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昼休みと膝枕

 ある日の昼休み、弁当を入れた巾着を持った深夜はふらりと教室を出て行く。彼のクラスメイト達はその姿を見て、いつものように友人である、あのコーヒー(不良)の元へ向かったのだろう、と推測する。だが、彼の目的地はコーヒーの待つクラスではない。


 深夜は学食や購買に向かう人の間を縫うように歩きながら、ポケットからスマホを取りだし、ラインを起動させる。


『僕今日はアキコとお昼するから、コーヒーは不眠達と食べといてよ

 あ、僕がいないからって泣いちゃ駄目だよ? そりゃ、この美しい僕がいないとご飯も美味しくないだろうけど

 じゃあよろしくー』


 手早くコーヒーとのラインに顔文字を多分に盛り込んだ文章を打ち込み、ついでとばかりに無意味にスタンプを連打する。


『うぜえ

 了解』


 通知が五月蝿かったのか、すぐにきた返信を確認すると、深夜はまたポケットにスマホをしまう。



「やあアキコ。麗しい僕が遊びに来たよ」


 深夜が誰もいないいつもの空き教室に声をかける。


「まだ昼休みよ」


 誰もいなかったはずの教室から返事が返ってき、ソファーにアキコがすぅっと姿を現す。


「知ってるよ。今日はアキコとお昼食べたかったんだ」

「ご機嫌取りも大変ね」

「そんな事言わずにさあ」


 アキコの隣にストン、と座った深夜は弁当を広げ、手を合わせると早速食べ始める。


「……いつ見ても女子みたいな弁当ね」


 プチトマトに甘い卵焼き、アスパラベーコンにはカラフルなピックが刺さっている。深夜の弁当はサイズこそ一般的な男子の物だが、中身の彩りやメニューは完全に女子の弁当だった。可愛らしい弁当にアキコの視線が注がれる。


「藍さん……母さんの趣味だからね。美味しいから別に構わないけど。あ、アキコも食べる?」


 深夜は口に放り込もうとしていた卵焼きをアキコの口元へと持っていく。所謂「あーん」の形だった。

 アキコは状況が掴めないらしく、数秒キョトンとしていたが、すぐに顔を真っ赤にさせた。


「ななななにそれ!?」

「あれ、いらないの? 母さんの卵焼き甘くて美味しいのに」

「い、いるわよ!」


 引っ込めようとした深夜の手をアキコは両手で掴み、そのままパクリとかぶりつく。

 その様子を嬉しそうに観察する深夜に、アキコは複雑な気持ちになる。アキコは幽霊だ。幽霊に栄養など要らないし、勿論、人と同じように物を食べるという事は出来ない。彼女は食べ物の生気を食べている。見た目には減らないが深夜曰く、味がなくなるらしい。尤も、アキコ自身もそれを知ったのは一緒に食べる相手が出来てからだが。


「美味しい?」

「ええ」


 卵焼きを飲み込んだアキコが頷くと、深夜は益々嬉しそうに笑う。


「あとはアンタが食べなさいよ」

「えー」

「えー、じゃないわよ。大体、私には栄養なんて要らないんだから勿体ないでしょ」

「一緒に食べるから美味しいんだけどなあ」

「食べ物無駄にしている気分で私が居たたまれないから一個で十分よ」


 その後もなにかと食べさせようとしてくる深夜をアキコはかわしながら弁当が平らげられていくのを眺める。




「デザートも今日は持ってきたんだ」

「あら、柏餅。時期に合ってて良いわね」


 弁当の蓋を閉じた深夜が巾着から柏餅が二つ入りのパックを取り出し、一つをアキコの手のひらに乗せる。渋い緑色にくるまれた白い餅の彩りが目に楽しい。実際に食べる事は出来なくても、モチモチとした食感と甘い柏餅の味は魅力的だった。


「よっと」


 座っていた深夜が不意に寝転がる。彼らが座っているのは二人掛けソファーなため、自動的にアキコの膝を枕代わりにする事になる。彼女のひんやりとした膝を堪能しつつ、そのままの体勢で柏餅を食べようとした彼の頭をアキコはペシンと叩く。


「喉詰まらせるわよ」

「あれ? 恥ずかしがらないんだ。意外」

「恥ずかしがってる間にアンタに死なれたら困るわよ。ほら、食べるんなら起きなさい」

「じゃあ今は食べなくていいや」


 深夜は寝たままの体勢で柏餅をローテーブルに戻す。そして収まりの良い位置を探すように何度か頭を動かす。深夜は涼しい顔をしているが、アキコは堪ったものではない。スカート越しに伝わる彼の髪の感触がくすぐったい。なにより恥ずかしい。彼女は自分の顔がどんどん熱くなっていくのを感じた。


「アキコ、顔真っ赤」


 クスクスと笑う深夜の頭をアキコは左手で熱い顔を隠しながら右手で再び軽く叩いた。



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