コーヒーくんと深夜くん
「…………」
今時珍しいと言うか、最早絶滅危惧種である白長ランを纏った少年、コーヒーは放課後の自転車置き場で愕然とする。
コーヒーの自転車のサドルは外され、代わりに人参が差してあった。
「お、おいコーヒー……その、元気出せ」
「飴、いるか?」
それを見たクラスメートも流石に不憫に思ったのか、コーヒーに声をかける。
「ああ、大丈夫だ……あと飴ありがとう」
コーヒーは人参を引き抜くと、そのまま自転車置き場を後にした。コーヒーの経験上、こういうイタズラをするのはただ1人だ。
コーヒーが向かったのは、過去に幽霊騒ぎがあったとかで今はもう使われていない教室。イタズラの仕掛け人はここを勝手に私室化している。
「オイコラ深夜!!」
「…………」
勢い良く教室に入ったはいいが、コーヒーの声に返ってくるものは無かった。
「いないのか……? いやでも鍵開いてたし……、って寝てんのかよ」
深夜は入り口に背を向ける形で配置されているソファー、つまりコーヒーの死角になる位置で寝ていた。男物のセーラー服の黄色いリボンが寝息に合わせて僅かに上下している。コーヒーはいつもは五月蠅い深夜が静かなのが物珍しく、思わず彼の顔をじっと見つめる。男子にしては長い金髪に同じく金色の睫毛。
「寝てたらまだマシなんだけどよ……」
「それって僕が美しいって事だよね? 知ってるよ」
コーヒーが深夜の顔にかかった髪を払おうと伸ばした手は、他ならぬ深夜に捕まえられる。瞼に隠されていた青い色の瞳がコーヒーを見据え、人のカンに障る笑みを浮かべている。
「起きてたのかよ」
「今起きたんだよ。で、コーヒーはなにしに来たの? 人参とか持っちゃってさあ。新しいキャラ付け?」
深夜はソファーから上体を起こしながらコーヒーにそう訊く。
「この人参は手前のだろうが! 俺の自転車のサドル返せ!!」
コーヒーはこめかみに青筋を立てながら深夜に詰め寄る。
「なにソレ? この僕が犯人だって証拠はあるの?」
「じゃあ手前じゃねぇ、ってのか?」
「いや、僕がやったけど?」
深夜のなに言ってんだコイツ、とでも言いたげなキョトンとした顔にコーヒーはどこかがブチリと切れた音を聴いた。
「ああ、ごめんごめん。お詫びに珈琲を淹れて差し上げるから許してよ」
コーヒーの表情に流石にマズいと思ったのか、深夜は謝罪になっていない謝罪をする。
「…………チッ。ブラック以外は認めねえぞ」
深夜のお粗末な謝罪にコーヒーは自分を抑える。珈琲の準備を始めた深夜を横目にコーヒーはソファーにどっかりと座る。
「ったく、後でサドル戻しとけよ」
「わかってるわかってる。それにしても珈琲一杯で許してくれるなんて、やっぱり僕は美しいんだね!」
「やっぱり一発殴られるか?」
「ゴメンナサイ」
うざい言動を繰り返しながらも楽しげに珈琲を淹れる深夜に、乱暴な言葉ながら深夜の話に相槌を打つコーヒー。二人はなんだかんだで仲良しだ。




