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言葉は夜闇に溶けて


 空はオレンジ色に染まっていて、眺めていると寂しさがじわじわと湧いてくる。もう家に帰る時間だ。

 校門を出たら帰り道が正反対の為、いつもは男子陣と女子陣で別れるのだが、今日は違う。四人ともがいつも女子陣が辿る道を進む。普段通らない道が新鮮なのか、深夜はフンフンと鼻歌を歌っている。コーヒーもいつもより機嫌が良く、深夜が自転車(愛車)に荷物を勝手に積んでもあまり怒らず、そのまま運んでやっている。


 程なくして四人は不眠の家に着いた。部屋に通し、順番にシャワーを浴びてそれぞれが人心地ついた頃、ミルクがパンと小さく手を鳴らす。


「それではパジャマパーティーの始まりなのですよ」



「不眠の親は滅茶苦茶仲良いんだね。僕ん家なら結婚記念日に食事は行っても、旅行は中々しないよ」

「何時もならうちも食事だけど、今年は二十年目だから。それに、こうやって皆で遊べるんだから都合良いでしょ」

「でも、おじさんとおばさんの仲が良いのは本当なのですよ。見ているとこっちが恥ずかしくなってしまう位なのです」


 羨ましいのです、と頬を緩ませるミルクに、そんなに良いか、と不眠は首を傾げる。



「結局パジャマパーティーって何するんだよ」

「部屋着でお茶を飲みながら喋る感じらしいけど」

「何時もと変わんねえじゃねえか」

「お茶も好きだけど、僕的には今はディナーが良いかな」


 確かに学校から帰ったばかりの彼らの腹は空腹を訴えている。まだまだ育ち盛りの彼らにはお茶で空腹感を誤魔化すのにも限界がある。


「さっき母さんからメール来てたんだけど、冷蔵庫に食材詰めておいたから勝手にしていい、ってさ」


 冷蔵庫を確認してみると、中には野菜や肉が沢山詰められていた。


「ではお言葉に甘えてそれを使わせて頂くのです。簡単に作ってしまって良いですか?」

「ミルク、俺も手伝うぞ」


 手早く髪を纏めて台所に立ったミルクに白長ランを脱いだコーヒーも続く。手際よく料理をする二人を不眠と深夜は少し離れた所で眺める。


「コーヒーって料理出来たんだ」

「ザ・男の料理みたいなのしか作れないけど意外だよねえ」


 豪快に野菜を切っていくコーヒーの手つきになるほどと不眠は頷く。


「深夜は作らないの?」

「僕は多才だから作れなくはないけど、軽食と珈琲の方が得意だからね。それに三人も台所に並ぶと流石に狭いからね」



 程なくして湯気を立てた料理が食卓に並べられる。最後に大皿にこんもりと盛られた野菜炒めを食卓の真ん中に置くと、全員が席について食べ始める。

 熱々の料理は簡単な味付けだが友人と食べる事で何倍も美味しく感じる。どんどん箸が進んで、かなりの量があった筈だがあっという間に皿は空になった。


 後片付けは料理をしていない深夜と不眠が担当だ。普段から片付けをすることが多い二人は作業を分担しながらテキパキと片付けていく。




 パジャマパーティーのお供はミルク特製のホットミルクと紅茶、深夜が淹れた珈琲だ。大きいポットになみなみと淹れれば準備は完了だ。四人はそれぞれ好みの飲み物をカップに注ぐとリラックスした体勢を取る。


 喋る事は他愛のない内容ばかりだ。担任のハゲ疑惑、クラスで起こった笑える話、流行……グダグダと話しては時たま黙り、テレビをつけてみたり、時間はゆるりと進んでいく。




「あれ、ミルク寝ちゃった?」


 時計の短針が真上を向き始めた頃、深夜がミルクに声をかける。机に突っ伏したミルクからは返事はない。


「今晩はオールするって言ってたのに、しょうがないなあ」

「ミルク普段から早寝早起きだからだいぶ頑張った方だよ」


 不眠はミルクを起こさないようにそっと床に寝かすと、取ってきた毛布を掛けた。床に寝かされたミルクはもぞもぞと動くが、収まりの良い体勢を取るとまた規則正しく寝息を立て始める。その様子をにこやかに見ていた不眠は、起きている二人の方へ向き直るとしーっ、と人差し指を立てる。


「これからはちょっと静かにいこう」



**


「まあやっぱこうなるよね」


 不眠の目の前には床に転がって寝息を立てる深夜とコーヒーがいた。部屋の時計は午前三時頃を指している。不眠はミルクにしてやったようにそっと二人に毛布をかけていく。

 三人共寝相は良いが、不眠にとって友人の寝顔は見ていて飽きないものだ。


 気の良い友人達は自分が一人きりになることを心配してこのパジャマパーティーを開いた事を不眠は理解していた。


「ありがとう」


 不眠の言葉は誰にも聞かれずに夜闇に溶けていった。



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