アキコさんと深夜くん 2
空き教室の掃除を早速始めていた深夜だったが、不意に動きをぴたりと止める。
「なーんか視線を感じるなあ? まあ僕が美しいからかな!」
常人なら背筋が寒くなるような、ねっとりした視線だが、深夜は一人で高らかに笑うと、また掃除を再開する。視線なんて全く意に介していないようだ。
「なんだろう、僕のこの美しさに惚れてしまった余り、ストーカーと化したとかってパティーンの人なのかなあ? いやー、分かるよ。だってゴールデン美髪に目も大きくて睫毛もバサバサ、おまけにスタイルまで良いっていう容姿端麗をそのまま人間にしたような僕なんだから、惚れるのは当たり前だよね!」
深夜はそのまま独り言を呟き続ける。そのまま自画自賛を続けながら掃除をしていたが、教室に備え付けてある掃除ロッカーが突然ガタガタと揺れ始める。
「なんだあれ?」
深夜が反応を見せると、ロッカーは更に激しく揺れる。その振動でロッカーの扉が開き、中から掃除用具が飛び出してくる。
「まあいいや。いやー、それにしても本当にストーカーだったらどうしようかなあ? またコーヒーと暫くいちゃいちゃしとこうかなあ」
深夜は明らかにおかしいロッカーをまあいいやの一言で済ませ、再び独り言を呟き始める。友人であるコーヒーを巻き込む気満々の深夜だった。面倒な事はコーヒーを巻き込むのが深夜とコーヒーの約束だ。
「あー、今度は男かな? 女かな? いやー、美しすぎるってつガッ!?」
突然、深夜の体に電流を流したような衝撃が走る。
「か、体が……動かない…………!?」
深夜の体は舌以外、指の一本でさえも自力で動かせないようになっていた。珍しく動揺している彼の目の前に黒セーラー服の少女が急に現れた。俯いているせいで顔はわからないが、少女の肌は土気色をしていてまるで生気が感じられない。少女はゆっくりと深夜に近付き、間近でスッと止まる。
「私、空き教室のアキコさん……あなたをお友達にしてあげる……」
そう暗い声で言った少女、アキコは顔を上げる。彼女は白目を剥き口から涎を垂らし、人からは遠くかけ離れていた。大抵の人間なら恐怖で全てを諦めてしまうだろう。だが、彼女には一つ大きな誤算がある。
「君、顔面酷いよ」
コーヒーあたりが聞いたら問答無用で殴ってきそうな、文字に現すと語尾にwが沢山付きそうな口調で深夜はそう言い放った。
少女の誤算、それはあの深夜が相手だった、ということだ。




