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アレステリア学園戦記  作者: 斉藤 賢生
アレステリア魔導学園
3/6

入隊と任務

 帝国暦1585年2月28日

 公国神威(カムイ) 首都宮代(ミヤシロ)


 

 少年が駆けている。

 くろよりなお暗い、暗黒あんこく色の髪。

 あかよりなお深い、深緋こきあけ色の瞳。

 そして、整った顔立ち。

 三つを併せ持った少年の名は――天道テンドウ光一郎コウイチロウ

 彼は、深緑の葉が生い茂る木々の間を、滑るように駆ける。

 そこは、森。

 公国神威の首都宮代の郊外に存在する、百平方メトルの面積をもつ森。


 世界三大陸の一つ、東武大陸。

 その大陸の全土を支配する、ツルギイクサの国。

 それが公国神威(カムイ)だ。


 光一郎は公国の『武士ブシ』。

 武士とは、公国における特権階級―戦士を示す職業だ。

 故に、その身には、綿めんで縫われた公国古来の戦闘服――『胴着ドウギ』をまとっている。

 光一郎が身に付けるのは白い色の胴着だ。

 更に左腰には、武士の象徴であり公国神威の名を冠した『神威刀カムイトウ』も差している。

 玉鋼タマハガネを素材とした刀身に刃と峰を併せ持つ、反りを有した優美な刀剣だ。

 光一郎が有するのは、漆塗りの黒い鞘と柄をした、多くある神威刀の中でも特に高級なものだ。

 


 しばらく、走り続けていた光一郎は一度、止まる。

 辺りを見回して誰も居ないことを確認すると、光一郎は近くの樹に背中を預けて地面に座る。

 ほんの少しだけ乱れていた呼吸を整え、こめかみに流れる汗を胴着の袖で拭う。

 静かに上を見上げるが、そこには緑の葉を纏った枝が生い茂り、見ることが出来るのは葉の間を抜ける――太陽の光のみ。


 ……後……十分くらい……か?


 葉の屋根を漏れでる陽光を瞳に捉えながら、光一郎は思った。

 彼は今、戦っていた。

 場所はこの森の中。

 制限時間は六十分。

 相手の総数は三人。

 味方は自分一人。

 ルールは敵を全滅させるか、制限時間内を逃げ切れば勝ち。

 決して、楽な戦いとは言えない。

 正直、勝つのは難しい。

 だが“本物の戦場”では制限時間もルールも無い。

 いつか、実戦に出るときのことを考えると、弱音なんて吐いていられない。

 それに、もう五十分近く敵と会っていない。

 このままであれば、きっと勝てる。

 一休みしたら、索敵を再開しよう。

 そう思い、立ち上がろうとした、その時。

 足音が聴こえた。

 ザク、ザク、ザク、ザク、と。

 地の土を少しだけ巻き上げながら歩く音が聴こえた。

 ………来たか…!

 光一郎は内心で呟き、神威刀の柄に指を掛ける。

 そのの瞳で、敵が現れるのを待つ。

 果たして、敵は現れた。

 十メトル程度前の木々の間から、その敵は出てきた。

 敵は光一郎と同じく神威刀を左腰に差し、色違いの黒い胴着を着た、茶髪の二十代程度の男だ。

 男と視線が重なる。

 男は光一郎を視界に捉えるや否や、先の光一郎の走りと同等の速度で木々を抜けて、前方か迫ってくる。

 それを確認すると光一郎は黒い髪を揺らし、男に背を向け、真っ直ぐに走り出す。

 本来なら、すぐに切り合いになる状況を光一郎は逃げることで回避した。

 しかし、このまま逃げ切れそうもない。

 ……足は―相手の方が速そうだな…

 光一郎は男の速度からそう判断すると。

 ……少し……試してみるか…

 と、何か策を思い付く。

 そして、少しだけ速度を上げる。

 男は光一郎にあわせて速度を上げてくる。

 それに光一郎は――ニヤリと笑う。

 ……良いぞ…着いてこい……!

 光一郎は更に速度を上げる。

 ほとんど全力で地面を踏みしめ、体を加速させる。

 それを受け、男も速度を上げる。

 おそらく、相手も全力で走っている。

 よって、両者の距離が縮み始める。

 十メトルの距離が、次第に八メトルに。

 八メトルが、更に六メトルに。

 五メトルに。

 四メトル。

 そして―

 三メトル。

 男が、光一郎の後ろ三メトルに近づいた瞬間――

 ……今だ――!

