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夜桜と春休みの終わり


 不眠の夜は長い。

 誰も彼も寝静まる時間ですらも、不眠の活動時間だ。彼女は夜が好きではない。普段は音楽鑑賞などで気を紛らわせているが、偶には耐えられない時もある。しん、と静まり返った真夜中は、自分は世界にたった一人になってしまったのではないか、と彼女に錯覚させる。そんな時は自分の部屋に閉じこもってはいられずに、外に飛び出す。勿論、家族に知られては心配される為、こっそりとだ。


 今夜、不眠はふらりと外に出ていた。夜風が木々をざわざわと揺らす。空は曇っていて星は見えない。夜特有のひんやりした空気で頭を冷やしながら彼女はてくてく歩いていく。


「あ、桜……」

 彼女が立ち止まったのは家からそこそこに離れた位置にある広場。中央には桜の木が植えてあり、その周りを囲むようにベンチが設置されている。花びらが次々と散っていく桜の木を雲の切れ間から顔を出した月がぼんやり照らす。

「綺麗」

 不眠はその幻想的な風景に引き寄せられるようにベンチに仰向けに寝転がる。真下から見上げる桜もまた格別だった。夜風が彼女の頬を撫でる。

「明日、いや今日から学校か……」

 そう呟いた不眠の声には嬉しさが滲んでいた。普通の学生ならば春休みの終了は嫌な事に分類されるのだろうが、彼女にとってはそうではない。彼女にとって、春休みはただただ退屈なだけだ。

 学校に行けば、かなり個性的なクラスメート達がいる。彼らと過ごす学校生活は突飛な出来事の連続で不眠なりに愉快に思っていた。それになにより、学校には彼女の友人がいる。ミルクと深夜と話すのは面白いし、コーヒーとの喧嘩(じゃれあい)も楽しい。


「早く朝にならないかな」

 朝になったら学校に行って。私より早く着いてるミルクに会いに行って、暫く喋ってたら深夜とコーヒーが一緒に登校してくるから取り敢えずコーヒーに殴りかかって……と、不眠は今朝からまた始まる楽しい日常生活に思いを馳せていると、鼻の頭に花びらが落ちてきて、ふと我に返る。

「さむっ」

 不眠は不意に寒さを感じて身震いする。夜風で体がすっかり冷えたようだ。彼女はベンチから体を起こし、立ち上がる。どうやら帰るつもりらしい。不眠は最後にもう一度桜を見上げると、来た道をゆっくり引き返していった。


 不眠の家まであと少しの所で突然鼻がむずむずとし、くしゃみが出る。ずずっと鼻を啜りながら彼女は首を傾げる。

「風邪、ひいたかな」




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