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衣替えをしましょう

 まだ薄暗い部屋の気だるげな空気を切り裂くように目覚ましのベルが鳴る。そのけたたましい音にミルクは意識を浮上させられる。

 普段起きる時間より幾分早い時を示す文字盤を見て布団を被り直したミルクだったが、今日はなんの日か思い出してまだ眠い目を擦りながらベッドから這い出る。


 今日から六月。衣替えの日だ。いつもならまだ夏服には寒い事の方が多かったが地球温暖化の影響か、夏服が丁度良い気温になっている。

 半袖のシャツにベージュのニットベストを重ねて、冬物より軽やかな素材に変わったスカートは昨日より心持ち短めに。いつもは下ろしっぱなしの髪もチョコレート色のシュシュで低い位置で二つに結った。


「準備万端なのです」



 自分の教室に着いて鞄を置いたミルクは、先に着いているであろう不眠に会うために隣のクラスに向かう。


「あれ、深夜くんにコーヒーくん。どうしたのですか教室の外(そんなところ)で」


 ミルクは廊下から教室の中を覗いている深夜とコーヒーに声を掛ける。深夜はイタズラっぽく人差し指を立てるジェスチャーをしつつ、もう片方の手で教室の中をさす。こっそりね、と深夜に指示されたミルクはその通りに中の様子を窺う。中には不眠と一馬がいた。


「一馬くん、また遊びに来ているのですね」


 この春に入学してきた一馬は迷子になっていた所を不眠に助けられた一件から度々彼女の元に訪れ、世間話をしたり野球の自主練習に付き合って貰ったりしている。今日もきっと喋りに来たのだろうと判断したミルクは二人に悪いと思いながらも会話に耳をそばだてる。


「不眠先輩は夏服も変わらずジャージなんですね」

「いや、ちょっと変わるよ。布が違う」

「そうなんですか? ……それにしても、この学校は自由な格好の人が多くて吃驚しました」


 彼らの通うこの学校は校則がゆるゆるで制服を着崩したり、不眠やコーヒー、深夜のように最早制服を着ていない者も少なからずいる。だが、余程TPOを無視した服を着ていない限り、生徒指導を受けることはない。


「アタシにとってはジャージのが楽だし、校則緩くてありがたいんだけどね」

「でも俺は先輩の制服が見たかっ――」

「おい」


 一馬の言葉はいつの間にか教室に入って来ていたコーヒーによって遮られる。


「あ、コーヒーおはよ。……夏服は?」

「昨日とは布が違げえんだよ、布が」

「へえ」

「あの、」


 再び不眠に話し掛けようとした一馬をコーヒーはギロリと睨み付ける。コーヒーの威圧感に一馬はすっかり萎縮してしまったようだ。


「お、俺そろそろ教室の方戻りますね!! お邪魔してすみませんでした!!」

「そう? 楽しかったよ。また暇な時にでもおいで」

「はい、ありがとうございます!」


 廊下に出た一馬はそこにいたミルクと深夜に驚いた様子を見せたが、ぺこりと一礼すると一年生の階へと向かっていった。


「…………深夜くん」

「うん、そういうこと。

 あの後輩くんはちゃんと自覚してるけど、コーヒーは全然だろうね。ついでに不眠もそんな感じだろうね」


 ミルクの微妙な表情だけで深夜は彼女の言いたい事を理解したらしい。スラスラと彼女の疑問に答えていく。


「コーヒーが自覚した時にどんなリアクションするか楽しみにしてるから、まだナイショにしててね」


 そう言って笑う深夜の目は優しい光を宿していた。




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