 光一郎は急停止し、振り向きざまに全力で鞘から刀を真横に抜き放つ。

 「――――ッ――!!」

 「――――ッ!?」

 光一郎が気合いで吐き出す息と、男が驚愕に飲む込む息が重なる。

 男は、回避しようとした。

 ――しかし、全力で走っていたので、急な方向転換も停止も出来ない。

 仕方なく、己も刀を抜く。

 森林の清らかな空気を切り裂いて走る光一郎の刀に、男の刀がぶつかる。

 しかし。

 ……当たりが……弱いッ!

 全力で振り抜いている光一郎の刀に対して、男の刀は咄嗟に抜いたに過ぎない。

 無論、威力には明確な差が生まれる。

 一瞬のつばり合いの後、男の刀は大きく上に弾き飛ばされた。

 「――ッ くそッ!」

 男は刀の回収と間合いを取ることを兼ねて、後ろに退がろうとする。

 ……させるかッ!

 光一郎は刀を上段に構え、男に斬りかかる。

 しかし、男はそれを見た瞬間に後退をやめ、光一郎の刀が降り下ろされる前に、少年の両手首を掴む。

 「―――ッ!?」

 攻撃を防がれ、更に膠着状態に陥る。

 ……それなら……これで…!

 膠着状態を脱するため、光一郎は右足を後ろに振り、次の瞬間前に突き出す。

 蹴りだ。

 光一郎の蹴りは、胴着を挟んで男の腹を打ち付ける。

 光一郎がいているのは、革製の靴底を使った足袋タビという履き物だ。

 靴底以外は綿で出来ているため、決して硬くなど無い。

 だが、男の姿勢は崩れた。

 ……今度こそ…!

 クソッ、と悪態をついてよろめく男に、光一郎は刀を振り上げ――

 峰の部分で右肩を打ち付けた。

 峰は刃と違い、鋭利ではない。

 故に、叩きつけても物体を切断することは無い。

 しかし、鋼の塊を打ち付けられて痛くない筈がない。

 「―――ガアッ……!?」

 という、激痛を訴える声が発せられるのと、ドサッという男が倒れる音が聴こえたのは同時だった。

 「あぁ……痛いな、…クソッ」

 男は痛みを堪えながら、肩を左手で押さえながら、近くの樹の根に座り込む。

 どうやら、ひとまず刀を握ることは出来ないようだ。

 「――――ハァ、ハァ……ッ……ハァ」

 …………………良しッ……!

 光一郎は、男の戦闘不能を確認した。

 しかし、ぐずぐずしてはいられない。

 なんとか息を整えながら、刀を鞘に納め歩き出す。

 戦闘直後の場所に長居をするのは危険だ。

 戦闘音を聞き付けた敵が来る可能性が高い。

 無論、迎え撃つこともできるが、一度体勢を整えたい。

 そして、出来れば、後はもう逃げに徹したい。

 故に、一刻も早くその場を離れたかった。

 ―――が。

 茶髪の男が倒れている所から、二十メトル離れた、その時。

 不意に、風切り音がした。

 何かが近付いてくる。

 ……これは――上か……!?

 思った瞬間に転がるように横へ飛び退く。

 判断は正しく、回避の直後に紙一重で刀が落下し、地面が抉れ土が舞う。

 しかし、そこに“居た”のは刀だけでない――刀を持ち、黒い胴着を着た屈強な男だった。

 身長一.七メトル程度の光一郎から見ても、かなり大きい。

 身長は間違いなく、二メトル近くある。

 「――よく避けたな」

 その大男が口端を歪め、面白げに話し掛けてくる。

 それに光一郎は言葉ではなく、抜刀という行為で返答とする。

 ……まさか、木の上から……?

