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終わりが見えて


 水気を孕んだじっとりした空気がカラッとしたものに変わる頃、生徒たちには夏休みがやってくる。

 夏休み直前のホームルームで担任から言い渡される注意事項もありきたりな聞き飽きたものばかりで、間延びした時間が流れる。普段は真面目に話を聴くミルクも、今日ばかりは気が抜けているようでぼおっとしている。


 聞き流されていく言葉の中に突然耳慣れない単語が飛び込んできて、ミルクは反射的に気を引き締める。続いて配布された二枚のプリントには「進路指導」、「進路希望調査書」と大きく銘打たれていた。大事な話だからよく聞くように、と前置いた担任は説明を始めていく。



 ホームルームは特に問題もなく終わり、ミルクはいつも通り隣のクラスにいる不眠を迎えに向かう。


 教室の窓際の席にいつものように座り、コーヒーと喋っている不眠に声をかけようとしたミルクは彼女の机に乗っている紙が目に入り、口を噤む。それはミルクのクラスでも配布された、進路希望調査のプリントだった。

 難しい顔をしてプリントを眺める二人の姿に、ずっと続くように思えていた今の生活の終わりが見えたような気がして、すっ、と頭の片隅が冷えたような感覚をミルクはおぼえた。


「ミルク、どうしたの?」


 ミルクに気づいた不眠が彼女に声をかける。普段と様子の違うミルクに不眠は不安げな色を声に滲ませる。


「な、なんでもないのですよ! それより不眠ちゃんとコーヒーくんは希望書(それ)、どうするのですか?」


 不眠の声にはっ、としたミルクはなんでもない風を取り繕って、彼女の気を逸らせるように会話を続ける。


「俺は就職だな。大学の金までお袋に出させるわけにはいかねえ」

「まだわからないけど、無難に進学かな。ミルクはどうするの?」

「私も進学でしょうか。行くなら文系ですねえ。でもまだ先の話だと思ってしまっていて、全然考えられないのです」

「じゃあ今を楽しめば良いんだよ」


 ため息をついたミルクに、いつの間にか後ろに立っていた深夜がそう励ます。


「今をしっかり作らないと当然先のことなんて見えてこないよ。見えてこないなら、まだ少しは時間があるんだし、のんびり楽しめば良いんだよ。それに夏休み中ずっと難しい顔して考え込んでたら、勿体無いしねえ」


 遊ぶ約束もしたでしょ、と深夜がウインクをしながら付け足す。


 今を楽しむ。

 先を見すぎて焦っていたミルクに深夜の言葉はすう、と染み込んでいった。


「ええ、沢山楽しみましょう」



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