみた”剣士がいる。
『雷神』―藤名瀬・九十九。
『風神』―藤名瀬・一代。
『鬼神』―式島・進治。
その三人だ。
そして、その三人は全員―御劔一刀流の使い手なのだ。
つまり現在、最強といわれる剣士が使っている流派が御劔一刀流である。
否、現在だけではない。
公国神威の歴史上、様々な戦で英雄として名をあげている強者達の多くは、御劔一刀流の使い手なのだ。
故に“最強の剣術は御劔一刀流だ”という理屈だ。
無論、それで本当に御劔一刀流が最強の剣術になるわけではない。
何故なら、偶然かもしれないからだ。
偶然、歴史上の剣士達が御劔一刀流の使い手で。
偶然、現代における最強の三剣士も御劔一刀流の使い手で。
それらは、偶然―つまり、たまたまそうなっただけかもしれないからだ。
その者達が別の流派を学んでも、同じ強さを発揮したかもしれない。
だから、御劔一刀流を『最強の剣術』と決定することは出来ない。
しかし――
“決定”はされなくとも、“認識”はされる。
『最強の剣術』は御劔一刀流だ、と。
何故なら、事実がある。
歴史上の人物にしろ、現代の剣士にしろ。
強者達がいる。
多くの剣士達は、その強者達を文字通り“強い”と認識する。
そして、その剣士達が御劔一刀流の使い手であると知ると、その認識は“剣士の強さ”から“剣術の強さ”へと変わる。
そうして御劔一刀流は『最強の剣術』と認識されるようになった。
「では、何故『最強の剣術』を使えることが退魔衆の入隊条件なのか……」
と、進治は話を続ける。
「それはね、光一郎くん、千代さん。退魔衆が『対魔導士部隊』だからです」
「それは…知っているよ」
光一郎は、言い聞かせるような進治の口調に反論した。
光一郎も千代もそれを承知の上で、退魔衆に入隊したのだ。
だが、進治はそんな光一郎を軽くあしらう。
「では、光一郎くん、何故『対魔導士部隊』が設けられたか、分かりますか?」
「……え?」
光一郎は思わず戸惑っていた。
退魔衆の設立された理由など考えたこともなかったのだ。
しかしそんな光一郎を冷やかすわけでもなく、進治は優しく語りかける。
「それはね、光一郎くん……帝国軍に対抗する為ですよ」
「帝国軍に対抗する…ため?」
光一郎の半ば呟きのような疑問に、進治は答え始める。
「帝国軍がかつて世界最強と唱われていたのには理由があります」
それは、あまりにも唐突な話の方向転換であったが、光一郎と千代にはとても重要な話の気がした。
「それは、魔導技術の―つまり、魔法の軍事転用です」
魔法の軍事転用。
それは万能の力と言い換えても良い魔法を“人殺し”にのみ使うという、恐ろしい所業だ。
「とはいえ、帝国だけでなく王国や公国も魔法の軍事転用は行っていました……しかし、当時から世界最先端の魔導技術を持つ帝国とは、とても太刀打ち出来るものではありませんでした」
それは決して埋まることのない戦力差に思われた。
――しかし。
「そこで、公国軍は考えました。魔法で勝てないのならば――勝てるもので勝負をしようと。そして設立されたのが、対魔導士部隊『退魔衆』です」
その頃になれば、公国軍においても軍事魔法の開発と研究が盛んに行われていた。
そんな中で『退魔衆』は正に“異色”の部隊だった。
「千代さん、退魔衆の戦闘について述べて下い」
進治は急に話を千代に振る。
しかし、千代は冷静に対応する。
「はい、分かりました……対魔導士部隊である退魔衆は、標的となる魔導士を発見後速やかに標的に接近し、必要最低限の魔法と剣術のみを使用して標的を制圧する…それが退魔衆の戦い方です」
千代の解答は、模範的を通り越して、教本その物とすら思えるような解答だった。
それに進治は賛辞の言葉を送る。
「その通りです、素晴らしいですね……つまり、退魔衆とは平たく言えば『魔法の撃ち合いでは帝国軍人に勝てないから、帝国軍人が魔法を撃っちゃう前に近づいて斬っちゃおう』っていう感じの部隊です」
その説明で正しいのだろうか。
光一郎はそう思わずにはいられなかったが、進治の言わんとしていることは理解した。
「つまり、帝国軍を接近して…“確実に殺すため”に…退魔衆の隊員は最強の剣術の使い手でなければいけないんです」
……ということは、王国は…
そこで本当の意味で初めて完璧に、進治の真意と、王国が公国軍に軍の派遣要請をした理由を、理解した。
そんな光一郎の顔色を見切ったのか、進治が光一郎に尋ねる。
「では、光一郎くん? 王国が軍の要請をした理由と、派遣される部隊が退魔衆だけな理由を教えて下さい」
……“答えて下さい”の間違いだろう…
進治の皮肉っぽい言い方に光一郎は内心で毒づく。
しかし、ちゃんと答える。
「王国が公国軍に派遣要請をしたのは、公国軍に対魔導士部隊があるからで……派遣される部隊が退魔衆だけなのは、対魔導士部隊が退魔衆だけだからだ」
「えぇ、正解です♪」
ふてぶてしく答える光一郎に、上機嫌で答えを聞く進治。
何やら変な光景だが、光一郎の答えに間違いはない。
王国は旧帝国軍の襲撃に備えて、対魔導士部隊が欲しかった。
何故なら、それならばより被害が少なく、そしてより確実に旧帝国軍を撃退出来るからだ。
しかし王国には対魔導士部隊は無い。
そこで公国の退魔衆の出番だ。
対魔導士部隊を欲しい王国。