 そんな馬鹿なとも思うが、それしか考えられない。

 ……だが……なんでだ? 俺がここを通る保証もないのに――

 そこで気付いた。

 さっきの男だ。

 さっきの男とこの大男は手を組んでいる。

 おそらく、目の前の大男は木の上で光一郎を待ち伏せしていたのだ。

 さっきの男が光一郎をここに誘導してくる、その時まで。

 ……まずい…

 つまり、大男はこの場所で闘うことを望んでいる。

 待ち伏せ以外の“罠”がある可能性がある。

 嫌な予感がする。

 出来れば、一度撤退したい。

 しかし。

 「行くぞ」

 大男が刀を中段に構え、ジリジリと近付いてくる。

 さっきのように、一度走って距離を取りたい。

 しかし、今の間合いは既に、約三メトル。

 近すぎて、敵に背を向けられない。

 ……やるしかない…

 乗り気ではないが、太刀打ちするしかない。

 光一郎は刀を同じく中段に構え、迎え撃つ。

 大男の足がゆっくりと踏み込んで。

 互いが、刀の間合いに入った。

 「――セァッ」

 大男は刀を振り上げ、力任せに叩きつける。

 「――フッ!」

 光一郎もその刀に、己の刀を振り上げて、真っ正面からぶつける。

 ……ッ――重たい…

 手に響く衝撃を、力を込めることで握りつぶす。

 威力は、正直完全に負けている。

 だが、鍔迫り合いには持ち込んだ。

 さっきと同じ手が使える。

 蹴りでなんとか男の体勢を崩して――

 そう思い、実行しようと右足を意識した瞬間。

 「――かかったな」

 大男が再び、面白げに口端を歪める。

 ……な、なにを…

 光一郎の背に悪寒が走った。

 そして、光一郎が抱いた疑問の答えは、すぐに知れた。

 突如として背後から、音がした。

 タ、タ、タ、タ、タ、という走る足音。

 光一郎は体勢はそのままに、顔だけ振り向くと。

 黒い胴着を着た、妙齢な茶髪の女が走り込んで来ていた。

 「――覚悟!」

 刀を振り上げる女を見て、光一郎は思った。

 ……二人目の待ち伏せッ…!?

 二人の―否―この三人の“罠”は、“これ”だ。


 光一郎の罠への誘導。

 待ち伏せによる奇襲。

 伏兵による挟み撃ち。


 ……ま、負ける…!?

 光一郎は自らに迫る刃を前に、敗北を想起し、思わず目をつむる。

 ――しかし。



 「はぁーい、そこまでぇー」



 なんとも間抜けな、間延びした声が聴こえた。

 「…………え?」

 光一郎は一瞬、言葉の意味が理解できなかった。

 よって、恐る恐る目を開けると。

 そこには、今にも自分へと振り下ろされそうな刀があった。

 しかし。

 「――チッ。時間切れかよ、惜しいなぁ」

 「ホント、もうちょっとで仕留められたのに」

 大男と女が表情と雰囲気を緩め、どこか口惜しそうに刀を納め始めたことで、やっとさっきの言葉を理解する。

 ……つまり、俺は…

 「合格です」

 半ば茫然と立ち尽くす光一郎に、そんな言葉が掛けられた。

 その言葉に振り向くと、よく見知った二人の人物がいた。


 「進治シンジさん……それに、千代チヨ


 紫水晶のような髪。

 真珠色の瞳。

 左目下の泣き黒子ぼくろが特徴的な整った顔立ち。

 だが、その顔に見た者をいらつかせる人を小馬鹿にした笑顔を張り付けた二十代後半の男。

 式島シキシマ進治シンジ


 馬の尾のように結われた艶やかな栗色の長髪。

 夏の若葉のような明るい色合いをした緑の瞳。

 端正な顔立ちと凛とした雰囲気。

 美少女と呼ぶに相応しい少女。

 藤名瀬フジナセ千代チヨ


 進治は黒、千代は白、それぞれ異なった色の胴着を身に付けている。

 二人は、光一郎にちかしい人物だ。

 進治は公国神威、最強の武士。

 そして、光一郎の剣術の師匠。

 千代は光一郎と同様に進治に剣術を教わっている。

 いわば、光一郎の弟子仲間だ。

 ――もっとも、剣の腕前は光一郎より千代の方が完全に上だが。

 「アンズさん、タケシさん、お疲れさまでした。京介キョウスケくんを連れて帰って下さい」

 『はい、進治さん』

 大男―武と、茶髪の女―杏は進治の命令に従い、光一郎に肩を打たれた男―京介を回収に向かう。

 二人は、否、京介を含めた三人は、進治の部下なのだ。

 「――進治さん、俺は……」

 光一郎は進治に脈打つ胸を抑えながら、“結果”を尋ねるようと声を出す。

 「えぇ、合格です」

 進治は光一郎の声に即答する。

 「――これで、君も『退魔衆タイマシュウ』の一員です」

 「――そうか……」

 進治が放った言葉に、光一郎は嘆息し、胸を撫で下ろす。


 ――退魔衆タイマシュウ

 それは、公国神威の特殊魔導部隊。

 とある剣の流派を使う剣士たちで構成された、対魔導士の少数精鋭部隊。


 今回のこの戦いは、『退魔衆』への入隊試験だった。

 退魔衆の現役隊員と模擬戦闘を行い、規定の勝敗で合格か不合格を判断する。

 

