アキコさんと深夜くん 3
深夜の放った一言で再び俯いてしまった少女に、更に追い討ちをかけるように彼は突っ込みを入れだす。
「白目剥いて涎垂らして女子としてどうなの? 大体空き教室のアキコさんってなに? もしかして君の二つ名? 言っちゃ悪いけど、君、コーヒーよりネーミングセンス無いよ? あ、コーヒーってのは僕のマブダチね。ていうか君もしかして友達いないの〜?」
「うるさいわねっ!」
暫く耐えていた少女だったが、深夜の話の途中からぶるぶると震えだし、遂に彼の言葉を遮るように怒鳴った。
「私はね、空き教室で自殺した空き教室のアキコさんっていう幽霊なのっ! 怪談なの七不思議なのっ!」
「あっ……自称幽霊…………」
「ちっがーうっ!!」
深夜の可哀相なものを見るような目に耐えきれなくなったのか、アキコはペタンと床に座り込んでしまう。
「もうなんなのよ! 折角私が頑張ったんだから、怖がりなさいよっ! 私、金縛りもポルターガイストも苦手なのよ! 顔だって怖がらせたいから頑張ったのに……。うぅ……」
アキコの声に嗚咽が混じり始める。
「そ、そうよ。私には友達がいっ、いないわよ……! さ、寂しかったからっ、寂しかったから、ちょっと皆をっ、心配させたかっただけなのに……っ!! な、な、なのにっ、切りすぎちゃって……うわああああああっ!!」
長い黒髪を振り乱しながら泣きじゃくるアキコは幽霊でも怪談でも七不思議でもなく、ただの一人ぼっちの女の子だった。彼女の真っ赤に染まった左腕が痛々しい。深夜はそんなアキコを真顔で見つめると、彼女が取り乱したおかげで金縛りが解けたのか、無言で床に座る。そして黄色のセーラースカーフをしゅるりと外し、アキコの手首に巻く。だが、深夜は不器用なのか中々巻けないようだ。悪戦苦闘の末、ようやく巻き終わる。
「よし、出来た。アキコは黄色似合うね」
アキコは涙の浮かぶ瞳でスカーフの巻かれた左腕をまじまじと見つめる。
「アキコ、僕の友達にならない?」
深夜はいつになく真面目な顔をしていた。
「え……?」
「だって僕、アキコの事気に入ったんだ。だからアキコは僕の友達。はい、決定ー」
深夜はいつもの癪に障る笑顔に戻ると、元気よく立ち上がる。
「そうと決まったらさっさとここの改造やるよ。で、僕がスーパーデリシャスな珈琲淹れてあ・げ・る」
最後にウインクまで決めた深夜を見て、アキコの頬がぽっ、と赤くなる。
「しょ、しょうがないわね……仕方がないから手伝ってあげるわよ!」
アキコも勢い良く立ち上がり、深夜を手伝い始める。彼女の表情からは悲しみは消え去っていた。
――おい深夜、なんでお前一人なのに、マグカップ二個も出てんだよ?
――んー、アキコの分。
――アキコって誰だ?
――ひ・み・つ
不眠もミルクも、コーヒーでさえも知らない『アキコ』。深夜しか見たことのない彼女だが、彼が私室化した教室の戸棚には彼女専用のマグカップも用意されていて、かなりの頻度で出入りしているようだ。コーヒーはアキコを一目見ようと頑張っているようだが、一度もそれが叶った事はない。