自分の国の生徒を守りたい公国。
二つの国の利害が一致したのだ。
それにより、王国から公国に軍の派遣要請があったという筋書きだ。
「ですが……まだ一つ足りませんね」
「あ?」
完璧な筈の光一郎の答え。
それに進治は、口を挟んだ。
「光一郎くん、千代さん。派遣される部隊が退魔衆だけなのは……実は対魔導士部隊が退魔衆だけだからでは無いのです」
『………は?』
進治の言葉に、光一郎と千代の声が重なる。
だって、それではさっきと言っていることが矛盾しているのでは無いだろうか。
光一郎は思わず話に食い付いた。
「なんだよ…その理由って?」
「私も気になります」
光一郎と千代の質問に進治は、今での説明の中で最も満面で――
「光一郎くん、千代さん。それは――退魔衆が強いからです」
慈愛に満ちた笑みをつくる。
「お二人とも自信が無いようですが――自信を持ちなさい。あなた達は私が鍛えたのです、そんじょそこらの剣士は相手にもなりません」
それは、退魔衆だけで任務に当たると聞いて狼狽えていた二人への、師匠としての励ましだった。
「確かに仲間は六人だけですが、互いに支え合える仲間達です。この六人なら何者にも負けないと信じていますよ」
弟子二人を真っ直ぐに見つめるその姿は―
普段のおちゃらけた進治からはとても想像できない、芯の通った姿だった。
「己を信じ、仲間を信じなさい。よいですね」
「―――はい、進治先生」
「………あぁ、進治さん」
進治の視線に真っ直ぐに視線を返しながら。
光一郎と千代は明瞭に答えた。
「……では、お二人も任務の意義を理解したようですので……具体的なお二人の役割について説明しましょう」
『――!』
具体的な役割。
それは部隊において、個人が最も重視しなければならないものだ。
それを完璧に全うしなければ、他の隊員の役割や任務の成功自体に支障をきたす。
それを肝に命じて、光一郎と千代は進治の言葉に耳を立てた。
「お二人は、今年でちょうど十六歳になるのでアレステリア学園を内部から守るため生徒として入学してもらいます」
「分かった」
「承知しました」
アレステリア学園は全課程で三年間の教育課程を組んでいるらしい。
そして、入学資格は満十五歳以上であることだけらしい。
幸いにも、光一郎も千代もその条件を満たしている。
「そして学園に生徒として入学したら、お二人にやってもらうことは――主に二つ」
自分の言葉に合わせるように、進治は右手の人指し指と中指を立てて二を作る。
「まず一つは、学園の下調べです。一応学園の地図は王国から配給されますが、実際に確かめなければ分からないこともあるでしょう」
「了解」
「承知しました」
「そして――二つ目」
そう言うと、進治は険しい顔つきになる。
「お二人には――二人の要人の警護……そして監視をしてもらいます」
……二人の要人…?
察するにアレステリア学園の教師や生徒の中に重要な人物や著名な人物がいるということだろうか。
光一郎のそんな疑問に答えるように、進治は言葉を紡ぐ。
「まず、一人目ですが……彼はヘイルスウィーズ大帝国の要人です」
『………!?』
進治の言葉に、光一郎と千代は己の耳を疑った。
しかし、聞き間違えではない。
確かに進治は、ヘイルスウィーズ大帝国と言った。
学園を狙っているのは、他でもない旧帝国軍なのだ。
つまり、ヘイルスウィーズ大帝国の要人ということは、言わば敵の要人ということだ。
……そんな奴が……何故?
そんな存在の人間がアレステリア学園にいる理由も分からないが、そんな人間を警護しなければならない理由も分からない。
「進治さん……そいつはいったい、なんなんだ?」
我ながら要領を得ない質問だ。
そう自覚しながらも、進治は問いに答えてくれた。
「その人物は――現在は帝国を国外追放されているため、王国の監視の元で生活していました。しかし、十五歳になったことを切っ掛けにアレステリア学園への入学を希望し、その希望は受理されました」
「……驚き………だな」
光一郎は驚きのあまり額に汗が流れることにも気付かなかった。
「帝国の要人とやらが、学園に入学を受け入れられたってのも驚きだ……でも」
……それ以上に驚くべきことがある…
そんなことを胸中で呟きながら、光一郎は核心に触れた。
「進治さん…そいつ“皇族”だな……?」
光一郎の迷いのない、しかし躊躇いながらの問いに進治は頷いた。
「……よく……分かりましたね」
「ん…まぁな……国外追放でピンと来た」
帝国が王国と公国に敗北した時。
帝国は幾つかの条件を飲まされた。
その中の一つが、皇族の国外追放だ。
故に、その要人が皇族であることなんて容易に想像できる。
「では……名前と特徴を教えておきましょう」
進治は執務用の机の上から一枚の書類を持ち上げて、そこに書いていることを読み上げる。
「年齢は十五歳。身長は一,七メトル。髪は黒。眼の色は青。ヘイルスウィーズ大帝国第98代皇帝ジーク・フリート・ヘイルスウィーズの第一子にして、皇位継承権第一位――」
そして遂に最も重要な事柄を読み上げた。
「元第一皇子レイド・スラッシュ・ヘイルスウィーズです」
光一郎が帝国皇子の名を聞いた。
この一ヶ月後。
帝国暦1585年3月29日。
光一郎は学園の入り口にて帝国の皇子と出会うことになる。