 さっきの三人、杏も武も京介も退魔衆の隊員だ。

 三人共通の黒い胴着こそが、退魔衆の一員である証だ。

 無論、同じ黒装束を身に付けた進治もそうだ。

 進治は、退魔衆の隊長として、今回その審判員をしていた。

 そして、弟子である光一郎は今回、退魔衆の一員になるべく試験を受けた。

 ……俺が……本当に、退魔衆に…

 これまで、このために頑張ってきた。

 強者の証である、退魔衆。

 その一員となるために進治に教えを請おてきた。

 約十年の間、しごかれてきた。

 その成果が、今やっと形を持って表れた。

 「良かったですねぇー、光一郎くん」

 そんな光一郎の気持ちを察してか進治は、眉尻を垂らし口元を引き上げ、愉快そうに笑う。

 「最後の方は、ちょぉぉっとだけ不様でしたけどねぇ」

 「………っ」

 進治の皮肉をたっぷり含んだ物言いに、光一郎の安心しきっていた内情は少し波立つ。

 「あっ、でも最初の方は見事でしたよ? もう、びっっっくりするくらい逃げてましたよねぇ~」

 「……うるせぇな」

 「ええぇ~、何でですかぁ? ホントにかっこ良かったですよぉ~?」

 光一郎の嫌そうな顔に、進治は心底楽しげだ。

 進治の言っている嫌みは全て事実なのもたちが悪い。

 「――光一郎殿(どの)。お疲れさまでした」

 光一郎と進治の一方的な会話に、千代が入ってきた。

 進治と同じ敬語だが、その声音や口調は全く違う。

 丁寧で礼儀正しい、千代の育ちの良さが表れている。

 「光一郎殿、進治先生(せんせい)おっしゃる通りですよ、常に周りに気を配り敵の配置を予想し進路の方向を決定付ける、素晴らしい逃亡だったと思います」

 「……………」

 千代の言葉には、驚く程に皮肉も嫌みも無かった。

 あるのは、純粋な称賛のみ。

 それに、光一郎は思わず苦笑いになる。

 「………なぁ、千代?」

 「はい、何でしょうか?」

 「……今の、微妙に誉めて無かったからな?」

 「…? 何故ですか?」

 「………いや、もう、いい」

 千代がきょとんとした、純粋な表情をしてしまうので、光一郎はなにも言えなくなってしまう。

 ……この天然め…

 「アハハッ、光一郎くん~、千代さんにはそんな風に言っても分かりませんよぉ~」

 千代との会話で困っている光一郎を見て、進治はまた愉しげに笑っている。

 「……そう言えば、お前の方は? どうだった?」

 会話を変えることを含めて、光一郎は千代に尋ねる。

 どう、とは入隊試験のことだ。

 千代も別の場所で同じような退魔衆への入隊試験を受けていた。

 「私も合格しました」

 「…そうか……まぁ、当たり前っちゃ当たり前だな」

 「そうですよぉ~」

 千代の合格を当然のものと思う光一郎に、進治は三度笑う。

 「だってぇ、多分千代さんは公国で四番目に強い剣士なんですよぉ? 私の弟子ですし~」

 さりげない、弟子自慢を入れて進治は話す。

 だが、それも事実なのだ。

 千代はおそらく、公国でも五本の指に入る剣士だ。

 「そのように思って頂けるのはありがたいことですが。私はまだ修業の身です」

 しかし、実力を見せびらかす風もなく、千代は言う。

 「私は、これからも―光一郎殿と二人三脚で、健やかなる時も病める時も頑張っていきます」

 「おいバカやめろ」

 千代が、とんでもないことを言っていたのでぐにやめさせる。

 「……何故ですか?」

 「お前…それどういう意味かわかってんのか?」

 「……? 使い方を間違えていたでしょうか? 互いを高めあう二人が苦楽を共にする誓いだと聞きましたが?」

 「それ全然違うから……てか、そんなの誰に教わったんだよ」

 「進治先生です」

 「おい、進治さん」

 千代にデタラメを吹き込んだ犯人に、光一郎は呆れを含んだ視線を送る。

 「いやー、面白いことになるかもなぁーって……なりましたね♪」

