雨音とてるてる坊主
昼休みまであと数分。授業も一区切りついてリラックスした空気が漂う教室で不眠は窓の外をぼんやりと眺める。しとしとと雨が振り続く空は灰色で、周囲の景色も一段階彩度を落としたように見える中、六月のほんの短い間しか咲かない紫陽花だけは鮮やかに存在を主張している。
不眠は梅雨が嫌いではない。寝不足の身体には湿気を含んだ、じとりとした空気は辛いものがあるが、夜通し聴こえる雨音は夜の退屈しのぎに丁度良い。
雨音に耳を傾けている間に授業も終わり、いつものように弁当を持ったミルクが不眠の教室まで訪ねてくる。来たり来なかったりする深夜も今日は一緒のようだ。
「雨、なかなか止まないのですねえ」
「あれ、ミルクは雨が嫌いなの?」
「髪の癖が強くなるのであまり好きではないのです」
お手製のサンドイッチを片手に唇を尖らせるミルクの髪は、確かにいつもよりゆるふわ具合が増している。
「ミルクは巻いてるみたいに見えるタイプの癖毛なんだから、そんなに気にしなくても良いんじゃないの?」
そう言って小首を傾げる深夜の金髪はうねりや跳ねもなく纏まっていて、蛍光灯の光を浴びてキラキラと輝いていた。
「禿げろ」
「アタシ、久しぶりに深夜を殴りたくなったかも」
「えぇー、酷いなあ二人とも。そりゃあ、僕のゴールデン美髪が羨ましいのは分かるけどさあ」
普段の三割増しで髪が跳ねているコーヒーと不眠の辛辣な言葉に不眠は大袈裟に傷ついた顔をするが、更に二人をイラつかせるような言葉を重ねる。
「癖毛の悩みはストレートの深夜くんには分からないのですよう……。本当に羨ましいのです」
ミルクは自分の毛先を摘まんでは飽き飽きしたようにため息をつく。暫くその様子を思案顔で見ていた深夜だったが、立ち上がりコーヒーの机からティッシュ箱を持ってくると、二枚抜き取る。
「おい俺のティッシュ」
「まあまあ、いいじゃないちょっとくらい。あ、ミルク。ソーイングセット持ってるよね。糸ちょっと頂戴」
深夜はミルクから青色の裁縫糸を貰うと、抜き取ったティッシュのうち一枚をクシャクシャに丸めてもう一枚で包み込む。裁縫糸で口を縛って、ポケットに入れていた青ペンでぐりぐりと大きな目を描き入れる。
「わあ……!! てるてる坊主なのです」
深夜は出来上がったてるてる坊主を満足げに見つめると、ミルクにぽいっと投げて寄越す。突然の事に驚いた彼女だったが、なんとか落とさずに受け止める。
「いいのですか?」
「勿論。僕が作ったんだから、効果てきめんさ! なにせ晴れ男の僕と同じ瞳の色をしてるんだからね」
てるてる坊主を大事そうに両手で持って礼を言うミルクに深夜はキメ顔でウインクをする。コーヒーは調子に乗っている深夜を横目に見ながら、今にもうぜぇ、と言いそうな顔で弁当を黙々と食べている。
ふと、ずっと聞こえていた心地良い音が止まったのに不眠は気づく。
「それ、早速効果あったみたいだね」




