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タピオカを飲もう


「ここはこの公式を使って――――」

 数学教師の眠くなる声をコーヒーは聞き流す。あと数分でチャイムが鳴り、昼休みになる。彼のクラスメイト達もそれを楽しみにしているのか、そわそわと落ち着きがない。

 机の中に入れていたコーヒーの携帯が一瞬震える。メールが届いたようだ。コーヒーはこそこそと画面を確認する。

『放課後、新しく出来たカフェにタピオカ飲みに行くんだけど、どうせコーヒー暇人だろうし、一緒に来てもいいよ? ひ・ま・じ・ん(笑)だろうしねwww

 校門に集合ね』

 カラフルな絵文字がやたらと使用されたメールを見ると、どうやら深夜からの放課後の遊びの誘いだったらしい。最近、彼等の学校の近くに出来たカフェ。学校の近くというだけあってタピオカやパフェ、ドーナツ、クレープ等、高校生を狙ったメニューが充実している。値段も手頃で味も良く、内装も可愛いと早くも評判になっている店だ。深夜も評判を聞きつけたらしい。

 コーヒーは自分と深夜が二人きりでカフェで寛ぐ姿を想像してみる。可愛い内装の店に白長ランのコーヒー、そしてやたらとスキンシップの多く、見た目は可愛い深夜。周りは甘い物を求める女子が多いだろう。

「ないわー……」

 色んな意味で好奇の視線に晒される事だろう。コーヒーはそれを回避するための作戦を立て始める。



 昼休みになり、クラスの大多数は教室から出て行く。今日から学食のメニューに加わった唐揚げマヨネーズ丼を食べに行ったのだろう。新しい物好きの彼等らしい。不眠もそのつもりらしく、のそのそと学食に行く準備をしている。コーヒーはそんな彼女に声をかける。

「おい不眠」

「なに?」

 不眠から繰り出された鋭い突きをバシリと手の平で受け止めながら、コーヒーは淡々と用件を言う。

「深夜の奴が放課後、タピオカ飲みたいんだとよ。あの新しく出来た店な」

 コーヒーが考えた作戦、それは不眠とミルクを誘う事だ。男子二人で目立つなら、女子も一緒にいれば、甘党の女子に連れられた男友達というよくある図式が出来上がる、そう考えた。だが彼はそもそも、目立つ人間がグループになっている事が人の視線を集める理由だという事を知らない。

「あー、あそこね。悪いけど、今日はミルクと映画見に行くからまた誘って」

 コーヒーの作戦はあっさりと失敗に終わる。彼に気軽に遊びに誘える女友達は不眠とミルクしかいない。深夜の友達に『アキコ』という女子がいるが、コーヒーは面識がなかった。完全に詰みだった。

「まじかよ……」

 コーヒーはがっくりと肩を落とした。



「コーヒー遅いよ! あ、もしかして迷子?」

 放課後、コーヒーが待ち合わせ場所の校門に着く頃にはもう深夜が待っていた。

「もうすぐ一年も経つのに迷うかよ。葆積(ほづみ)の黒板掃除手伝ってやってたんだ」

「ああ、ほづみんね。あの子黒板の一番上まで手が届かないくらいリトルサイズだもんねえ。へえ、あのコーヒーが手伝ってあげてたんだ?」

「ニヤニヤすんな」

 ニヤニヤと笑う深夜をコーヒーは軽くいなす。

「て言うかさ、コーヒーなんで教室(なか)と外で同じ格好なわけ? 馬鹿なの?」

 深夜はもふもふの耳当てにミトン、長いマフラーをぐるぐる巻きにしているが、半ズボンのせいで寒そうだ。対してコーヒーはいつもと同じ白長ランでマフラーすら巻いていないのに、ケロリとしている。

「馬鹿ってなんだよ。ファイヤーテックの力だよ」

「あっそ。どうでもいいから、これ着けといてよ。見てて寒いんだけど」

 深夜は耳当てを外してコーヒーに押し付ける。

「いらねぇよ」

 コーヒーは押し返そうとするが、深夜は頑として受け取らない。コーヒーは渋々だが、耳当てを装着した。もふもふの耳当ては意外にも彼によく似合っていた。

「よし、じゃあまあ出発ー」

 深夜はコーヒーが耳当てをちゃんと着けたのを見ると、彼の肘の辺りの布を引っ張ってズンズン歩き出す。


「へえ、結構混んでるねえ」

 ものの数分で到着したカフェは噂通り落ち着いた色味で統一された女子が好きそうなデザインの内装で、実際席の殆どは女子高生達で埋められていた。

「先に席探すぞ」

「いや、いいよ」

 深夜はさっさとカウンターへと向かうと、店員にオーダーを始める。

「タピオカのミルクティーが二つとコーヒー。あとチョコバナナクレープを三つ、テイクアウトでよろしくー」

「かしこまりました」

 店員はそう返事をすると手早く品を出してきた。この早さも人気の一つなのだろう。深夜は商品の入った袋を受け取ると、コーヒーの元に戻ってくる。

「おい、勝手に注文するなよ……。つか何で三人分なんだ?」

 だが、注文したかった物は合っているのでコーヒーも強く言えない。どちらかと言うと、注文が三人前になっている事の方が気になった。

「アキコの分。お礼に買って来いって言われたからねー。冷蔵庫入れとけば、明日くらいまでなら保つだろうし」

「アキコ、な。一体どんな奴なのかくらい、いい加減教えろよ」

「んー、ひ・み・つ」

 深夜は立てた人差し指を口元に持って行くと、悪戯っぽく笑った。

「あ、そうそう。ねえコーヒー」

「なんだよ」

 またアキコの正体をはぐらかされたコーヒーはややキレ気味で返事をする。

「アキコに教えて貰ったんだけど…………まーた僕にストーカーついてるらしいんだよねー。嗚呼、美しいってホントに罪だよね」

「おまっ!? 早く言えよ! いつからだ!?」

「えーと、昨日くらいかな?」

 さらりと告白された深夜の言葉にコーヒーは目を剥く。そんなコーヒーの様子に深夜はあはは、と軽く笑いながら返す。

「だから早く言えって……。それでテイクアウトかよ……」

 ストーカーが店の中にまで入ってくる可能性はゼロとは言い切れない。そのストーカーがもし過激な人間だった場合、下手をしたら店にまで被害が及ぶ事もある。深夜が入り浸っているあの空き教室でなら周りへの被害も出にくいし、自衛もしやすい。それを見越してのテイクアウトだった。マイウェイを爆走する深夜なりの周りへの気遣いだという事もコーヒーは知っている。彼は短く嘆息すると、深夜の持っている商品の入った袋を奪い取る。

「ほら、さっさと学校に帰って作戦会議すんぞ」

 深夜は少し嬉しそうに笑うと、先を歩き出したコーヒーの後を追う。

「コーヒーって、やっぱり僕の事好きでしょ?」

「うるせーよ。勘違いすんな」




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