 ……なりましたね♪、じゃねえよ…

 どこまでも人を小馬鹿にする進治と、どこまでも人を疑わない千代に、どっと疲れを感じる光一郎であった。

 「では、そんなラブラブなお二人」

 「ラブラブじゃねぇよッ!」

 声を張ってツッコムと、更に疲れが倍増した。

 進治の隣で千代が「らぶらぶ…? それはなんですか?」とか言っているが、対応するとまた疲労感が増すので、放置。

 「早速ですが――お二人に任務があります」

 『――任務?』

 進治が放った言葉に、光一郎と千代は聞き返した。

 「えぇ、詳細は追って伝えますが、お二人にはある場所に行ってもらいます」

 ……ある場所?…

 進治の声音に間延びした感じが無い。

 遊びではないのだ。

 本当の任務なのだと、確信し、覚悟しながら。

 光一郎は進治の言葉を聞いた。

 「お二人に行っていただくのは、神聖アルヴァレン王国の中心――」




 「王都アレステリアです」




 ××× ××× ×××


 

 

 アレステリア条約。


 それは、帝国暦1575年5月20日に。

 ヘイルスウィーズ大帝国。

 公国神威。

 神聖アルヴァレン王国。

 その三カ国の間で締結された――



 『終戦条約』。


 

 ことの発端ほったんは、帝国暦1560年。

 北のヘリオシス大陸に広大な領土を持つ、ヘイルスウィーズ大帝国――通称『帝国』が、西のアルヴ・パラディ大陸へと軍事侵略を開始した。

 帝国の侵攻に対し、アルヴ・パラディ大陸最大の国家、神聖アルヴァレン王国――通称『王国』は軍事力で対抗。

 しかし、進んだ魔導技術を持つ帝国の圧倒的な軍事力を前に、王国は防戦一方。

 約七年の間、後退を繰り返し、なんとか前線を維持する王国軍の敗北は必至だと思われた。

 しかし、帝国暦1567年。

 当時、不干渉と思われていた国が出てきた。


 東の東武大陸全土を領土とする、公国神威――通称『公国』だ。


 公国は王国との間に軍事協定を結び、これにより公国は帝国へと侵攻を開始した。

 独自の武術を発展させてきた公国軍の侵略に対応すべく、帝国は軍の大部分をヘリオシス大陸の東端に集中、公国の軍隊を迎え撃った。

 しかし、それにより、ヘリオシス大陸の西方面は手薄になり、王国軍に反撃を許すこととなる。


 東の公国。

 西の王国。


 二つの大国を敵に回し、帝国は窮地に立たされた。

 それは、世界最大の軍事力を持つ帝国といえど勝ち目のある戦いでは無かった。


 しかし、帝国は戦争を続けた。


 そこから――戦争は泥沼化していった。

 多くの戦いが起こり。

 多くの町が滅び。

 多くの人が死んだ。

 

 帝国の内だけでなく王国と公国の中でも、戦争に対する不安と不満の声が挙がり始める。

 そして、主戦場がヘリオシス大陸へと移り。

 戦火が帝国の領内へとひろがるのも、時間の問題と思われた。

 しかし、帝国暦1575年3月29日の第二次ベリオストル戦において、徹底抗戦をうたっていた第98代皇帝ジーク・フリート・ヘイルスウィーズが戦死した。

 国の指導者の死により、帝国は降伏を受け入れた。



 帝国暦1575年5月20日。

 神聖アルヴァレン王国の王都アレステリアにて。

 アレステリア条約が結ばれた。

 帝国の皇族の国外追放。

 王国と公国への領地割譲。

 奴隷性の廃止。

 以上の三つを帝国へ強制して、十五年も続いた戦争は終わった。




 そして、帝国暦1585年3月29日。

 そんな終戦の地。

 王国のみやこアレステリアへと、二人の男女が向かっていた。

 これから、一週間に一度のペースで更新したいと思います。

 気に入って下さった方はどうぞよろしくお願いいたします。

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